775セブンス。もう一つの出発点。

夜気が黒髪を濡らす。
そう感じる。
漆黒の中を走る感触。
柔らかい湿気った枯葉や、若草。苔や、枯れ枝、朽ちた木、それに群がる茸たちの息吹。
「なンだか・・」
海の街から戻ってきてみれば・・・。
「こっチは、こっチで懐かしいネ。」
黒衣森を疾駆する影のような・・・
長い黒髪、漆黒のチュニック。白い顔。
手には・・強弓「棺桶製造者(コフィンメイカー)」
ある依頼で、柄にもない役回りを演じるハメになった彼女は、不機嫌極まりなく。
だが、「依頼」には、ほとんどの成功率を誇る。
その一つの理由には「邪眼」と称される、彼女の左目。

魔力を秘めたその「眼」は、暗闇を制し、「敵」を逃がすことなく屠る。と。
「魔術器大全(マーベラス・マジック)」に記してある。
その真名、「イージスの眼」と共に。

ただ、裏の事実として使いこなした者は誰もなく、無残な肉塊として果てた、とだけアルダネス教会が記している。

「ン?」
何か・・嫌な予感が・・・・身を伏せる。
漆黒の森に、不似合いな音が木霊する・・・いや、破裂音。

パンっ!

とっさに伏せたおかげで、一瞬先に「居たはず」の場所の地面が揺らいでいる。

これハ・・。
銃・・・?

振り向かず、その場を離れるために敢えて転がるように全身を前に投げ出す。
そして、今まで伏せていた場所、およびその左右に銃撃が。
振り返りざま、周りを見渡す。そして「見つけタ。」

この「眼」からは、何人たりとも逃げることができない。
そして、「マーキング」
そう。この印こそが「逃げることができない」理由。
次回、街中であろうが、迷宮であろうが、「ついてしまった」この「印」は自分しか解除できない。
一時期、その使い方に苦しみ、嘆いた事もあった。が。
「おイ!出て来いヨ。僕を狙う以上、隠れルのは無意味ダって事。知ってルだロ?」

実際は・・・銃によって、殺害されかけた彼女、フネラーレは銃に対し全くの耐性を持たない。
それどころか、今は強気に出ているが、足元はふらふらしていて、手元も怪しい。動悸も激しく・・。

「ふうん。意外とやるもんだね。」と。フネラーレが視界に捉えたのは、茶色いミコッテの女性。
ただ、馴染みのミコッテとは違う。
あの子は、全部茶色・・
目に映るミコッテは、銀髪・・・。
霞む視界を最大限に・・・いや、やりすぎれば・・・。肉塊になる・・・。
「私は、パワ。だ。パワ・ムジューク。殺しにきたんだって?いい気になるなよ?」
ミコッテの女性が言い放ち。

「・・・。ほざイてロ。スタッブしてやル。」

パン。足元に煙。
「じゃあね!可愛い暗殺者。貴女ごときに倒されてきた連中、本当。かわいそう。」

コフィンメイカーを構え、解き放つ一矢。
「黙れ!可哀想、だなンて!そんナ同情めいた言葉デ彼らを!彼女らヲ!侮辱するナ!」
「ふん。殺しておいて・・・。」
「悪党もいれバ、善人だッテ居たサ。」
「なおさらだね、偽善者。」
「だけド!その死を侮辱すル事は許さナい。」
「じゃあ、私にも侮辱に値しない死を?」
「それが、葬儀者サ。」

「あ、そう・・。じゃあね。また。」

気配が消えていく。

追うことはできない。
矢を放ち、なんとか立ってはいるものの・・・
うぐっ・・

胃からの逆流と、意識の混濁を止める事ができない。  「助けて・・カルヴァラン・・。」恋人の名を。

大樹に寄りかかり、朦朧としながら・・・。
朝日が近いのを・・・そこで、意識が途切れた。


(・・・レ!)
・・・・
(フ・・・!)
伝言用のパールが・・・。
ん?・・・ああ・・。

(フネラーレ!大丈夫ですか?ポイントについてます?)
・・・・いや、全然・・・
(時間は・・・少しずれそうです。)
(あァ。・・・)
(大丈夫ですか?)と、青年の思念。
「ああ、ボンクラ・・おかげで意識が戻った・・。」
(え?)
青年は続けて(ターゲットは、対象の補足に失敗したようで。ポイント2での・・・)
(待テ。補足?)
(ええ、昨夜から追いかけていたものの、その日のうちに、って事でって話じゃないですか。)
「アー・・。」
(急用って、そういう事ですよお!?どうしたんです?)
(いヤ・・・僕・・・いや。もうイイ。どうなってル?)
(ポイント2で押さえる。コレしかありません。彼女率いる盗賊団には、極刑が予定されています。
パワ、彼女自体は証言台に立たせる必要がありますから、殺害はできません。それ以外は・・。)
(そうカ。)
(はい。健闘を祈ります。)
(なァ。キーファー?)・・・お前の・・・妻は・・・・僕に・・・・ 遠い彼方。
(はい?)
(いや、イイ。)

強弓。足元に手放してしまった母の形見。
「じゃあ・・スタッブしに行こう。」拾い上げ。

スタッバー(暗殺者)。その道が汚れているとして。汚れたものに蹂躙された者たちは、可哀想の一言で済まされていいのか。
自分は、そうは感じない・・・ただ、安っぽい価値観で貶めたくない。それだけ。
「チ。」自己嫌悪に陥る前に・・・済ませる。
「ガラじゃねぇ。」よね・・。

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