504書き物。少女と青年。

グリダニアの宿、と言えば数あるが、「とまり木」は何と言っても冒険者御用達。
その一室。
ミコッテの少女は長めの銀髪を後ろに束ね、荷物の整頓に追われていた。
「んー、と。こっちは持っていくモノにゃぁ・・。それと・・。こっちは箱にいれてっと・・。これは・・・。うん、要るにゃ。」
独り言を言いながらの荷物の整頓はそれなりにはかどるようで、仕分けに忙しい。
彼女は、今度の大戦に遠征を希望し、その間の荷物が散らかりっぱなしでは帰ってきた時や、
いざ現地で必要なものがが無い、などという、悲惨な目に遭いたくないからだが。「終わらないにゃあ・・・・。」涙目。
彼女はかなりの衣装持ちゆえ。
年頃の女子としては当然かもしれないが・・・。
まずは上着から、と言いつつアレコレと仕分けしているが、肝心の戦闘用装備まで行くのに一晩では足らない予感に眩暈がしつつ。
「こっちにゃ!あ、コレは・・パスにゃ。」
白魔道士ル・シュペヒトの終わらない夜が始まる。


「なあ、グリュック。」黒髪を少しだけ青く染めた青年。
LS風見鶏のリーダー。シュナーベル。向かうは赤毛のルガディンの青年。
「そういや、二人で飲むのも久しぶりだな。」
カーラインカフェで解散したものの、二人だけで留まって飲んでいる。
「おう。」
ルガディンの青年は大体、こんな返事しかしない。が、顔を見ればその返事にどんな意味があるのかが分かる程度には付き合いは長い。
「今回は、なんだな。つき合わせて悪かった、と思ってる。」
「おう。」
「後は部隊配置の申請だけど、正直二転三転しそうでどうなることやら。」
苦笑しながらワインを一口。
「おう。」とワインを一気に飲み干して、おかわりをオーダー。
そこへ。
「よ、お二人さん。お邪魔するぜ。」
こげ茶色の髪を長めにした、少しシニカルな青年。ファーネ。
もともと、とある富豪の跡取りとして、このLSに助力を求めた彼だが、
就任わずか1分でその座を弟に譲り渡し、ほとんど無一文でこのLSに転がり込んできた。
「煙草、いいかい?」と葉巻を取り出し、テーブルにあるランプで火をつける。
「おいおい、返事聞く前かよ。」とベル。
「おう。」グリュックは応、なのか否、なのか判断に困る返事。
「っと。灰受けがいるな。」ポケットから厚手の革でできた小さなポーチを取り出す。
「用意がいいな。」と呆れ顔。
「まあな。」
「おう。」
「で、お二人さん。今回の戦、どうみるね?」
「ストレートだな。ファーネは。」
「まあな。 おーい。えーとイーリスちゃんだっけ?俺にもワインくれ。 
俺は冒険とかは初心者だが・・いや、マリーには初心者卒業とか言われたっけな。
まあいい。こういう外交やなんやかんやには、それなりに鼻が利く。はっきり言うぜ?ヤバイ。今からでもいい。降りろ。」
「何故そう思うんだ?」もっともな指摘のベル。
「コイツは勘、としか言いようが無い。なんかキナ臭いんだ。」
「それは鬼哭隊や、双蛇党や、他のカンパニー首脳がか?」
「いや、そうじゃない・・・。帝国さ。今更なんだってモードゥナの平原あたりまでやって来る必要がある?
ヤツら航空隊とか持ってて、一回竜の一族に壊滅させられはしたが、
このグリダニアの空にまで飛んできてるんだぜ?おそらく他の2国にもな。なのに、
なんであんな場所で陸戦なんてやるんだ?それがわからねえ。」
「とはいえ、侵攻してくる敵のなすがまま、というわけにもいかないだろ?」
「そいつはそうなんだが・・。」
「それとな、やはりこの国を愛する身としては、指をくわえて待っている、なんてことはできないんだ。」
「おう。」
「あら?グリュックってウルダハじゃないのか?」
「グリダニアだよ。元々は。格闘の修行のために引越しをね。」
「なるほど。じゃ二人は元々知り合いだったわけか。」
「ああ。」「おう。」
「なるほど。で、LSを?」
「まあね。幼馴染の悪ガキ二人で作ったのさ。」
「へぇ・・。ちなみに名前の由来は?」
「俺たちの集合場所だった公園から見える屋根の上に「風見鶏」があってね。アレにしようぜってな。ははは!」
「がははは!!」
二人は屈託無く笑う。当時の悪ガキのように。
「そういえば、ルーは?」
「ああ、あの子はリーヴだったかな。一人でこなそうとして、傍目にもあまりにも危なっかしい挙動に、ついつい助太刀したんだ。
そしたらLSに入れてくれって。そしたら、白魔道士になりたいとか言い出すから。どうしていいやら分からなかったけど、まあなんとかね。」
「ほう。じゃあマリーは?」
「あの子は最近入ったんだけど、お兄さんとコンビだったんだが結婚を機に独り立ちを余儀なくされたみたいでね。
彼女、すごく人見知りだったみたいだが、俺達に声をかけてきて。それからの縁だよ。」
「人生いろいろだな。」「だね。」「おう。」
「ところでファーネ。マリーの事はどう思う?」
「ソコを聞くかい?いい子だよ。それこそベルはルーの事を?」
「うん。俺は・・その鈍いから、あの子の積極的過ぎるところが本心なのかどうなのか、
よくわかってない、が正解かな。俺自身としては、好き、なんだと思うが。そういうファーネ。お前のほうこそさっきの、「いい子」で済ますつもりか?」
「そうだなあ。許婚もいるにはいたんだが、カネしか興味無いような女ばっかりでな。
当主辞めたらスタコラッサと逃げられて。そういうのばっかり相手にしてたから、正直ものすごく新鮮で眩しいね。
これを恋だというなら、そうだな。恋なんだろう。」
「それはそれで大変だな。」「まったくだ。」「おう。」
「でグリュックは?」x2
「おう。」
「答えになってねえじゃねえか。」x2
「ま、こんなヤツだけど、とても頼りになる。安心して待っててくれ。」
「ああ。あとマリーは大丈夫かな?なにやらパールで兄上とも色々あったようだが。」
「その事だ。よろしく面倒みてやってくれ。彼女は一人にしておくと、少し危うい所がありそうでね。だからファーネも辞退したんだろう?」
「バレてたか。まあでも帝国の脅威は本当に俺の勘だが。何か別の事も考えてそうでな。」
「ああ、わかった。気をつける。じゃあ、俺達はそろそろ寝るとするよ。お疲れ様。」
「お疲れ、だ。ファーネ。」
「ああ。お疲れ。じゃあな。」手を振り合う青年達。

「俺も寝るか。」カフェの二階に向かいながら(死ぬなよ。)と思いを込める。



「おにいちゃんのばか・・・。」
金髪を枕に埋め、溢れる涙はこめかみを伝い、髪にしみこみ、枕を濡らす。
涙は枯れるのだろうか?
そうすれば、悲しみは去るのだろうか?
だったら、枯れ果てるまで泣き続けよう。

コンコン。
ノックの音。「だれ?」
「俺だ。ファーネだ。もう寝ろよ。」とひと言。そして去っていく足音。
泣き声が聞こえていたのだろうか。
とたんに羞恥で顔が火照っていく。
「もう、なによっ!ひとの気もしらないでっ!」
脳裏にあの皮肉気な顔が浮かぶ。
明日からは別行動になる3人と、こちらはあの青年と二人。
泣きはらした事がバレているとしたら、会わせる顔などない。
あまりの恥ずかしさに、体を丸め、シーツに潜り込む。
「ヘンに勘がよすぎるのかしら・・」
そして、泣きつかれたのか、ゆっくりとまどろみの中に落ちていく。
その時にはもう、涙は止まっていた。


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若いな・・・フ

おう。が笑えますなw
Fizz Delight (Hyperion) 2013年03月13日 14:03

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>フィズさん。おう。

認めたくないものだな・・・若さゆえの過ちを。
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年03月14日 00:30

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