806セブンス。幕間。「正義の在り処。」

「きゃあああ!!!」
少女の悲鳴。
クエエエエエッ!と乗っていたチョコボまでもが悲鳴を上げ。
「何よ。あたしの友達にケチ付ける気?」と。
アルダネスの呪術学校特別教室の首席の少女は、髪を揺らして相棒を見る。
「ちょっと!その・・・それって!?」

「アーザ、だけど。」
「ギギィ!」

「きゃっ!」
薄緑に染めた髪は今は後ろで束ねているが、目の前のまさに「目ん玉」な魔物を前に振ることしかできない。
「ギギ?」と、デカイ目玉が少し悲しそうに見えるが・・・やはり、その下にあるクチや、全部含めてちょっと自分では無理っぽい。
ついでに、マイチョコボの「プレイヤー(祈るもの)」は、完全に怖気づいてしまって、手綱が暴れてしょうがない。落ち着かそうにも、自分がパニックなのだから。

薄いグレーの髪の少女、アナスタシアは自分より二つ下の17だが・・・何故こんな魔物まで手懐けているのか、わからない。
名家に生まれた自分は期待に応えるために様々な努力をしてきて、やっと学院で首席にまでなれたのに。
飛び級で入ってきたこの子は、いともあっさりと首席をかっさらい、一時は敵愾心も燃やしたものだが。
表面上は、とても生意気だが、芯はしっかりしていて優しい。それが分かり、打ち解けたのだが・・。たまに、こういう事をしでかす。
「ターシャ!ちょっと!」
目の前で魔物に乗った少女に。
「ウィス、このくらいでビビってたら、あたしのばーばなんて到底相手できないって!」と笑う。
「・・・・天魔の魔女、ね。」(ウィッチ・ケイオス。冒険者業界並びに、政界にすら顔が利くという「魔女」そして、この子の・・・祖母。
「魔女の血統(ウィッチ・ブラッド)」としては、母「後継者(サクセサー)」も。この子はなんと渾名されるのだろう?そして、自分は?)
「ばーば、最近じゃ現場に出るのしんどい、って言ってるけどね。」
「・・・、聞いてるわよ。ウルダハに出る対蛮族作戦。あれって、「魔女」が作戦立案して、最後の最後まで言い当てたそうじゃない?」
「んー、部屋で寝転がって本読んでたけど。その時。お偉いさんが何か聞きに来て。」
「げ・・・まじでか・・・。」
「何か、地図っぽいの見ながら、こうして、ここはって。」
「現場にいなくても、いるのと同じじゃないの・・それ・・。」
ウィスタリアはこの家系に心底、敬意と畏怖。そして、それすらも意図されたものかと思うと、鳥肌が立つ。
「まあ、ママはあんまりそういうのしないから。派手に暴れる方だし。」
けろりといわれても。
(じゃあ、貴女は?)
「ま、とりあえず行こう。ウィス。卒業課題の一つでしょ。」
ん、そうよね・・一旦、心を平静に。これでも「冷徹な計算者(ミス・クレバー)」と学院でのあだ名も頂戴している。実はもう一つの名もあるが・・・まだ明かせない。
「切札(クラウン・ザ・ジョーカー)」かつて、家名だけを名乗らせるためにいた曽祖父の秘技。
そして、かの魔女も師事したと、噂で聞いた。
(この子も?)並走?する相棒を見て。自分は・・・技は全て覚えた。が、最後の最後で、どうしても抵抗がある。命を奪うこの暗殺技に。
薄い緑の髪がチョコボの上で揺れる。

「ウィス?」
魔物に乗りながら、相棒はどこ吹く風と言わんばかりに。
「いーい?」
「うん。」
「まずね。アーザを向こうに飛ばしちゃって、相手をビビらせるから。」
所詮は野盗と、場合によっては戦闘、なんて。現場で度胸つけるために、という課題だ。
しかも、選択は自分達でということだ。
迷いもせず、相棒の少女は「野盗退治」を選んだが。
どうせザコだろう、とタカをくくって。
「いいの?降りちゃって。もしも・・・」
「大丈夫。問題ないわ。」
逃げ道も確保すべきじゃ?なんて。主席のこの子に言っても聞かないか・・。

なにせ、圧倒的な火力で押すこの子は、自分以外に相手が居ない。

「いくよ!アーザ!」
情報通りにいた3人の賊に魔物が飛んでいく。
悲鳴めいた言葉と共に、自分は「防げ!魔の加護よ!」と。マバリア、プロテスをほぼ同時に展開。二つの術式の構成をほぼ同時に組み上げ、呪を短時間差で入れて。
だが。
相棒はただの無言で。構成は・・いや、まだだ。編まれていない。どうしたのだろうか?
だが。
次の瞬間。

ばぢっ!!!!!!
紫電が賊を襲う。

嘘だ?まず、構成が・・見えなかった。それに、呪は?魔力を注ぐのに必須じゃないの?
それも今のは雷系で最強のサンダガ。範囲の静電気を生体電気に繋ぐチャンネルを作って、それをショートさせることで起きる電流と電圧を魔力で増加、と、ここまでの術式を・・・

「無言で・・・?」
「沈黙を呪にしたんだよ。」
「え?」
「敢えて、音にしない。だから構成も相手に見えない。ってことね。」
「そ・・そんな(反則にも程がある・・・)」
「無音構成。まだ実験中だけどね。」
にっこり。「ウィスにだから教えてあげたの。」
「そ・・そんな・・・。」試しに構成を・・弱いのを編む。が・・・どうしても見えてしまう。魔力を注ぐためには、どうしても「声」による「呪」が必要だ。
例えそれが相手に読まれる手段だとしても。それを・・・この子は・・・。
「あ・・・」なんとなく、わかった・・・構成を全部裏返しにしたのだ。音に反応するなら、させないために見せないために。
そして一切の沈黙・・。その無音こそが呪となるキーさえつなげておけば、発動・・・とんでもない発想。そして・・
「クリミナル、ね。」
「どういう事?」
「イカれてる、って話。それって、暴走したら、自分の体が吹っ飛ぶってことじゃない!」
「ふーん。じゃあ、クリミナル・ジャスティス(イカレた正義)って二つ名もいいわ。魔女、魔女の娘、って、みんなうるさいもの。あたし用のが欲しいし。」
「あなた・・・本当、どうかしてる・・。」
「その前にどうこうしてるこの賊共を官憲に突き出しましょうかね。」
「そうだけど・・。」
「大丈夫よ、さっきの構成はまだまだ改良の部分あるし。逆流や暴走させないための安全策もちゃんと考えてるから。」
「・・・・(さすがの天才か。私では到底・・)」
ウィスタリアは、相棒のアナスタシアを見て・・・

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