485書き物。見守るもの。

とある郊外の一軒家。
森に囲まれた街のはずれにある住宅街。
その一番入り口手前の。
少女の家はそこにある。

「う~ん。」
赤毛ともオレンジ色とも見えるエレゼンの少女は、「今日」という期限に頭を悩まし。
お使いから帰ってくるや否や、こっそりと買った「物」を見ながらどうしようかと考えていた。

革鎧。
こつこつとお小遣いを溜めて、なんとか買ったはいいものの。
正直、着ることは無いだろう、とすら思っていたのに。
エレゼンにしては小柄な彼女に合わせて採寸してもらい、手直しをしてもらった一品。
そして、すぐ横には小振りの直剣。
これまた手にすることは無い、と思っていたのだが。
「うーん・・」

何故に悩むのか?と問われれば、これらを身につけるにはやはり「覚悟」が必要だ。
今まで荒事とは無縁だったが、冒険者あがりの母と、現役の父。
そして、それほど長くは無いが、居候していたアラミゴの青年。そしてその妻となった少女。
年頃の少女としては、かつて無い気持ちを持つのにそう時間はかからなかった。
「ミーも冒険者になりたい。」
かつて両親にそう訴えたが、二言目も無く却下されてきた。
しかし。
いざ、冒険者になれる道が提示された今、悩む自分が居る。
先日、15の誕生日を迎え、父から「お前の好きな道を選びなさい。」と言われたのだ。
最初は目の前に光が溢れるかと思った。しかし、現実はそうではなかった、ということか。
「ユパ様。」ルガディンの冒険者。後から聞いた話ではいろいろなことに精通している「教授(プロフェッサー)」ということ。
彼らは新参の冒険者に啓蒙を示す者として、冒険者達の間でも尊敬される。
「ミーは・・。」うなだれる。
この革鎧すら袖を通したことが無い。いや、通すことができない。なぜなら、着方が分からないのだ。
自分の命を預ける鎧すら身につけられないのだ。この先が思いやられる。
しかし。
「やってみなくちゃ。」期限の夕刻まで時間はあまりない。
とりあえずワンピースの上から装備してみようとして、うまくいかずシャツに着替えて
着てみるがゴワゴワ感は否めない。「コレ、もしかして下着の上からかな・・・?」試してみるが、
ひんやりした革の感触に「ひっ!」と声を上げる。
こんなことであきらめる、なんてできない。が、さすがに地肌に革はムリということで、
インナーを身につけ直接触れる部分を減らすことに成功した。
だが、リベットやボタン部分をどう止めていいのかわからず、悪戦苦闘の末なんとか。
対のスカートタイプの鎧もつけ。
あとは剣帯を吊るし、カバン類をまとめれば、いっぱしの冒険者に見えるだろう。

そして。
ここからが重要だ。
両親は黙認してくれてるとはいえ、今まで猛反対だった冒険者になる、のだ。うん。そう。なる。
家を出るときにこの姿を見られるのは、なんとなく罪悪感がある。
「いいよ。」と言ってくれた父と、無言だった母。
やはり、見せたくはない。
誕生日の次の日、決意を込めて言い出しはしたものの、やはりどこかで後ろめたい気持ちがある。
でも。それでも、この世界を自由に歩くことのできる冒険者に憧憬の念を禁じえない。
「うん。しっかりしろ、ミー。時間はもうないんだぞ!」
自分を叱咤し、それでもこっそりと家を出る。


「あなた。」
キッチンにはパンを焼かせればグリダニア一、と言わしめるエレゼンの主婦が。
「ああ、メーヴェ。」
「行っちゃうわよ?」
「仕方ないだろう。やっぱり俺達の子だったな。としかな。」
呪術士にして幻術士のエレゼン、アルフレートは仕方が無い、とばかりに首を振るだけだ。
「もう。何を格好つけてるのよ。」と呆れ顔の婦人。
「ウルラ君も出て行ってしまって、ミーも出て行ったらこの家は広くなってしまうね。」
「そうね。でもウルラ君はマユちゃんと結ばれたんだし、いいんじゃない?」
「そうだな。でもこの先災厄が降りかかってくる。二人とも無事に乗り切れればいいんだがな。」
「あらいやだわ。縁起でもない。大丈夫。あの二人ならなんとかするわよ。母君も現役みたいだし。」くすり、と笑う。
「そうだな。まずはわが娘、ミーランに幸あれ。」
「ええ。私達の子ですもの。大丈夫よ。」
「まあ、昨日のレーゲンやユパの話からすれば・・。今回はユパか。まあ、アイツなら大丈夫だろうな。」
「任せる相手次第で大丈夫かどうか決めるのは、ミーに失礼だわ。」
「ああ、すまん。ミーのいいところを引き出してくれるだろう。教授に敬意を払うのは冒険者としての常識だけどな。」
「そうね。あなたも教授を目指したら?」
「無茶いうなよ。」
「はいはい。っと。パンが焼きあがったわ。それとシチューもね。」
婦人は次々とテーブルに並べていき、席に着く。
「二人だけの食卓も随分久しぶりだな。」
「そうね。じゃあ。」ワインを持ってくる。
「娘の成長を願って。」
「乾杯。」

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