735セブンス。白髪の乙女の事情。

「さーて。今晩のご飯は何がいいかしら?」
白髪を結い上げ、紅い着物を着た女性は独り言。
「家」には、姉と、もう一人。ある事情で住まわせている少年がいる。
この「家」は、実際には存在し無いコトになっている、と姉から言われたため、少年の外出は極力控えるように言い聞かせてある。
「ねえ、ミッター?」少年、ミッタークとは少しの期間だが、すぐ仲良くなれた。
「なに?ハク姉ちゃん。」
「夕飯はなにがいい?」
「んー。ハク姉ちゃんが作るのだったら、なんでもいいよ。」
「こらこら。」
この歳でお世辞、ということもないようだが、姉よりは完全に懐かれている。
なんといっても姉はこの少年には容赦がないから。
「叔母」という肩書きを自分でつけておきながら、「叔母さん」と呼ばれるとキレる。
そして、毎度のように天井から吊るされてしまうのだ。
(まあ、その度にこの子のオヤツを買ってくるのだが。)
「素直じゃないのよねえ・・・。」とつぶやき、「どうかした?」少年。
「なんでもないわ。じゃあ、そうね。とりあえず姉さんに頼んで食材を仕入れてもらおうか。」
「んー、なにかトンでもないの買ってきそう・・・。」
あはは「大丈夫だって。自分も食べなきゃダメなんだし。」(信用ないなあ・・)
「ふうん。」
「まあ、まだ少し時間があるから、数式のお勉強しましょうか。」
「えー、アレ苦手。」
「だめよ。ちゃんとお勉強しないと。大人になったらあなたが苦労するわ。」
「・・・ハク姉ちゃんがそういうなら・・・。」
「じゃあ、教本を取ってくるから、それまでにテーブルの掃除をお願いね。」
「はあい。」


姉が暗殺、という職に関わっている、と聞かされ。そして、最初の仕事で殺してしまった相手の息子。
自責の念からか、その子を引き取り、育てると決め。
今は、立派に家族の一員となっている。
だが。
やがて、彼は知ることになるだろう。自分の親を殺したのが誰なのかを。
その時、彼は何を思うのか?

少し、やるせない気持ちになりながら、教本を本棚から取り出す。
この本なんかも全て姉が用意したものだ。
姉は、あれこれ言いながらもあの子の世話を焼くのに腐心している。
「姉さん。」
今は・・・このままの暮らしが続けばいいと思っているのだが・・・。

リビングに戻り、授業を始める。



そこにノックが。
玄関まで出迎えに。
「川魚つってきたぞ。」と姉が帰ってきた。
(あちゃあ、食材お願いするのを忘れてた・・・まあ、いいか。焼き魚でも十分食卓を賑わす事はできる。)
「お疲れ様。」
「白雪、料理は任せた。わたしは少し横になる。」
「・・・また・・・お仕事・・?」
「お前は気にしなくていい。」
「その・・・」
「大丈夫だ。いわゆる殺しはしていない。森で暴れているチンピラどもを懲らしめただけ。」
「そう・・・。怪我はない?」
「わたしがその辺のチンピラ風情に何をされる?」と「刀の主(ソードマスター)」
「それはそうね。でも、危ない事はしないでね。」
「ここでの「仕事」で危なくない、なんて無い。それはそうと。お前。」
「はい?」
「銀髪のやたらへらへらした男に会ったか?」
「え?ええ。それが?」
「何か言われたか?」
「あ、ちょっとした知り合いなんで、挨拶に。って。姉さんがいないときだったから。」
「それ以外には?」
「特に・・・何か入用があれば、準備しますよ、ってくらい?」
(あの野郎・・・)
「姉さん、顔が怖い・・。どうかしたの?」
「・・・なんでもない。」自室に入っていく。「メシできたら起こして。」
「・・・うん。」


リビングに戻り、「よし!じゃあお勉強しましょう。ある程度できたら、夕飯の支度をするから。ちょっと手伝ってね。」
「うん!」



「あの、キーファーって野郎・・さっそく妹に声をかけ出したか。しかもわたしが居ない時を狙ってるフシがある・・・食えないヤツめ・・・・。」
黒髪の女性は、寝台で横になりながら、今回の仕事の顛末をあの男に伝えたのを思い出したのだが。
あのへらへら男は、少し残念そうに「なんで皆殺しにしなかったんです?」なんぞとのたまった。
全員の利き腕の腱を斬り、もう武器を振るうことができないようにして制圧してきたのが不満だったらしい。
「汚れ仕事はわたしが請負う、とは言ったが・・・・。」
黒雪は、なんともいえない気分で少しばかりの睡眠で疲れを癒す・・・。

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