819セブンス。なんかグルメな日常。

木箱。
東方ではなく、ラザハンからの便。
「ふーむ。」
グレーの髪のミコッテの女社長、エリス・ローウェルは適正よりも少し高いかもしれない商品だったが、リストアップされた中からこれをチョイスして仕入れていた。

ウルダハに新規事業として展開した「アリティア物産」だったが、その本社社長の出身地でもあるラザハンの品、というだけでも少し以上に興味が惹かれたから、だ。

後ろから。「社長。」と、エレゼンの女性。モスグリーンの髪を長く伸ばした彼女は冷静な秘書として、十分以上に役にたっている。
「どうしたの?イドゥン?」
「いえ。今回の辞令ですが・・・」
彼女は晴れて「ローウェル」の家名を授かる事に。という事は、もしかすれば新事業の経営を任されることも・・・いや、自分が降格されて、彼女がここの社長・・・?怖い・・・
「あ、ああ!それね!」動揺がバレていないことを祈ろう。
「次の休暇に、ではなく明日ということですが。」
「あ、そうねえ。」
「2,3日居なくなる可能性も考慮して、次席に業務の手配をしておきました。」
「そ、そう。ご苦労様。」
日も暮れ、そろそろ終業だ。もっとも、社自体はほぼ一日中稼働しているが。
それも、この秘書あってのことだ。その彼女が本社に行くとなれば、さすがに閉店せねばなるまい。
そう考えると姉、セネリオは社長秘書として24時間働き続けているのでは?と考える。せねっち、スゴすぎ・・・。

だが、それはさておき。
この木箱だ。
中身はといえば・・・・ワイン。
これも、実はといえば半分は本社でさばいてもらおう、なんて仕入れた物、というよりプレゼントに近い。
24本しか入っていないワインは、少し変わった製法で作られている。
しかも、社長の故郷の逸品だ。イドゥンが本社に行くならついでに送っておこうと。
「シェリー」と呼ばれるワインは、普通のワインにブランデーを足して、樽で長期熟成させたもの。銘柄は・・・「リソ・デ・アクア」らしい。
意味はよくわからないが、かろうじて読める単語だけを拾って読めばそういう銘らしい。「さざ波」と呼ばれるワインと共に、チョコレートも入荷している。
なんでも、このワインと最高の相性らしい。こっちは・・「アモル」だそうだ。これも高級菓子で、その辺とはやはりモノが違う。
そして・・
「ね、イドゥン?今夜少し乾杯とかしようか?」
目の前の木箱を指差し。
「・・・商品に手をつけるんです?」
「いや、味見!味見よ!それに、送り出すのに何もナシって、だめじゃないかにゃ?」
「訛り・・・出てますよ?」
「気のせいにゃ!って、あ、にゃあ・・・。」
「分かりました。可能な限り業務を早く終わらせましょう。」
「うん。」(あ、エフィも呼ぼうかな・・・)
「エフェメラ様もお呼びになられては?彼女もグルメらしいですし。せっかくですので。」
「あ。うん。(先読みされた!?)」
「でもまあ、確かに興味深い品物ですし。味見、という点ではマルス社長に届けた時に味の感想が言えるのはプラスですね。」
木箱に近づき・・・「アモンティリャード、ですか。長期熟成とありますね。」
「ラザハン語わかるんだっけ?」自分は少ししか・・・
「この程度なら。エリス社長。もう少し語学に堪能になられては?社長のご実家がある国でしょう?」
「う!」

その後、呼ばれたエフェメラは超ニコニコしながら「オイシイもの、だーいっすきっ!」
といいながら。
3人でワインとチョコを。

「うわ、このチョコ、オレンジ味がする!でもウマっ!」ミコッテは総じて柑橘類が苦手だが、このチョコはその限りではないらしい。茶色い髪の親友が叫んでいる。
「このワイン、味わい深いですね。チョコとの相性も抜群ですね。これならマルス社長もお喜びでしょう。」くいっと。
「うんうん、私のチョイスは間違いじゃなかった!」ぐい。
ほのかな甘みもありながら、酸味も。そして微かな苦味のワイン。
その苦味を消すかのような、優しい甘さのチョコと、後味に残るオレンジの風味が次の一口を要求してくる。
「おいしいね。」3人は異口同音で。


しかしながら、このワインはブランデーが添加してあるだけあって・・・・
普通のワインよりも度数が高い・・・・


「社長!」と。「うにゃ?」
パリっとしたスーツ姿のイドゥンに起こされたエリスは。
「あ!?」
「遅刻確定ですよ?私はリムサ・ロミンサの本社に行かせていただきますので、これにて。」
移動術式で消えていく・・・・
少し向こうには親友のエフェメラがぐったりと眠り込んでいる・・・・。
「うあ!マジで遅刻!」今から水浴びや、メイクなんてしている暇なんかない。
「飲みすぎだにゃあああああ!!!!」

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