754セブンス。行動・・・

「ぷは。あー、美味しかった。バスカロン、あんたやっぱコッチの方が向いてるんじゃないの?」あたしは腹八分目より少し、ほんのプラス五分目くらいの量でやや満足した。
食べすぎはよくない、と常々娘が言っていたからなるべくその教訓を活かすようにしている。
「あ、ありがとうごぜえやす。」彼は目の前に積まれた皿の数を数えるのが少し億劫な様子だが。
「んじゃ、本題。」食後のハニーティー(ホウソーン家のものだろう)をすすりながら切り出す。
「ええ、シルフの件、でやすね。確かにここ最近シルフ達の警戒が強くなった、ってえ事ですがね。冒険者いわく、挨拶がどうとか。
よくわかんねえんですが、挨拶・・踊りがヘタだと仮宿に入れてもらえないとかなんとか。」
「は?踊りはともかく、仮宿?シルフ領に?」少しの驚きと共に思考を始める。
何故人里に近づくようなマネをしておきながら、警戒を強める?考えがまとまらない。もうひとつ何かありそうだ・・
「ああ。なんだかよくわからんが、そういう事らしい。ホウソーン山塞の東あたりに領を塞ぐように集落ができてた、というかなんのためにだろうな?」ますます意味がわからない。
だが、ここに蛮神の神降ろしというキーが嵌れば?あながち、無い話でもない。が、少なくとも挨拶をする事自体は受け入れたのだから、うまくできれば中に入れる、か。
すると、神降ろしはサイアクしていても、その仮宿ではない?うーん、材料が少ないなあ。手っ取り早く訪れるのが一番かもしれない。
「ああ、そこな姉ちゃん。おれっちも夕べ仮宿とかに行ってきたんだ。挨拶とやらはなんとか認めてくれたんだけどな。」冒険者っぽい男が声をかけてきた。
「ふうん?」振り返り、話を聞くべく近づく。」
「おっと、べっぴんさん。まあ、一杯。」杯をバスカロンに注文し、「しらねえぞ?」と言われながら、ワインにハチミツとハーブを漬け込んだ酒を。
「景気いいわね。」あたしは、やや赤ら顔の男に。
「そうでもねえさ。」杯を鳴らす。
「で?どうなの?」
「仮、とはよく言ったもんさ。テントみたいなのがあちこちにあってだ。おれっちが、シルフ領に行きたいから通してくれって頼むとさ。ダメだって、おっと。
だめだふっち、か。がはは!」いい感じに酔っ払っているが、得られるものもある。
「それで?」わざと甘い声で促す。こういう輩は女にいい顔がしたいから、この手でねだると、大概聞いてもいないことまでするする出てくる。
「ああ、シルフ達が言うにはナア、領のほうには悪い子が居るんだと。だから長老サマ連れて逃げてきた、ってんだってさ。」「ふうん、それで?」
「あぁ、でなあ、おれっちのツレがそっちに行ったんだ、だから迎えに来たんだ、って言ったらよぉ。あきらめるでふっち。ときたもんだ。おかしいじゃねえか?」
ふむ・・そのツレとやらが本当に行ったのか、方便なのかは・・微妙だな。
「でな、もしかしたら、その辺りでウロウロしてるかも?見に行くだけだよってまあ、半分無理やりソッチのほうに行ったんだ。したらよお。
ほら、シルフって緑つーか、草みたいな色だろ?それがな、ヘンな色になったシルフがうろついてるんだ。
コレはなんだ?って、少し足を踏み出したんだが、別段向こうから何かするわけでもねえし、ふわふわ飛んでるだけでよ。
こりゃあ、取り越し苦労してんだろ、と思ってもう一歩遠慮なく踏み込んだ瞬間、いきなりだ。いきなりコッチを睨みつけると、魔法を撃ち込んできやがってな。
慌てて2,3歩下がって、逃げ出そうとしたんだが、もう何もしてこなくなりやがった。目が合ってもだ。なんだこりゃ?て思ってたら、普通のシルフがその音で飛んできやがってな。
今のが悪い子でふっち。とさ。びっくりだぜ。な?あんなやべえトコよりさ、おれっちの部屋の方が安全だぜ?どう?」
はーぁ、ったく。まあいい情報はもらえた、か。振り返るとバスカロンが「あーぁ」って顔を手で覆っている。不幸な冒険者に幸アレってか。だよね?
「あら、せっかくのお誘いありがとう。でもね、そっちのお部屋も危険そうだから、ご遠慮しておくわね。」これで貸し借りはチャラ。
「そんなこと無いよ、おれっち、人畜無害だよぅ。」と、あきらめが悪い。あたしは席を立つと、あ、そうだ。聞き忘れたことが。「ヘンば色のシルフって、どんな感じの色?」
「え?そうだなあ・・・」いまだ脈があると勘違いしてか、思い出そうとしている男に少し悪い気もしなくは無いが。「そうだ、青っぽいな。いや、紫・・・そうだ、紫色が一番近い。」
な。絶句する。属性にはそれぞれ割り当てられた形(アーキテクチャ、原初の型)がある。
紫の色が示すアーキテクチャ、それは雷。そして、蛮神にもアーキテクチャが対応しているといわれている。雷をアーキテクチャとして対応させているのは・・・ラムウ!
なんてこと・・やはり神降ろしはされていた・・・。そして、おそらくは贄となったシルフ達が「悪い子」なんだ・・・。それで、仮宿なんかを作って領から逃げ出さざるを得なくなったか。
しかし・・・そうなると、ラムウは一体いつごろに?その辺も含めて長老に伺わなくては。いろんなピースが集まり、一つの絵ができあがっていくかの様に思考が動き出す。
そこに。
「な?役にたっただろ?だから・・」いつの間にか肩を抱き寄せようと手が伸びてきて・・
「ありがと。でも、ご遠慮させていただくわ。」
あたしはできる限り手加減をして。
左頬に拳、右わき腹にヒザ、左足にローキック、右こめかみに拳もう一回左頬に拳、右頬に拳、溜めてみぞおちに正拳突き、引いて、「く」の字になったところに、腹に肘打ち、
吹き飛ぶ前に顎を拳で突き上げて足が床から離れたところに回し蹴り、最後に後ろ回し蹴り。
ズドン、と壁にテーブルごと吹き飛ばされた冒険者。もちろん意識は無さそうだ。
「あちゃあ・・・」バスカロンは覆った手、指の隙間から一部始終を見ていたようで。
「あ。ごめんごめん。お店の修理費はコイツからね。っと、財布財布・・あった。ひいふう、なーんだシケてるわね。はい。」
ぽいっと男の財布を投げ渡し、「足りない分は皿洗いでも食材調達でも好きに使ってくれたらいいわ。」うん、万事問題なし。
「ああ・・。そうするよ・・・。」なぜかマスターはどこか違うところを見ている。
「じゃあ、行ってくるわ。ありがと。また寄るから。」
(こなくていいですよ~)
魔女が出て行く。


「バスカロン、今の音って、わあ!」
「久しぶりにたまげた。つか、昔アレをくらったの俺なんだよなあ・・。もうちょっと長かったけどな。あれで手加減したつもりなんだろうなあ・・・。」
「え?もしかして魔女?クマじゃなく?」
「クマって、あれだろ?愛玩動物。」
「えーと、野生動物のなかだと、かなりキケン指定だとおもうよ?」
「イアンナ。じゃあ、あの魔女は有害指定ってことでいいな?」
「かわいいのにね・・・。」



「また逆戻り、か。山塞ね。」
ぽつりぽつりと歩き出す。

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