543書き物。風見鶏参

銀髪を長めに伸ばしたミコッテの少女、ル・シュペヒトは一人キャンプに居た。
ナインアイビー。グリダニアから東に進んだところにあるこのキャンプは、それなりに盛況なのだが、
運悪くPTに入れなくあぶれてしまい、結果として一人で誰も居なくなってしまったキャンプで大声で叫ぶハメになってしまったのだが。
まず、時間が悪い。もう陽も暮れてしまい周りはすでに真っ暗になっている。
焚き火とエーテライトだけがその暗闇を払拭しているのだが。
「誰かいないかにゃー!?」
返事はない。
キャンプに常駐する衛視が気の毒そうに少女を見ているが、特に声をかける気はなさそうだ。
「にゃう・・・。」短めの真っ白のローブが焚き火の灯りを照り返し、
銀髪とあいまってとても魅力的に見えるが、今はその表情は泣き出しそうな。

どうしても今日中にリーブをいくつかこなさないとダメなのだ。
孤児の彼女は宿を間借りしていて、家賃が払いきれていない。
そのために明日一番で家賃を払えないと追い出されてしまう。
それほど上等な宿でもないが、ここ数ヶ月となるとさすがに問題がある。
しまいには宿の主に「冒険者以外にも稼ぐ手段くらいあるだろう?」とまで言われ。
こんな宿なんか出て行ってやる!と決意もしたが、いかんせん先立つものが無い。
「もう・・・ダメかにゃあ・・。」
本気で借金のカタに体を売るしかないかもしれない。

そこに。
「やあ、君もしかして冒険者かい?」
黒髪の青年は背に槍を携え、スケイルメイルを着ていた。
どう見ても冒険者の男性から。
「はいにゃ!」おもわず答えていた。
「おいおい、ベル。いきなりだな。」赤毛のルガディンが声をかけてくる。
「ああ、失礼。俺はシュナーベル、ベルでいいよ。見ての通り槍使いだ。」
一礼。
「お。俺はグリュック。格闘なんかをやってる。」
大柄なルガディンは後ろ頭をかきながら。
「あ。」少女は少し警戒しながら。「ル・シュペヒトにゃ・・。」
「そうか、見た感じ幻術士なんだね?俺たちもリーブをしようとおもって来たんだが、誰も居なかったらどうしようかとね。」
「おう。」
「ふにゃ。」
「いやあ、なんせ二人とも前衛だしね。回復が使える人が居ればいいなあと。なんせ相棒がいきなりこのキャンプに行こうとか言い出してね。」
「おう。」
「そうなの?」
「ああ、恥ずかしながら。もうちょっと計画的にやらないとダメだなあ、なんて道中ケンカしたくらいだよ。」笑いながら。
「おう。」
「・・・。」少女は少し表情を引きつらせ・・・・
「もし君さえよければ一緒にリーブをやらない?もちろん初対面の男二人相手だから断ってくれてもいいけれど。」
「おう。」

ええと・・・どうするかにゃ・・・。
青年二人は普通に声をかけてきたが、ぱっと見悪人にも見えない。
だがこの手の類が悪人だった、という事は身に染みて分かっている。
孤児だった自分を引き取った育ての親は、成長したら売春宿に売るつもりだったらしい。
ロクでもない親から逃げ出して、瞑想窟に逃げ込んでなんとか事なきを得たが。
それでも子供では済まされない年齢にもなり、一人暮らしを始めたのだが。
どうにも要領が悪いのか、稼ぎはかなり厳しく。
PTに入れてもらうには装備もそれなりに必要なのだが、そっちを優先すれば宿代が払えなく、
宿代を優先すれば装備が貧相なままで、結局のところ行き詰ってしまったのだが。
しかし・・。ここは断る手は無い・・・。
もしこの二人がやましい考えを持っているとしても、その時はそのときだ。

「よろしくお願いしますにゃ。」ぺこり。
「ああ、よろしく。引き受けてくれてありがとう。」と青年は黒髪を下げる。
「おう。」こっちは泰然としたままだが、悪い気はしない。
「じゃあ、ルーって呼んでもいいかな?俺はベルでかまわない。コイツはグリュック、だけど縮めるスキがなくってね。」
「おう。」
「あ、はいにゃあ。よろしくですにゃ!」
どうやら見た目通りの性格みたいだ。



夜中遅くまでいくつかのリーブをこなして、今日は解散となった。
「あの・・・。」
黒髪の青年を呼び止め。
「どうかしたかい?怪我はなかった?」
よし、少し聞いてみよう・・。
「あの、LSって入ってるのかにゃ?」
「ああ、実はね。といってもコイツと二人だけなんだ。まあガキの頃からの馴染みでね。」
わあ。今までずっと一人で野良と呼ばれるPTにしか経験がない自分としては、すごくうらやましい。
LSを立ち上げるだけの腕もなく、いつも変るメンバーの顔色ばかり気にして来た。
「そ、その。LSの名前、聞いてもいいかにゃ?」言ってしまった。
何回かこういう質問をしたことはあるが、「LSに入るの?悪いけど足りてるんだ。」
そう言われては宿に戻り泣く夜を過ごしたものだ。自分は要らないのだと。
だが・・・。つい・・・・・。この青年に惹かれてしまった、とおもう。
これまで恋愛などする機会も余裕も無かったが。
つまりは一目惚れというやつなのかもしれない。
返事を待つ数秒が永遠かと思えるくらいに長い。やはり拒絶されるのだろう、そう思うと後悔が徐々に心に染み込んでくる。
きつく目を瞑る。

「ああ、俺達はウェッターハーンって言うんだ。君も入るかい?ルー。」
え?
今、なんて?
「その・・・。」
「いや、俺達二人だけだとさ、どうしても回復役がいなくってね。しかも俺もグリュックもどうにも前衛だけに暴走しがちなんだ。
これまで本当に傷だらけでね。家に帰る度に親からはボロクソに言われてね。はは!」
「おう。」
「あ、あの・・・その・・・。」声が詰まる。
「迷惑だったかな?まあ次に見かけたときには声をかけてくれよ。じゃあ、グリュック。帰るとするか。」
「あ、待ってにゃあ!」決心をして。「私も入れて欲しいにゃ!」
ん?と不思議そうな表情になった青年。
「だめ・・・か・・にゃあ?」泣きそうになる。
すると青年は満面の笑みで。
「大歓迎だよ!ルー!ようこそ!風見鶏へ!これが俺達のリンクパールだ。」
小さい宝珠を受け取る。
宝珠の中にある旗章は鶏をかたどったシルエット。なるほど確かに風見鶏だ。
「こちらこそ、よろしくにゃ。ル・シュペヒト、風見鶏の一員としてがんばりますにゃ。」
深くお辞儀をし。
「じゃあ、ルー。せっかくだし打ち上げでもしよう。宿はどこかな?あんまり遅くなるとまずいだろう?」
「あ、いいにゃ!安宿だから!」
「そうか、ちゃんとした宿に泊まった方がいいよ。年頃の女の子がそんなところなんて。」
う、お金が無い、なんて今言えばやはり嫌われるだろうか?LSからも外されるかもしれない。
「うにゃ・・。」
「まあ、とにもかくにも打ち上げに行こう。話しはそれからだ。」
「おう。」
「はいにゃあ。」


その日の夜は一夜を徹してワインなどを飲み明かし、支払いは二人がしていった。
宿にもどり、リーブの報酬から借金を払いきると、宿を引き払う。
「ベルの家の近くがいいにゃあ・・。」
うっとりと。
これが恋なのかにゃあ・・・・


----------コメント----------

ええ話やのぉ・・・。
これからだったのにのぉ・・・。
(>'A`)>ウワァァ!!
Fizz Delight (Hyperion) 2013年04月10日 10:38

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>フィズさん
ですねぇ・・・。
若手が先にいってしまうのは悲しいですね・・・。
Marth Lowell (Durandal) 2013年04月10日 10:45

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ベルとルーには一夜の過ちというか
ちょっと甘い展開はなかったのかな?なんて
思ったりして(*´ω`*)未遂でもイイナw
Fizz Delight (Hyperion) 2013年04月10日 11:30

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>フィズさん、なんていうかすみません・・・
ベルとルーにはそういった関係はありません・・・。
積極的なルーは、人恋しくてベルに惹かれ、ベルはそれに気づかずに日常の一つにしてきましたので。
悲恋です・・・。
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月11日 00:53

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oh...
フネラーレはちゃんと戦場に来る前に・・・ゴホホン
してきているというのに><ベルの馬鹿ん!
Fizz Delight (Hyperion) 2013年04月11日 09:38

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>フィズさん・・・・
ソコいきますかwちゃんとしたパートナーとしてはまだまだだった、という事ですね。ベルは最期の時に気がついたようですが・・・。
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月11日 09:47

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男はいざという時へたれ!
Fizz Delight (Hyperion) 2013年04月11日 09:58

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>フィズさん。うんそうwwww
ここ一番がねーw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月11日 10:31

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