817セブンス。少し先の話・・・昼餉の後。

「なあ?」
黒髪が揺れる。
魔女の家、いや、元、か。
今は自分の家その前庭。

「どうかした?」グレイの髪を束ねた彼女は、今から行われる対戦に興味深々か。
応える彼女、黒雪は。
「娘が真剣相手に対戦するんだぞ?」
「それで?」一向に気にせず、食後のデザートに用意したフルーツをついばんでいる。
釈迦頭、というらしい。無骨な外観ながら、いろんなフルーツみたいな味が堪能できるらしい。
正直、扱いが難しいので輸入はできない、らしいのだが・・・

「私もひと切れ・・・」と黒雪がねだり、弟子が勝てば、ね。とそっけない。


佩剣、天の村雲を。
柄に手をやり、抜刀術を見せようとする。
「おい!バカ!」と恋人を叱る黒雪。
ミッタークは緊張のあまり、失策に気づく。
今にも「抜きますよ?」な構えでは、相手に先手を取られるに決まっている。ましてや、相手は「魔女の後継(サクセサー)」だ。
つい、彼女の愛剣を自分が使うことになり、興奮というか、心が躍ったよう。
「仕切り直し、ね。」ブルーグレイ髪のの少女みたいな女性が一声。
「すみません、マユさん。」
「いいわよ。母さんだったら、今この瞬間に殴り倒して一本勝ち、だけど。」
「うわ・・。」
「ま、あたしはそこまでしないから。」「マユ、甘い!」「うっさい!」
「今の判断だけは、私も同じく切伏せる。」「でしょ?」
「あなたたち・・・」マユは呆れ返りながら、「じゃあ、ミッターク君。用意はいいかな?」
「はい。お願いします。」左手には鞘、右手は泳ぐように。
構えたブルーグレイの髪の女性は、すでに拳に「クロスカウンター(対滅者)」を。
本気勝負と言ってもいい。

ミッタークはこの女性がかなり「突っ走る」性格とは聞いている。先手をとってくる相手に、抜刀術は基本、「後の先」
そして、抜いてしまえばまた鞘に戻す、のだが、この剣術は抜きっぱなしでこそ奥義を出せる。
この事を知らなければ、まず負けることはない。もちろん真剣なので致命傷なんて与えてはならない。加減は必要だが・・・そんな余裕があるだろうか?

「ほい、ぽんっ。」魔女の一声。

一歩詰めるミッターク。
マユは、無造作に近寄ってくる。
「え?」
「甘いわよ。」拳を振るう。

ちん。

抜刀。

が、抜刀できなかった。

理由はこうだ。
右手を鞘に向けた。そして柄を手に取り、その右手を殴られたのだ。
「何処に動くか分かりきった動作なんて、先読む必要すらないわね。」
魔女の後継の一言。

「はい、いっぽん。」魔女の言葉に。
「あちゃあ。やっぱ最初から仕込みなおしか・・」黒雪が頭を抱え込む。

「スゴすぎですよ・・・魔女の家系っていうんですか?」青年は痛む右手を抑えながら。
「ミッター!お前、抜刀術の基本、もう一度叩き込んでやるっ!」恋人は激怒しているようだが・・
「まあまあ。彼もかなり練習してるみたいだし。次はあたしとやってみるか。寸止めはナシで。」
「は?死ぬよ?」
「村正、だっけ。試してみたかったんだ。」
「・・・・後悔すんなよ?」

「げ?母さん?」本気モードなのは見てもわかる。普段着だからといって、それがペナルティとはなりえない。なぜなら、常に「戦闘ができる」ように、普段着にもいろいろと工夫を。
マユは・・・「大怪我しないでね・・」先に何度も死にかけているので・・・
愛用の長爪を取り出したレティシアは「じゃあ、いち、に、のさん、。ぽんっ!」
走り出す。

「うあ?」黒雪は完全に不意をつかれ、抜刀したはいいが・・・

魔女は後ろに逃げ出したのだ。

「は?」

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