486書き物。もう一人の少女。

エレディタ・クリゾリートはリムサ・ロミンサの生まれだ。
特に変った出自でもない。
黒い髪に、黒い瞳。ヒューランとしては凡庸、といわれてもおかしくは無い容姿。
やや痩せ型、なのか少し背が歳の割りに高いせいか。
ただ、彼女の暮らしていた世界は、同年代の少女たちとは一線を画していたのは誰もが思うところだろう。

スラム(貧窟街)で暮らす彼女は、いろんなグループに分かれ、
さらに海賊達もスラムにはやってきては、こういった少年少女達から金品や体を略取していく。
それに対抗すべく、グループでは体術を鍛えたり、武器の扱いに馴れた者がトップに立つ。
その責任と、地位に憧れて、一人、また一人と独立を目指し、
または他のグループを併呑し、権力という甘い蜜を求める者も出てきて。
そんな中、数年前に一人のあるカリスマ的な女性が消えた。
「悪運」と称された彼女は、海賊の卑劣な人質をとった行動に果敢にも一人で立ち向かい、そして消息を絶った。

「姐御・・。」
まだ年端も行かない頃にスラムに置き去りにされたことを恨んではいない。
親にもいろんな事情があったのだろう。
自分と同じように。
しかし、そんな子供にも分け隔てなく接してくれた、エレゼンの女性。
「ベリキート・・さん・・。」
悪運と称された彼女は、ナックルでの格闘が得意だった。
自分も見よう見まねで、拳を振っていたが、見つかると叱られるためこっそりと。
そして、こっそりやっていると、見かねたのか「こうするのよ。」と教えてくれた。

そうして数年が経ち、気がつけば自分が一つのグループを引き連れる立場になっていた。
「姐御!」ひとりがやって来て。息も荒々しく。
「なんや?」
「その、姐御に会いたいってヤツが。」
「なんやそれ。尻尾まいて帰れ、って言うたれ。」
「それが、その・・。」
「ハッキリ言えや!」
その時。「では、お邪魔するよ。お嬢ちゃん。」
赤銅色の肌のルガディン。
「あんだあ?テメエ。人んチの家に黙って入るってなあ、どういう了見だ?ああン?」
「いや、悪かった。ユパ、という。教導を旨とする「教授」にして、「シーカー(見つける者)」というふたつ名を頂いている。
君の噂を聞きつけて、是非とも逢ってみたいとおもったんだな。」
「そんで?」
「おいらの弟子にならないか?」
「は?」
「もう一度言う。おいらの弟子にならないか?」
「ココ」と頭を指差し、「おかしくね?」
「おかしいかどうかはさておこう。どうだね?」
「ふん、じゃあさ。ウチに勝てたら考えてやってもいい。」
「勝負は?」
「カードだ。」
「ほう、自慢の格闘ではない、と?」
「オッサンみたいなガタイのデカイヤツにわざわざハンデ付きの勝負挑むバカがドコにいんだよ。コッチのが問題ねーだろ?」
「なるほどな。一理ある。」
「おい、カード持ってこいや。オッサン、その辺に座ってろよ。」
「ああ。」
座り込むルガディンに、不意打ちの回し蹴り。

バシッ

「ハンデは無し、だなあ?」綺麗に蹴り上げられた右足を受け止め、さらに。
「勝負はどうするね?お嬢さん。」
「ち、放しやがれ!このくそ野郎!」
「ふむ。じゃあおいらの一勝でいいな。」
「く・・。好きにしやがれ。おい。ウチはもう引退だ。負けちまった。」
「そ、そんな・・・姐御。」
「うるせえ。負けたら最後、引退しかねえんだ。あとはお前が勝手にやれ。」
「おいおい、そんな無責任でいいのか?」
「黙ってろ!オッサン。ウチらにはウチらのルールってのがあんだよ。文句があるならスラム全部救済してみろってんだ。バーカ。」
「そいつは難しいな・・。だが君を育てることはできる。育った君がこのスラムを救済する手伝いをしてくれたらなあ。」
「ち、調子狂うな、アンタ。」
「そういえば名前を聞いて無かったなあ。」
「エレディタ。エレディタ・クリゾリート。家名に誇りなんてねーけどさ。一応名乗らさせてもらったぜ。」
「おいらは、ユパ。ユパ・ボレーズ。よろしくな。」
「ああ、よろしくな。オ・ッ・サ・ン。」
はは、と笑うルガディン。

二人はこうして出会い、師弟関係を築いていく。


----------コメント----------

教授と言ってもいろいろな人がいるなぁ、と思ったり。
ユパさんのように弟子をとったりする人も居れば、
自分のように護衛会社を設立し、ビジネスとして指導する人も居る・・・。
面白いものですw

まゆりさんの小説は読み返すほど思うことが増えますねぇw。
最高の小説ですw
Marth Lowell (Durandal) 2013年03月04日 18:59

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>マルスさんw買いかぶりデスヨw
でも、そう言っていただけると作者冥利に尽きるってことで。
ありがとうございますw
楽しい、ですね。こういう創作というのは。
思い付きから始めたお話が、知らない間にあたしの手を離れて、いっぱしの小説になってるなんてw
まだ続きますよw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年03月04日 19:40

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