702セブンス。黒衣と魔女。

第七霊災と呼ばれる災厄のかなり前のお話。

森の都グリダニア。そして、その郊外にて。
「ちょっとー、また?」
黒衣森の中、ちょっとした小屋がある。
普通には見つけにくい場所にあり、知った人間でも迷いがちな。
そして、その小屋の住人は一人の少女。
グレイの髪を紐でたばね、愛らしい顔つき。
年の頃は14,5という所か。あるいはもう少し若い、いや、幼いかもしれないが。
そして、放り込まれた書簡を見てブツクサと言っているのである。

「来られたし。」
簡素な文だが、内容は既に理解している。
「仕事」だ。
とある事情でこの国の密偵や破壊工作なんかを任されてしまい、この符丁で依頼者に呼ばれる。依頼者は陰気クサイ政府関係者で、毎度のようにぶーたれているのだが。
ついこの間、リムサ・ロミンサの海賊船アスタリシアだったか?の強襲をこなして、先日帰ってきたばっかりだったのだが。
「あんなにヒドイ目に遭ったのに、もう仕事?やってらんないわ。」
正直な意見。
革鎧を着けたまま海に飛び込み、なんてするもんじゃない。
それでなくても船長に斬り殺される寸前だったというのに。
「いいや。寝よう。ムシムシ。」
寝台に寝っころがる。

そこに。
こんこん。
とノックの音。
「ん?」朝もまだ早い。こんな時間、しかもノックとは。
「スゥ?」と同年代の少女の顔を思い出す。
鬼哭隊の隊長の娘スウェシーナは大事な友人であり、この小屋の場所も知っている(たまに迷って泣いているところを回収するのだが。)
こんこん。
続けてノック。
「ん?」おかしい。スゥなら続けてノックではなく、「いるんでしょ!レティ!」と声を張り上げる。
「これは・・。」
玄関に赴く。
「はあい?」
と声を出すと、ドアの横にある紐を勢いよく引っ張る。
実は。
玄関先にはトラップが仕掛けてあり、屋根の梁に見せかけた丸太が振り子のようにドアの前に落ちてくる。知らない者はまずコレで吹き飛ばされることになる。
そしてドアには小さな切れ目が入っていて、中からは見えるが外からは中が見えない。
玄関の前に人影が無いのを確認すると、少女は愚かな闖入者の顔を拝みに少しドアを開ける。

「やあ。」
そこには。
影。
いや、黒衣の何者かが立っていた。
「なっ!」少女は驚きを隠せない。
「お邪魔するよ。レティシア嬢。」
確かにトラップで吹き飛んだはずだし、ドアからも視認できていない。だが。確かにその影は立って。
「な、なによ!あんた!どういうつもり!?」おもわずうろたえてしまった。
「ああ、挨拶が遅れたね。僕は魔魅夜、という者ですよ。お嬢さん。よろしく。」
黒いとんがり帽子を脱ぐと一礼。黒い髪がさらりと流れる。
見た感じ女性というか、中性的な容貌。黙っていれば女性に見られるかもしれない。
だが、声は男性らしいしっかりした声音。
そして黒いローブ姿で帽子をかぶりなおすと影の中に白い顔だけがくっきりと浮かぶ。
面妖といえば、まさしくそうだろう。
「な、何しに?」
声が上ずる。
「あなたをお誘いに。」
「へ?」
「ええ、書簡が着たでしょう?そして僕がお迎えに来たのですよ。」
「は?まさか・・・・あんた、「家」の?」
「ええ。おそらくしぶるだろう、と彼から言われましてね。連れて来てほしい、と。ああ、もちろん乱暴な手段は取りませんから安心を。」
「帰れ!あたしは寝る!」
「それは困ります。案件的にはあなたが適任らしいので。まあ、僕もサポートしますから、大丈夫ですよ。」
「イヤだと言ったら?」
「言えないとおもいますよ?」にっこりと笑顔。
「じゃあ、イヤだ。」言い切った。
「困りましたね。」ここで緻密で膨大な術式構成が一瞬で展開される。
「う!」
術式のあまりの緻密さ。そして膨大。それを瞬時に展開され。
構成が分ってしまう自分がイヤになる規模。
「乱暴はしない、って言わなかった?」と強がる。
「ええ。女性に手をあげる、なんてもってのほか。僕は女性の味方ですよ。」構成は消えていない。
「脅し?」
「いえ。ただ僕のサポートを受けれる、ということはこの規模程度の術式なら、いつでも展開できる、という、まあ、保険ってところでしょうか?」構成は霧散する。
「何者?」純粋な問い。
「先ほど名乗った通りですよ。」にこにこ。
「わかった。行くわ。で?どんな案件?」
「はい。少女の拉致誘拐です。おそらく、というかほぼ確実に奴隷商に売られるのでしょう。」
「なんだとっ!それなら!あんた程の腕前ならあんた一人でいいじゃないっ!一人でそんなやつら壊滅できるでしょうに!」
「いえ。それが巧妙でして。なかなか尻尾をっと、ミコッテではありませんが。つかませてくれなくて。僕に声がかかりましたので、一計を案じました。」
「それが、あたしと・・・って、もしかして、あたしに囮になれって!?」
「はい。」にっこり。
「この野郎・・・・・。」
「大丈夫ですよ。安全は保障しますから。」
この男・・・・
でもまあ、同い年くらいの少女が奴隷商に売られていく、というのはさすがに看過できない。自分ももしアラミゴからウルダハに逃げていれば、そうなっていた可能性も。
「いいわ。やってあげる。」目に決意を。
「それは頼もしい。改めてよろしくお願いしますよ。レティシア嬢。」
「いいわ。よろしく。」

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