470書き物。冒険者達の日常・・・。あるいは休暇。

グリダニアの一角にある「家」
普通に一軒家なのだが、住人は少し普通ではない。

紺色の給仕服に白いエプロンドレス姿の銀髪、漆黒の肌のシェーダー出身の女性。
彼女は今まさしく給仕、という業務に取り組んでいる。

「おいコラ!ベッキィ!ぶっころスぞっ!てめェ!」
寝台に横になっている黒髪の少女は、右わき腹の激痛も気にせず喚き散らす。

ガちゃん。パリン。と寝室にも聞こえてくる破壊音。
「ち、お気に入りの皿割ってやがったラただじゃオかねェ。」
だが寝台から抜け出すにも彼女の手が必要だ。
なんともならないが、一食あたり皿を数枚も割られ続けたら明日にでも皿が無くなってしまう。

「フネラーレ?何かおっしゃいましたか?」
ドアを開けて寝室に入ってくる。
「僕のお気に入りの皿を割ったらぶっころス。そう言っタんだヨ!」
「あら。御気になさらずに。ちゃんと掃除はしております。」
トレイにはトーストが若干、いや、それなりに焦げて乗っている。
「お前ェな、パンくらいちゃんと焼けヨ。」
実はそれなりに料理のできる少女。
「はい。善処いたします。」
先日の負傷でロクに動けない少女は文句を言いながらもパンをかじる。
しかし、この二日3食、焦げたパン。しかも皿が何枚割れたか分からない。
「あーショコラ来ネェかなあ・・。」
褐色の肌のミコッテを思い起こす。彼女は食通でいわゆる屋台などの「オイシイ」店を知り尽くしている。
焦げたパンをかじり終え、フネラーレはうんざりとした表情でわき腹を押さえる。
「なァ?これって回復術式で治らネェのか?」
傍らの給仕娘は同じく焦げたパンを食べ終え
「魔女が散々回復術式、および蘇生術式を試したそうですが。結局のところダメだったようですね。」
「じゃアなんで僕は生きてるンだ?」
「それは・・。高位の術式を使った、という事ではないでしょうか?確認はできませんが。」
「アイツ、本気で魔女だナ。」
「はい。手合わせは初めてやりましたが、ワタクシも相手になりませんでしたし。」
「ヤったの?」
「はい。」
本気で魔女、か。そのまんまだナ。ベッキィも本気、ていうかキレやがったナ・・。
この給仕娘はキレると見境が無い。
そして、まずはこのマズすぎる食事の改善のためにも傷を癒さねば・・。
「ふぅ・・。ありがト、ベッキィ。もう寝るヨ。」
「はい。かしこまりました。ゆっくりと養生してください。それでは何かありましたらお呼びつけください。」
部屋を出て行く。

「ねえ。カルヴァラン?」
首に下げたパールに語りかける。
「・・・・・・。」
返事は無い。
「次、いつ逢えるかナ?」
「リッラ!お前、起きても大丈夫なのか?」
「動けないけドね。」
「そうか。魔女には感謝しないとな・・。」
「あア、貸し借りはもうナシ、ダ。次はケリをつけル。」
「お前なあ・・。」
「カルヴァラン。」
「どうした?」
「好き。」
「今更か?」
「ううん。」
一呼吸。
「じゃあ・・・。」
「ああ。」
「愛してる。」
「知ってるさ。」
「嬉し・・い・・・」
パールを握り締め、ゆっくりと睡魔に身を任せる少女。

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