725セブンス。初任務。

ここは森の街、グリダニアの一角。
細い路地をいくつかの角を曲がり、マップには載ってない区域に。
そういった路地はいくつかあるが、一般人はまず気がつかないようになっている。
ある術者が「人払い」の術式を込めたクリスタルを配置してるから。

「クラ、いくら情報屋から聞いたとはいえ、よく来れたね。」
「はい。コツを聞きました。」
「僕の術式はそう簡単には一般人だと入れないはずなんだけどね。」
「どうしてもご恩をお返ししたくて。」
「そりゃどうも。」

過去にそういうやり取りもあるような、そんな路地。

その奥に「家」がある。
こんな迷路めいた路地の奥や、森の中、いろんな場所に存在する「家」だが、河の近くに一つの「家」がある。
以前の住人は、任務の最中に落命し、空き家となっていたのだが。
最近、一人の住人が。

「ふう、なんじゃここは。」
「はい。「家」です。」
黒髪の美女の横には銀髪の青年。
「どうやったら、こんなところに入り込める?」
「それは、術式の護符を持っているから、ですね。」
「護符?」
「はい。これがあなたの物です。」と小さなクリスタル。
「これは?」
「この術式を組み上げた、おなじく「家」の住人が作り上げた結界をパスできる護符、ですね。「家」の鍵みたいなものです。失くさないように。」
「ふむ・・・。」どういう人物なのだろう?もしかすると・・・・
「そして、「家」には基本的に僕が赴いて「仕事」を伝えます。内容は細かいところまでは一応伝えますが、他言無用です。もし、公言してしまうと処分されますので、お気をつけて。」
「なんだか、いいように使われてるな?」
「まあ、そうですかね?ですが、「仕事」が無い時は基本自由ですので、遊びに行ったり、旅行を楽しんでくださっても結構ですから。」
「ふん。」
「ところで黒雪嬢。荷物を置いたらすぐに案件に取り掛かっていただきます。」
「は?」
着流し、といわれる着物の裾をひるがえし。
「大した荷物はないでしょう?何、ちょっとした用件なんですよ。」
じっと相手を睨む。このへらへらとした青年が何を言い出すのか・・・
「まあ、急ぎ、といえば急ぎなんですが・・」空を仰ぐ。まだ夕暮れには時間がありそう。
「ちょっと時間的に早いものですし。「家」の説明、というか、間取りくらいは見ておきたいでしょう?」
「・・・まあ。」
「では急ぎましょう。」
「・・・・。」


ほどなくして「家」につき、ドアを開ける。少しすえたような臭いがするが、換気すれば河のほとりだけにすぐに水々しい空気に変わるだろう。ただ水分も多いので、
家の腐食も気になるが、何故だかそういうことはなさそうだ。
「どうなっている?」
「いやあ、先の結界の応用、だそうです。自分が死ぬまでは責任を取る、とか言ってましたがね。あの人死ぬのかな?」
「はぁ?」
「まあ、そういう人も居るんです。もう数十年この「家」の管理もしてるんですけどね。」
「・・・・化け物か・・。」
「まあ、出会う事はあるかどうか。「黒衣」と呼ばれています。」
(!あの時の!)
「もし出会っても、ケンカとかしたらダメですよ?彼は女性には優しいですから、何もしてこないとは思いますけど。」
「・・・ああ・・」
「僕なんて、一度機嫌を損ねたみたいで、全身の皮膚が徐々にめくれ上がってくる、そして身体が裏返しにされちゃう幻覚を見せられましてね。
死ぬかと思いました。気がつけば道端で倒れてまして。っと、話が脱線しましたね。まず、ここがリビング・・・・・」説明が続く。

そして。
「わかった。で?」と黒髪の美女。
「はい。案件は二つ。まず、一つ目は暗殺です。今、葬儀屋は別の件で動いています。
なのであなたに。汚職をしている議員がいるんですが、それを告発しようとする議員が居まして。そちらからの依頼です。」
「あん?その汚職野郎をぶった切ればいいんだね?」
「逆です。告発するほうを斬ってください。」
「なっ!」
「これは微妙な問題でして。この汚職議員は、議会の中でも発言権があります。
そして今進めている街の復興にも多大な貢献をした、というまあ、成り上がりですが。彼が今ここで失脚するのはいただけない、という事です。」
「反吐が出る。」
「ただし、この告発する議員の方も実は色々と手を出していまして。どちらが「いらないか?」が今回の優先順位になったわけです。」
「どうかしてる・・・。」
「まあまあ、黒雪嬢。政治ってのはそんなもんです。」
「もう一個は?」
「ああ、こっちは今のところ急ぎ、といえばそうなんですが。「長老の樹」といわれる樹、森でも最古の樹といわれる樹に、イクサル族が侵攻するという話しでして。
今はまだ情報を集めているところです。先の「黒衣」が先遣隊らしき部隊の殲滅をしたので、まだしばらくは無いかと思われますが、どういう状況になるかはまだ分りません。」
「ふむ。」
「それで、急ぎ、というのは・・そろそろか。夕暮れまで議会がありまして、彼は家路に着くころでしょう。
人気のないところが一箇所だけありまして、そこでの始末をお願いします。後片付けはこちらでしますので。」
「・・・その・・・そいつ、家族はいるのか?」
「はい。今年で10になる息子がいるみたいです。」
「嫁は?」
「昨年、病で他界したようですね。なので金策などもあって、色々と手をだしたようです。」
「そうか・・。」
「では、よろしく。」
銀髪の青年は地図を渡すとどこかに。


「不笑。」
愛刀を腰に、その路地へと。

着流しをなびかせながら、人相を確認し。
その人物の横を通り過ぎる。

ちん。

男は「え?」とだけ。
そのまま倒れこみ、頭だけがゴロゴロと転がりだす。

「・・・・斬り捨て御免。」
颯爽と歩いていく。男の家へと。


コンコン。
ノックの音に「お父さん、おかえりー!」と小さな男の子。
そして、見たことも無い女性に、ひっ!と声を。
「大丈夫。わたしはあなたのお父さんの遠縁の者だよ。君のお父さんがね、ちょっと急に街を出て仕事に行かなきゃ、って。それを言付かったんだ。
それで、しばらく帰れないから、わたしに君の事を面倒みてくれって。」
「え?おねえさん、だれ?」
「わたしは、黒雪。しばらくわたしの家で面倒みてあげる。ついておいで。」
「お父さん、どこ行っちゃったの?」
「ウルダハ、とか言ってたね。遠い街だよ。」
「ふうん・・・。何も言ってくれなかった・・・。」
「急な仕事らしいからね。坊やのお名前は?」
「ミッターク。ミッターク・ヘルブスト。おねえさん、黒・・なんだっけ?」
「黒雪。グリダニア風に発音すると、シュヴァルツ・シュネー、かしら。」
「ふうん。じゃあ、ちょっと荷物と、家の片付けしてくるね。ちょっと待ってて。」

見送ると、少し涙が出てきた。
「すまんな・・・。」




この後、少年と「家」で過ごすことになる。

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