687セブンス。姉妹は。

荒野の宝石といわれる都。ウルダハ。
その圧倒的な威容と、交易都市としての潤い。
そして、その闇。

「お姉ちゃん、そっち行った!」
「分ってるわ!大声立てんな!」
「お姉ちゃんの方が大声!」

ハイランダーの姉妹は、近頃頻発している窃盗団の駆逐を任務として請負い、そのアジトを見つけ出して。
追い回しているのである。
第七霊災と呼ばれた災厄から5年。各地で復興がされる中、こういう輩も増えた。
正直な話、自分達もこういう輩になっていなかった、とは言い切れない。
辺境にある寒村での暮らしは、都会であるウルダハとは比べ物にはならない。
ちょっと宿などを借りようものなら、一月は暮らせる額を提示される。
たった一晩で、だ。
なので、冒険者などをしているのだが。
これはこれで破格の報酬が得られるため、一度やると辞めるに辞めれない。
「ユーリ!あっちや!」
「OK、お姉ちゃん!」
窃盗団は5人ほどの規模だが、大の男が5人。
翻って姉妹は二人。
どう考えても逆に襲われてもおかしくは無い。
普通の姉妹なら。
「2秒で死ね。」
氷結の術式。
恐ろしいほどの速さで展開される術式。さらに魔力を注ぐ呪。
緻密な構成を一瞬で編みこみ、展開した姉は遠慮という言葉にうといのかも知れない。
まさしく2秒ほどで男3人が氷柱になる。
「こっちも終わるよお。」
大きな斧を振り回す妹。
致命傷とはさすがにいかず、いや、手加減しての事だが。
それでも短剣を振り回していた男二人を。
手首ごと吹き飛ばしたりしていた。
「ユーリ、やりすぎんなや?」
「お姉ちゃんこそ。その氷、生きてんの?」
「知らんわ。気にするほどやないやろ?」
「こわ・・・。」
「なんかゆうたか?」
「なーんにも。」
「ほな、連れていこか。おい?オッサン?しゃべれるか?」
「助けて・・・。」
「アホか、お前。うちらが相手でよかったなあ、くらいは言えや。」
「お姉ちゃん、容赦あらへんからなあ。」
「お前も氷にすんど?」
「それは堪忍やで・・。」
姉の術式展開の恐ろしさは身に染みてわかっている。
両手首を落とされた二人に蹴りを入れつつ、屯所まで。
途中、氷柱になった男を蹴り飛ばすと、カシャン、と音を立てて砕けて壊れた。
それを見せ付けられて、もはや抵抗など・・・
「あいよ、手配中のやつらね。お代は?」
「確か5人だっただろう?」警備屯所の衛兵。
「3人はツララが、っと、一人は砕けたわ。」
「な、何をした!?」衛兵は焦り。
「なんや?文句あんのんか?」術式を展開。
その一瞬で展開された術式を見て衛兵は「待て。わかった。」とだけ。
「ふん!」と構成を霧散させて「どうなんや?」と。
「これが報酬だ。よくやってくれた。」皮袋を渡す。
「ほんならな。」と姉妹は屯所を後にする。

「ふう・・。とんでもない女だな・・。」衛兵はとりあえず両手を落とされた賊に「命があっただけでも儲けものだぜ?」と言いながら、治癒のための術士を呼ぶ。
「あ、あんなの、アリですか・・?」賊が。
「世の中いろんなのが居るが。アレはかなりヤバイな。まあ、もう悪さはできんだろうし。あんなのに目を付けられたのが不運じゃないか?」
確かに。両手は失くしたが命はある。氷柱になった3人に比べれば・・・。
「レディアイス(氷の女)、か。」

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