755セブンス。混迷・・・

「道なりにいっくと~見えてクルクルあのたってもの~♪」
デタタメな歌詞と、音程にリズムの適当な歌を歌いながら。
グレイの髪を一まとめに束ねた女性がてくてくと森の中を。
小顔づくりで、少し切れ長の眼、どこか憂いを帯びた表情、街中で洒落た衣装に身を包んでいれば、目を惹くだろう。
だが、ここは黒衣森で、彼女の衣装はレザージャケット、トラウザ、ハイブーツ、腰にはなんの金属だか分らない素材でできた長いツメがぶら下がっている。
簡素な背負い袋まで担いで、腰のポーチも色々と入ってそうだ。
見るものが見れば、あきらかに冒険者、ないしは傭兵と思うだろう彼女は、さらにデタラメな歌の2番目に突入している。
「お?」
歌?を中断し、目の前に見える大きめの監視用の建物を確認すると、少しばかり歩調を速める。
「やほー!」と声をかけ・・・・
「あ、レティシアさん!どうかされました?」まだ若い鬼哭隊員は手を振る。
「うん。ちょっとね。アムラン、居る?」にっこり。
「え、あ。はい。ただ今呼んで参ります。少しお待ちを。」ぱたぱた、と駆けて行く。
(おそらく、ホウソーンさんとこのお土産に夢中だな・・・)
行きがけの駄賃というか、お使いというか。アムラン氏の好物を届けてくれないか?
なんて事使いをこなし、情報をついでに聞いたのだが、あまり聞けなくて。
で、今回は東にある?仮宿なるものを知っているかと聞くつもりなのだが。さて?

「あ、レティシアさん。先ほどはどうも!ちょっと書類などを片付けておりまして。申し訳ない、すぐにでも向かうつもりでありましたが!」
「口元。」
「え?」
「ハチミツ。」
「ええ!?ちゃ、ちゃんと・・あ!?」もとよりそんなものはついていないが、ついていた嘘はバレてしまった。
「面目ない・・・。」
「いいけどね。ここから東にシルフ達が「仮宿」なる施設を作ってる、って話なんだけど、知ってることってある?」
小首をかしげ、訊ねる魅力的な女性にはハチミツ以上に甘みが・・いやいや・・・気を取り直し。
「はい・・ここ数日、いや、もう少し前からシルフのイタズラが増えた、とかは聞いていますね。やはり、シルフ領の近くに何かある、と考えた冒険者達なんですが。
その報告を受けて、我らも偵察に出かけまして。なんだか集落のようなものが確かにありましたね。ただ、シルフが居たかどうかは確認できていません。
彼らは姿を消したりする術式も持ち合わせているのでしょうか?もしくはひっそりと隠れたのかもしれませんが。我らも深入りはせずに、遠目から確認だけ、です。
手を出さなければ何かをしてくる、というのでもないようですね。冒険者達は少し深入りしすぎたんでしょう。」
「なるほどね。参考になったわ。」
「レティシアさんはバスカロンのところで何か情報を?」
「まあね。酔っ払いのタワゴト、に信憑性が欲しかったの。でもこれで裏づけは取れた、かしら。最初に寄った時に言ってくれればもっと良かったのに。」
「あああ、すみません。正直な話、我等はシルフを見てないんですよ。ですので、その集落が実際の話、流民のもの、という可能性もありましたから。
それならそれで事情次第では立ち退きや、グリダニアへの受け入れという事も視野にいれないとなんですが。
もし、シルフ達だった場合、二人で偵察装備のみだと、とてもじゃないですが話しになりませんし。」
「そりゃそーか。まあ、あたしが行ってみるから。どう出るかは向こう次第だろうけどね。」
「お役にたてそうにありませんで申し訳ありません。」
「そこは気にしなくていいわ。天魔の魔女としてもまだまだ現役なトコロは見せなきゃね。」
「へ?」
「ん?」
「あ、あの。魔女・・・様?」
「あれ?言ってなかった?」
「は、はい・・。(え?スウェシーナ隊長より歳上なはず、だよな?)」
どうみても二十代半ばくらいだ・・・アムランは混乱してきた。
「何をジロジロ見てるのよ。なぐるわよ?」
「えっ!いや、そんなワケでは!まさか、お会いできるとは思ってもみませんでして。光栄であります!」
「そんなにありがたがられても困るけどね。じゃあ、行ってくるわ。」
「はいっ!お気をつけて!」
軽く手を振って応え、東に向けて歩き出す。

鬱そうとした木々が増えて。
「そっか。街道じゃ無い所は結構好き放題に・・・森のダメージも深刻ね。」
樹に手を当てて「一生懸命なのね。がんばるんだよ。」優しくなでると、その箇所が淡く光り始める。「うん。あたしは大丈夫。また来るから。」ゆっくり手を放す。
名残惜しそうに淡い光はしばらく明滅し、ゆっくりと消えていく。
「意外と優しいんだね。」
樹の上から。
「そうね。意外と盗み見がお好き?黒衣。」
「そうでもないよ。声がしたから見にきただけさ。俺の同胞、いや、まあいいさ。いまどき声を掛けれるは何者かなと。予想通りでいささか拍子抜けしたがね。」
「それは失敬。で?何用?」
「いや、優しいお嬢さんに一つお礼と言ってはなんだけど。この先のシルフ領だが、ああなってしまったのは、外部の悪があったからだ。俺も介入したかったが、遅すぎた。
少々手ごわいと見たほうがいい。では、また逢おう。」気配が消える。
「なーによ、ポンコツめ。不安だけ煽りやがって。肝心なトコが抜けてるっつーの。」
(聞こえてるよ・・・)
「うわぁっ!盗み見の次は、盗み聞きかっ!だからポンコツ精霊ってヤツはっ!」
(ははっ・・)
ちっ 舌打ちしながら、魔女は進む。
「あれか・・」
確かに集落、だろう。テントがいくつか見えてくる。
どこかに「入り口」があるはずだ。正味な話、見えるテントまでは障害物など下生えの草や腰くらいの高さのヤブ程度。子供でも入れそうだが・・・
注意深く見てみれば、草の生え方とヤブの枝葉のつき方で術式結界が張られているのが見て取れる。
このまま行けば、なんとなくイヤな予感がしたり、ふとした忘れ物を「思い出したり」して、先に進むという事ができなくなる。
「よくできてるわね。」
回れ右、はしないが、この結界沿いに行けば入り口がある、ということだ。でなければ、あの酔っ払いが話した事全てが嘘になる。
あんな嘘をつける程に知識があるとも思えないし、意味が無い。気を惹きたい、という動機もあるだろうが、それならなおさら話題としてはベストだ。
くだらない与太話より、よほど効果があるだろう話題。ゆえに嘘とは思えない・・・
考えとしてアレコレとまとめているうちに、どうやら入り口に来たようだ。
ちょっとした魔紋が刻んである柱が2本。そして、衛兵よろしく2体のシルフ。
彼らの目の前に行き、ふわり、と踊りを始める。
2体のシルフ達もそれに応えるかのように踊り始める。
レティシアの踊りは、円を基調とした、武闘から発生した舞踏。
シルフ達は空中をくるくると回り、花が咲き乱れるのを表現したかのようなダンス。
「すばらしいでふっち。」「そうでふっち。ここしばらくマトモな挨拶ができるニンゲンを見てないでふっち。」「合格でふっち。ニンゲン、なんの用でふっちか?」
「ええとね、フリクシオ長老に逢いたいの。おられるかしら?」
シルフ達は顔を見合わせ・・・「少しマツでふっち。」一体が奥に飛んでいく。
「ま、やっぱりいきなり、はダメか。あのね、あたしはグリダニアから来たんだけど。」
「マツでふっち。」
はぁ。
「ニンゲン!コムシオが会うと言ってるでふっち!珍しいでふっち!はやくするっち!」
「お、珍しいふっち!」
「コムシオ?どっかで聞いたな・・。」
「はやくふっち!気が変わる前にふっち!!」
「ああ、はいはい。」

集落の中はかなりの数のシルフ達が飛び交っている。
一際大き目のテントの前に案内され・・・先ほどとは少し違う、グリダニア風のダンスを披露し、応えるシルフもその動きに合わせたダンスを。
「よく来たでふっち。」
「どうも。あなたがコムシオ?」
「そうでふっち。これほど見事なダンスはカヌ・エ以来でふっち。いや、待つでふっち・・そのお供に来てなかったふっち?」
「あ、そっか。あの時の。(正直、顔で判別は難しい・・・)」
「なるほどでふっち。ニンゲンの顔は同じに見えるでふっち。」
(お互い様か。)
「ええと。コムシオ、いきなりでアレなんだけど、長老さんは?」
「んー。マツでふっち。まだ信用したわけじゃないでふっち。」
「あたしは怪しい者じゃないわ。んー・・その、コムシオってその、立場としては?」
「長老の代理でふっち。ニンゲン、長老に悪さしないようにまずこのコムシオに話をするふっち。」
「なるほど。じゃあ、コレを・・」
両手に武器の類が無いのを見せてから、腰にぶら下げた筒を見せる。
グリダニアの紋章で封がしてある書簡入れの筒を横にいるシルフに渡し、そのシルフがコムシオに。
「その書状はカヌ・エ・センナ双蛇党党首からの親書よ。内容はあたしは知らないけど。たぶん、あなた達とあたし達、双方に益のある内容じゃないかしら?」
「・・・・・。」
書状を読み終えたかそこらのタイミングで。
「コムシオ!大変でふっち!」
「なんでふっち?客人がいるでふっち。」
「クラクシオがまた居なくなったでふっち!」
「む・・・ニンゲン!まだ認めたワケではないでふっち。そこで試練でふっち。居なくなったクラクシオを連れ戻すでふっち。」
「は?」
「わかったでふっち?」
「まあ、で?本当にいなくなったの?」
「シルフは嘘はつかないでふっち。真剣にイタズラをするでふっち。」
「だめじゃん・・」
「と、とにかくいつもクラクシオは「悪い子」が怖いといってたでふっち。書きおきもあったでふっち。」と葉っぱになにやら、くにゃくにゃとした字?らしきものが。
「探さないで欲しいでふっち。北西に行くから探さないでふっち。大樹の近くのハチミツがなめたいふっち。でも、ニンゲン怖いでふっち。」と書いてあるらしい。
探して欲しいのか、欲しくないのかどっちなんだ?
「はぁ。いいわ。連れ戻せばいいのね?」(ホウソーンさんとこの近所・・って。そういえばあの時ホウソーンさんが挨拶してたあの子!?)思わぬところで役にたったなあ、あの踊りも。
「早くするでふっち!心配でふっち!」
「はいはい。んじゃ、行ってくるね。」
入り口まで戻ろうとすると、「一旦ここに入れたなら、結界は利かないでふっち。そっちから出れるふっち。」森を指差す。
「そりゃ、どうも。」駆け出す。


駆けながら、またぞろ厄介な・・。
ひとりごちながら、森を進んでいく。


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黒衣って精霊なのかな?声は男なのか、女なのか、ふと気になりましたw
3行目「神→髪」
Yupa Boleaz (Ragnarok) 2013年11月22日 19:57

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>ユパさま。直しておきましたw
うーん、急いでると変換誤字に気がつかないwww
ちなみに、このお話は1時間半で描きましたw

黒衣さんは、森の「影」です。森信仰が生み出した森の神格化の影、ってとこですね。
なのでヒネていたり、結構気ままにしています。たまに暴走した精霊達をなだめたり、始末したり、魔物の駆除などもしています。
実体はありますが、核となる部分以外は幻影に近い、と設定しています。
普段は人間と同じく生活していますが・・・。稀に影の分身なんかも勝手に自我を作って外に出歩いたりしますが、本体は気にも留めていません。
声ですが、落ち着いた男性のもの。高い音も出せるとは思いますが、自称「女性に優しい」ので、女性みたいに振舞うことはないかとw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年11月23日 00:17

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>マユリさん
修正をメモに適用しました。
Marth Lowell (Durandal) 2013年11月23日 00:53

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>マルスCEO、どーもw
たったかと書いてると、つい見落としがちなのが、まゆりスタンダード。
だめやん。_/乙(ン、)ノ
これからもビシバシ指摘してください。できるだけ早く直しますゆえ。
m(--)m
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年11月23日 02:54

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