683セブンス。門をくぐれば・・

「わあ!」
オレンジ色の長い髪をぱっと、振りながら黒髪の相棒を振り返る少女、いや、そろそろ女性か。
「なあ、ミー。イナカもん丸出しはやめろって。」
ぶっきらぼうな少女・・いや、こちらも女性に成長している。

小柄なエレゼンの女性、ミーランは、そんな言葉も聞いていないのか、クチを開けたまま上を見渡す。
巨大な城壁に囲まれ、多種多様な建築物は荘厳と言ってもいい。
実家(焼けてしまったが)のあるグリダニアとは、全く違う光景に心が奪われ。
もう、どこを観てもクチが閉じられない。
「わああ!」
相棒のヒューランの女性、エレディタはこの危なっかしい相棒をどうしたものかと頭を悩ませて。
エレゼンの女性、ミーランはどちらか?といえば天然系で、なおかつ温かい家庭で育ってきている。こういう街の特異性や、危険には程遠い。
しかしながら、この数年で剣聖に師事し、ある程度の技術も学んで、かつ「騎士」の称号も得る事ができた。
さらに、師匠から、騎士の栄誉のご褒美?として、「ジュワユース(よろこばしきもの)」という、名刀を授かっている。
この剣は、ハタで見ていても異常と言えるくらいに彼女の剣の腕前を上げている。
もともと、剣筋はいいのだが、どうにも振り回されている感があったのだが、この剣を振るいだしたら、振り回されるどころか水を得た魚のように、
恐ろしいほどの正確さで、かつ、迅速。並大抵の魔物や、輩など、モノともしないだろう。
ただ・・
「ねえ、エリ!あれってなんだろう?」
空を往く船を指差し。
「あれは飛空挺やん。この街はたしか塔みたいなところが発着場やしな。グリダニアみたいに、水に停まるわけやあらへんで。」
「ほー。そーなんだ。エリってば物知りだね。」
「ミーが知らんだけや、この阿呆。」
「ぶー!」
実際、エレディタは3国全てを周っている。
親に捨てられて、リムサ・ロミンサで孤児達に混じり、腕っ節でもって、当時のリーダーであり、恋仲だった相手を放り出した後、自身がリーダーに。
その後、剣聖と名乗るルガディンにいい様に叩きのめされ、チームのリーダーを辞め、その男に着いて行った。
その時に訪れた街だが、かの霊災以前だったため、今のこの「街」がどうなっているのかは分からない。ただ、以前に訪れた少女の頃は師匠に「おいらからは、絶対はぐれるなよ?」
と注意された。
「なんでや?おっさん?」と聞けば。
「自分が商品になりたければ、好きにすればいい。」と。
その言葉の意味を理解すると、ルガディンの肘にしがみついて歩いたものだ。
相棒の、このなんというか。
あまりの無防備な、いや天性か。
ゆったりとした森の街、グリダニアで暖かい家庭育ちゆえか。
もう、なんとも危なっかしすぎて見るに耐えない。
「ミー、とりあえず宿。そこで一旦荷物降ろして見物しようや。」
「うん、エリは此処初めてじゃないんでしょ?」
「まあな、せやかてあの災害の後に来たんは、初めてやさかい。あれこれと変ってるかもしれへん。ただ、この街の特性は変ってへんはずや。
せやさかい、ミーみたいなのがウロチョロしとっと、どっかに連れてかれっで?わかったな?」
「はあい。」
少し頬をふくらませる。その表情すら可愛い、と同性ですら思ってしまう。
確かに無防備なこの娘がふらふらと歩いていたら、間違いなく「商品」にされるだろう。

「確か・・」門から少し先に噴水があって、その奥に酒場「クイックサンド」があるはずだ。
そして、宿も。
この手の施設は、大手の街なら大抵はあり、剣聖と訪れたときもその宿を使った。男女ながら、同室で若干の抵抗も無きにしも非ず、ではあったが、身の危険を考えれば・・・
当時はそう思ったが、さすがに宿のグレード。そういう事故?は一度も無いという。

賑わう酒場「クイックサンド」場所的にはさすがに変らないか。

二人でずかずか、と入っていくと、やはり野次が来る。
「おい、ねーちゃん!今夜どうだい?」「いや、俺とだろう?」「賭けるか?」「満足させれるのは俺だね!」
くだらない野次にいちいち反応しそうになる相棒を掴んだ手で引きずるように。
エレディタは、やっぱりお嬢様だな・・。と。
スラム暮らしだった彼女はこういう野次や空気には慣れているが、相棒はどうにも。
「ミー、いちいち相手してたら、一晩で何人のオトコと寝るハメになるか、よーく考えろ。」
「ひぁっ」と悲鳴。どうやら尻をなでられたらしい。
「わかったか?」
「うん・・・。」

カウンターに行き、赤い髪が印象的な女将モモディに話を。
「なあ、砂時計ってまだつかえるやんなあ?」
宿の名を知ってる、というのは符丁だ。
「あら。あなた。宿の名を知ってるって、なかなかね~。」
女将はララフェルらしく、年を感じさせない。
「で?」エレディタはおどおどしている相棒にも黙ってろ、と視線で合図しながら。
「いいわよ~」と。軽く受け付けて。
「あいよ。」と前金を支払う。
「?」と相棒だが、この街では前金は当然である。すっぽかして逃げるなんて、当たり前なのだ。ましてや街一番の宿である。当然の事。
その代わり不審者など、寝込みを襲う輩などは絶対に無い。そこらの安宿だと、次の日には宿泊者や荷物が一切合財無くなっていた、なんて、世間話ににすら昇らない。
「ミー、荷物置きにいくわよ。」鍵をくるくるっとまわしながら。
「うん。」
階段を上がり、ドアの並んだ廊下の一室から。
「あら?」
ブルーグレイの髪を少し伸ばした(以前より)女性が、小さな女の子を連れて出てきた。
「あれ?マユさん?」
ミーランは驚きと。エレディタはふうん、と。
少し年上の女性と、まさかの出遭いに戸惑いながら。
「あの、今日は?」
「うん、ウルラがね師範代とかやってるものだから。暇つぶしがてら、久しぶりにウルダハで3,4日くらい。」
「なるほど、ですね。そういえばマユさんって、ウルダハに詳しいんでしたっけ?」
「災厄の前、ならね。復興してからはほとんど来てないから、自信はないよ?」
「ママ、誰?」
小さな女の子。
「ミーランさん、そして、エレディタさんよ。ちゃんとご挨拶しなさい。」
「よろしく、アナスタシアです。」ぺこり。
「よろしくね。ターシャちゃん。」「よろしくな。エリ、でええよ。」


この後4人で街並みを見物に行く。   赤ん坊のアクィラは寝かしつけてお留守番。

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