846セブンス。妖刀

最近、不穏な噂が流れている。
ここ、新緑の映える街、グリダニア。
夜な夜な、人死が出ているのだと。
それも、左肩から右脇腹まで鋭利な刃物で一撃。
ゴシップ誌「週間レイヴン」でも取りざたされ始め、すでに一周が過ぎたものの、一向に犯人のメドが立たず、
グランドカンパニー総帥のカヌ・エ・センナまでもが「夜間の外出を控えてください。」と告知を出したほど。
そこに持ってきて、かの「天魔の魔女」を招聘して対策も練る、とまで。

「なあ、ミッター?」
名刀「天の叢雲」を振るう恋人に。
「なあに?」と茶色い髪の青年。最近は色気づいたのか長髪気味にして、「タトゥ入れてもいい?」などと抜かし、鉄拳をもらっているが。
「お前、この記事読んだか?」とゴシップ誌。
「ああ・・それね。むしろ、黒姉ちゃんが怪しまれないか心配だよ。」
「私がこんな辻斬りなんぞするものか。」
「いや・・・その刀、妖刀って噂のやつでしょ?無意識にふらふらっと、なんて・・・」
「お前の方こそどうなんだ?練習とか言って。」
「うわ!そんな!ないよ!だって、この刀で斬ったことあるのって、外の魔物くらいだよ!疑ってる?」
以前には暗殺稼業の手伝いで、人を殺める手伝いをさせたものだが、今では外での魔物の駆逐が仕事になっているミッターク。
魔女がそういう風になるよう計らいを。
とりあえずは、自分は「いないもの」として、この街での生活をしているわけだが、当然のように前みたいな暗殺の依頼なんて来ないし、情報も無い。
すっかり隠遁生活になってしまい、最近では何か仕事として料理店でもやりたいな、くらいか。
愛刀として使ってきた「雨の叢雲」も弟子であり、恋人でもあるこの青年に渡してしまったし。
最近は魔女にも弟子入りし、不殺の心構えも叩き込まれたので、確かにこの辻切りに堕ちてはいないだろう。
自身も、妖刀「村正」を佩いているとはいえ、日々の鍛錬くらいにしか振るっていない。
そもそも、夜な夜な街まで出かけるほどヒマというか、手間はしたくない。自炊が基本で、かつ森の中にあるこの「魔女の家」から街まではそれなりに距離もある。
人殺しのためだけにいちいち行ってられない。
そんなことより、魚の一匹、森の動物を相手にする方がよほど健全だというものだ。

しかしながら・・・
この魔女がついでに「見ておけ」と言ったゴシップ誌。確かに気になる。
この切り口からすれば、やはり「刀」だ。袈裟斬り。
自分や恋人以外に刀の所有者といえば、妹くらいしか思いつかない。
しかし、妹は今、商家に嫁ぎ、刀を振り回しているとも思えない。さらに自分よりも優しい性格。
「誰?」

「・・・誰かな?」
「ミッター。」
「うん?」
「今夜、街に出る。」
「え?」
「この輩は夜に犯行に及ぶ。そろそろ獲物が出てこなくなって来るんだろ?カヌ・エが宣言したし。」
「ああ、そういえばそうだね。」
「なら、私が絶好の獲物になる、だろ?」
「そんな無茶な!」恋人を抱きしめる。
「まあ心配するな。元「刀の主」をそうそう殺める事のできる奴はいないよ。」
「うん・・・・」


深夜。
着流し姿で歩く黒雪。少し薄暗がりに人影が。
茶色の髪は少し長く、刀を佩いている。
(まさか!ミッター?)
こちらを見つめ、抜刀する。

ガキン!
刃同士がぶつかり合う。

「黒雪!」
突然の事に硬直する。
抜刀すらできず、呆然と見守る。
「コイツだ!」
黒雪の背後に迫っていた影。
今にも背後から切かかろうとしていた輩に「天の叢雲」で対峙する恋人。
「ミッター!」
「黒ねえちゃん!カンが鈍ってない?」笑いながら。
剣戟を続ける青年。
もともと一人で出歩く事によって「敵」を誘い出すというプランだったのだが。まさか恋人がその手伝いをしに出てくるとは。
「あのゴシップ誌にあったろ?被害者は全部女性だって。だったら、俺は姉ちゃんの影を護衛してればいいって。」
「お前。」
「魔女様の教育のおかげ、かな。少ない情報から、敵の行動を割り出す。そして裏をかく。」
剣戟は続く。
加勢したいところだが、今ヘタに手を出せば、逆に邪魔になるだろう。
見極める。相手が何者かを。
背丈はミッドランダーか?
「壱の太刀から五の太刀!」燕飛から、陣風か。
よくやる。
恋人の成長に少し涙が。

相手が少しひるんだ隙に、こちらも手出しを。
「九之太刀。花車。」
村正が煌く。が、峰打ち。

倒れた相手を見る。
女性のようだ。
まさか!
東方の着物を着た女性は、もしかして・・・・・

いや。白雪ではなかったが・・・
知り合いではあった。
確か白雪の親友だったはず。
「夕鶴!」
「あれ?あたし・・?」
刀を手放した彼女は、心底不思議そうに。
「お前・・・この刀・・・」
「え?どうしたの?えーと、あたし、白雪がこの街にいるって聞いて、しかも結婚したって。それで来たのに・・・なに?何がなんなの?って、黒雪さん?もう深夜?」
「お前・・・」「黒姉ちゃん、どうなってんの?」
「妹の親友だ。」「え!?」
「えーっと?その?」
「いいか?お前はその刀の魔力に囚われて、この街で夜な夜な辻斬りをしでかした。」
「えええっ!?」
「その償いはいくらでもする機会はあるだろ。とりあえず、私の家でかくまってやる。ほとぼりがさめたら、出頭するなり、国に帰るなりするといい。」
「・・・・・ああ、あたし・・・なんてこと・・・・」すすり泣く。
女性の背をさすり、あやしながら。
(この一刀。一文字、か。)名刀として名高い。
しかしながら、人を殺め過ぎた刀は「妖刀」となる。
腰の「村正」もその一本だが。
(妖刀の魅力にとり憑かれたか・・・)
「ミッター、その刀を折れ。コイツは妖刀だ。」
「いいの?」
「お前がそれを持って狂ったら、私がお前を斬るハメになる。それだけはイヤだ!」
「・・うん。」
叩き折られた刀をそのままに、「家」に戻る。「ヨル、ただいま。」にゃあん。
「しばらく、この子の相手をしてやってくれ。」にゃあ。
ふう。今夜はびっくりの連続だなあ・・・

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