450書き物。それから~幕間。2

淡い草色の髪のヒューランの女性、シャルロッテ・アメテュストは一つの野望があった。
滑らかな白い肌、誰もが振り返る美貌、活発な性格、魅惑的な容姿。
女性として必要なものはほぼ全て兼ね備えていた。男性にとって、だが。
ただ一つ。
絶対的な一つが足らない。
彼女はそう考え、それを補うために行動をした。

金銭を伴う地位。

つまるところ、恵まれた容姿やそういうものを活かせる立場というか、地位にはいなかった。ならば?

活かせる場所に出ればよい。

そういうことだ。

そして。

グランツ・フリューゲル。
森の都市国家、グリダニアでも有数の富豪であり、政治に関する発言権も高い。
このフリューゲル家にまずは給仕として入った。
15歳の時だ。
もちろん、まだまだ小娘、それも容姿はさておき貧民の出自だ。当然の事ながら、家名すら名乗れない。だが。
上司たる婦長や、先輩給仕を時には篭絡し、時には蹴り落としながら。
「アメテュスト」という家名すらもらい、当主の愛妾にまで上り詰めた。
正妻の女はいけ好かないヤツだが、もはや当主グランツは自分の言う事しか聞かないだろう。
正妻の間にできた二人の子供達だが、コレには特に気を揉む必要がなかった。
理由としては、片方はどうにもデキの悪い放蕩者で、もう一人は普通以上、くらいしか認識がない。
しかも後継としては、グランツから正式に認定されなければ認められない。が。
すでに妊娠し、正妻を追い落とすことも可能になり、寵愛を一身に受ける自分ならば。

ワタシは、夢を叶える事ができる。
貧困であった子供時代、夢にまで見た生活が目の前にある。



が。


ありえない、あってはならない事が起きた。

先代当主の遺言書、なるもの。

しかも。

それは瞑想窟の導師(それも、カヌ・エ・センナの腹心)が持っていたのだ。
遺言にはこうある。

「我が息子、グランツが当主たるに値しない場合、孫のファーネに家督を譲るものとする。」と。

とんでもない話だ。もちろんグランツは当主としては上々の働きをしている。
ただ、少しばかり違法な事や・・・もちろん正妻をさておいて自分を寵愛し、あまつさえ妊娠させたのだ。
「当主に値しない」と認定されてしまえば、グランツはおろか、自分さえこの家から放りだされるだろう。
しかももみ消しができる話ではない。カヌ・エ・センナの腹心が持っているという、その書なぞ、手の出しようが無い。だが、本当に?とも思う。

だから。

直接的な手に打って出ることにした。
あの息子達が居なければいいのだ。
とても簡単。

シャルロッテは寝台でグランツに抱かれながら、ほくそ笑む。

葬儀屋達を動かせる人間は限られている。
そして、限られた人間の一人なのだ。自分は。

遺言書にはこうある。「孫が20歳の生誕日を迎え、当主がその器でなければ上記の通りと致す。」

あと3日。


もうすぐワタシの夢は形になる。そう、この役立たずの男の正妻に納まり、前妻の息子達を葬り、この男が「綺麗に」死んでくれれば。

激しいバリトンに、優しいアルトで応える。「愛しているわ。グランツ。」

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