759セブンス。さるご家庭 さん

「フム。フム。・・・ママ達ったら・・・。あたし達があしでまといだと・・こうなれば、あれよ。れぢすたんすよ。ばーばもいってたもん。わるいやつには、せっけんていさいて。」
ひっそり、こっそり、リビングのドアから弟の部屋に。「いまのうちにけーかくよ。」

「?ん。今、足音したな、マユ。」会話をしていてもその辺はさすが、か。ウルラが妻に問いかける。
「そーいえば。またターシャがウロウロしてるのかしら・・?」
そっと、ドアを開けて廊下を確認する。
すると、部屋からトイレへと向かう娘が見えた。暗がりの中、よくわかるものだ、と半ば感心しているのだ。
が、種明かしとしては、少女の部屋からトイレまで廊下に小さな傷がつけてある。ソレを足の裏で確認しながら行けば往復できるのだ。後から聞いた話ではレティシアの入れ知恵らしい。
そして、その応用として壁にも小さな突起(絵などを貼り付けて巧妙に偽装してある。)これでリビングまでもが暗闇でも対応できる寸法だ。

(あぶな~)となんとかピンチを切り抜けたターシャは、二人が寝ている部屋(隣なので間違えない)に侵入し、まずは弟を起こし黙らせる。
「しずかにしないと、オネショのけいだから。」と、いきなりの切り札。そして、それだけは!と哀願する弟にセレーノの攻略を命じる。
もちろん失敗すればオネショの刑が待っているので必死になって騒がないように起こす。
そして、セレーノは何度かこういう目に遭っているので、むずがりながらも男の友情を見せる。「たすかったあ。」と本心からの声にセレーノは「また、ターシャねえちゃん?」と、
周りをぼうっと見渡し、月明かりの中に浮かぶ魔女の血統を見つけた。

「ええとね。ママ達がなんだかわるいやつらをやっつけるおはなししてたの。それでね、あたし達がいると、ひとぢち?っていうのになるんだって。
だから、そんなわるいやつにはあたし達がせっけんていさいしないとダメなの。」
「おねえちゃん・・てっけん?じゃないの?」
「あたしにもんくいうのね?クゥ?レノはそうじゃないよね?」
「うん、ターシャねえちゃんがただしいよ。」(すでに世渡り上手なところが・・)
「はんらんかよ!」
「しずかにしろってのっ!」枕を投げつけるターシャ。
「ねえちゃんのがうるさい・・・むぎゅう。」
「で、ターシャねえちゃん。どーするの?」
「よし、レノはいい子ね。まあ見てなさい。ええと・・。」
数式めいた文字列が空間に現れ、それは1行のみならず、数行、何十行と数を増やし、空間に紋様を刻んでいく。
立体に広がっていくその文字列は前後左右上下に展開していき、どの行列でも交われば交わった分だけ文字列に意味が生まれていく。
それを魔術師達は「構成」と呼び、展開させた後、魔力を注ぐために呪文を唱える。その音はきっかけであり、なんでもいい。
ただし、その音が魔力を隅々まで行き渡らせないと効果としては現れなかったり、もしくは中途半端で霧散してしまう。
今、ターシャが編み上げた構成は、術式としては一番最初に教えられる雷の属性のもの。
大気中に自身の持つ雷の属性(静電気)を解き放つもので、攻撃なんかにはもちろんの事使えない。ただ、相手を痺れさせる程度。
チクっと来るぐらいか。一瞬の気は引けるが・・その程度。ただ、この構成は術式が使えないと認識できないため、今はターシャ以外には見えない。
振り向きざまに、アクィラに指を向け「ばちん。」と一声。この呪によって構成が展開して術式が発動する。
ぱちっ
暗がりに仄かな紫が光り、「あっ!」と声を出し慌てて塞ぐ。
「これよこれ。これでぎゃくしゅうするの。れぢすたんすよっ」
「ぼくたち、つかえないよ。そんなの。」
「レノ?おとこのこ達は、そうね、おなべと、めんぼうがあるわ。きょうのおてつだいでちゃんとばしょ、おぼえたから。だいじょうぶ。」
「なんのためにおてつだいしてるんだろ?」
「さあ?」
「なにかいった?」ジロリ。
ぶるぶる。二人して顔を横に振る。
よし、「さくせんはこれでいこう。」鼻も高々に宣言するアナスタシア。
「へ?いまのだけ?」「ぼくたち、っていうか、いつなの?それ。」
「わからないわよ!でも、たぶんすぐよ。きっと。うん、あたしがいうんだから、まちがいないの!」
この暴君に、二人は「は~い。」「じゃあ、ねよう・・。」と再びシーツに潜り込み。
「もう!ちゃんとしてよね。」と言いながら、部屋を出て・・・・
「ターシャ?どうかしたの?」と優しい声と、笑っていない目つきの母と鉢合わせに。
「え?ママ、いや、あの。おトイレにいって・・へやまちがえたみたい・・・。」
「ふうん、じゃあ別に何かの間違い、って事ね?」
「え?」
「あなたが言うのだから、間違いない、のよね?」
「えっと・・。その。」しどろもどろに・・答えが出てこない。ばーばなら、きっと言い返せるだろう、など脳裏に浮かぶ妄想は、ついに自分では果たしえない事であると。それだけは認識できた。
「明日、おやつ抜き。」
「な・・・。」
この最悪の結末・・・いかんともしがたい・・・。が、反撃する術は残されていない。
うなだれながら自室にもどり、もんどりうつように寝台に寝転がり、明日のオヤツをせめて夢の中ででも、と。

見た夢は、母にせっかんされる夢でした・・・・仕上げは投げ技(どんなものかはわからない)で〆。 
現実には寝台から転がり落ちて目が覚めたアナスタシアであった。

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