552書き物。風見鶏七

なんとも苦い。
自分のツバがこれだけ苦かったのか。
もしくは言われた事が苦かったのか。

新参のマリーにとっても、彼女の親友たる少女にとっても。

苦い味が口に残る。

リンクシェル風見鶏のリーダー、シュナーベルは頭をかきながら。
今、まさにちょっとした祝勝会みたいにパーティーをしているだろう。
自分で提案しておきながら遅刻して。
さらに、あんまり嬉しくない話しか土産が無いとは。
「まいったね・・。」
頭をかく。
もうすぐカーライン・カフェだ。
そして、カフェが見えるとさらに口の中の苦味が増す。

とうとう着いてしまったか・・・。
覚悟を決め、ドアを開けてメンバーを探し。

「いらっしゃいませー!」とミコッテの馴染みの少女から案内される。
正直、この明るい声は嫌いではないが、今の自分からすれば明る過ぎる。


「あ、ベルが来たにゃ!」銀髪のミコッテの少女が明るく。
同じく、この明るすぎる声も今は痛い。
このミコッテの少女が自分に恋心みたいな事を言ってくるが、今はそれが痛い。

こげ茶色の髪の青年ファーネは、なんとなく事情を察したのだろう。
「どうかしたのか?」と。彼はやはり勘がいい。
それに応じ、「ああ、いい話と悪い話がある。」
自分の声がこんなに重いとは知らなかった。


内容を伝え・・・。
他言無用、と言われたことも親族ゆえ、それもたった一人の。
伝えた時の金髪の少女の表情は忘れられない、と思った。

空虚、という言葉は今まさに存在するんだな、と。

彼女はパールを着け、兄に伝心して・・・・・・・
愕然とした表情に。

そして。
彼女は先ほどの元気な表情から一転、シュナーベルよりも沈痛な表情で。
「ベル。ごめんなさい。わたし、参戦できなくなっちゃった・・・。」とだけ。
ああ、それがいい。まさにそのために伝えたのだから。
「そうか。気にするなよ。もともと俺だけが参戦するはずだったんだ。」
苦い味は・・・・・
やはり苦いが、この少女だけは・・・。
そこで銀髪の少女が。
「じゃあ、私は参戦するにゃ。ベルの横に居たいのにゃ。」
これも・・。
苦味が増す。
だが、彼女の生い立ちなど知ってしまっては、ここで無下にはできないかもしれない。
なにより、自分を慕ってくれている。それは分かる。
分かるのだが、どう応えていいのかがまったくわからない。

相棒のグリュックは・・・・まあ、そうだろう、とはおもっていた。
コイツとは腐れ縁だ。風見鶏の立役者でもある。

しかし。
ルーまで巻き込んでも・・・。いや、彼女も風見鶏の一員として覚悟を決めたのだろう。それを否定する権利は自分にはない。

「そうか。ありがとうルー。」かろうじてそれだけが言えた。


そして、ファーネは辞退を申し出た。
これもありがたい。一人悲痛な少女を残すのも心が痛む。
「よろしく頼む。」
金髪の少女に顔を向ける。

もともと二人だけだろう、と。後の3人は残って戦乱なんかに行って欲しくはなかったのだが。
時間をかけて考えてくれ。そう言ったのに皆が即答してしまって。
俺は仲間に恵まれているな・・・・。


「それでは、今日をもってリンクシェル・ウェッターハーンはしばらく休業する!」

また逢おう!

「再会の時まで各自、自分を磨いておいてくれ。」


なんとか言えた。
こうなると、再会するのは当然の約束だ。奮戦するしかない。
やってやるか!悪ガキ根性が出てくる。おそらくグリュックもそうだろう。

「じゃあ今日はこれにて解散、だな。」
全員で拳を合わせ合う。
「風見鶏、再会を!」
「おう。」「にゃ!」「ああ!」「はい・・。」

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