440書き物。それからの続き。2

「ンで?」
黒髪の少女の声は酷く冷たい。
 
ここはグリダニア。
森林と共存し、精霊の加護の下、繁栄を約束された街。

(なんてウソだあああ!!)と青年はその謳い文句にケチをつけながら廊下を走る。
リビングを出たら真っ直ぐの廊下がしばらくあり、その突き当りが外に脱出できる、ついては、
串焼きの素材にされることを少しでも先延ばしにしてくれる場所へのドアが存在するのだが。
もう少し。あと一歩。ちょっとの努力。根性。勇気。友情。親愛。あ、あとなんだ、食欲。お賽銭。それから・・・

ダンッ。  矢がドアに突き刺さる。

恐る恐る、後ろを振り返る。
リビングから出てすぐのところに黒い、そして白い少女。
手には・・。「コフィンメイカー(棺桶職人)」大振りな強弓。彼女の母親の形見、だそうで銘は自分でつけたらしい。
そこは問題ない。十分に腕前を発揮してくれさえすれば。そして、遺憾なく腕前を発揮されている以上、文句の付け所は無いが。
「ひ・・。しぬ・・。」
先の矢はまさしく右のこめかみをすれすれに通り過ぎ、玄関ドアに突き刺さった、という事実で。
もちろん、それが意図的にハズされたことは十二分に理解している。次は・・。

ダンッ。左のこめかみすれすれ・・。
もうダメだ。腰がくだける。
ドアノブにかかりそうな手をぺたんとくず折れた膝に乗せて、首をかくん、とうなだれたその瞬間、後頭部すれすれに矢が通り過ぎる・・・。
(本気で殺す気の射撃だ・・・。)銀髪の青年はもはや硬直しかできない。せめて苦しまないようにお願いしたい。そのくらいか。
しかし、もう矢は来ない。そのかわりに。
鈴を鳴らすような、もしくは高音域の弦楽器のような。そんな声。

「ンで?」少し変ったイントネーションながら、その外見にふさわしい声だとは思う。
黒と白のコントラストが少女に一層の非現実感を与える。
人形のような少女の口からもれ出る言葉は・・・・。
「てンめェ!覗きしテやがったンだってなァ?あァ?」
少女の顔はというか、頬が若干朱を帯びているのは、着替えを覗かれたのではなく・・。その前の・・。
正直、覗きどころか、下着姿はおろか全裸まで自前で披露するくらいなのだ。ソコじゃない。
「ああ、まあ、その。フネラーレ?似合っていたよ?」これは本音だ。
「ほう?」少しだけ機嫌が直っている・・・このまま・・
「や、でもね。聞いてくれ。ノフィカ様に誓って。最初に覗いたのは、ショコラ達なんだよ、本当。
それで二人が倒れこむから、何があったのかって。心配で覗いたんだよ。本当。信じて。」
銀髪の青年、キーファーはもう涙目もいいところだ。
「ふうン、でも。ワラッタダロ?」
「ひッ!」
「キコエテタヨ?」顔を近づけ、金色の瞳で睨みつける。
「あ、いや、その・・フネラーレも女の子らしいところがあるんだなって、再認識しただけだよ・・・・。」と視線が泳ぐ。
「チ。まァいいや。あの二人にも少し脅シかけとくカ。」頬はまた少し赤くなっているが、ソコを突っ込めば今度こそハリネズミか、串焼き素材になる。
「そうそう、依頼の件ですが。」
「ア?そういや、何か言ってたナ。まあいいや、リビングで聞くヨ。」
と身を翻す。
(ふう・・・。なんとかなった・・・。)振り返ってドアを見ると鏃が完全にドアを貫通している。本気でコロす気満々だったようだ。(あぶねー・・。)

ピーンと張り詰めた空気のリビング。先ほどまで大笑いをしていた二人もあまりの殺気に冗談が出てこない。
最後に入ってきた銀髪の青年、キーファーの疲れた顔を見てもコメントは無い。
「で、依頼って。捜索?だッケ?」黒髪、黒装束の少女は、ふわあ、とアクビをしながら先を促す。
「はい。名家のご子息が行方不明になりまして。鬼哭隊と連携・・とはいきませんが、こちらにも要請が来ています。」
「迷子のお坊ちゃんなンて、ほっときゃイイだろ?適当に探しました、見つかりませんでしタ。
でチャンチャンさ。お金持ちの道楽ボウヤが痛いメに遭うのも社会見学のウチさ。」
「そうですね。不謹慎ながら、ワタクシも同意見でございます。」とエレゼンの給仕。
「わっちは、スデに経験してるから。死なない程度に遊ばせてあげたらどうかな?」
「お嬢様。不憫な思いをされたのですね。ワタクシが付いていればそんなコトには。」
顔を両手で覆う給仕の女性と、見るからにウザっ!という表情のミコッテ。
「だから、おめェが居なかったからショコラはこれほどまでニあつかましく・・、逞しく、なったンだろうが。」
「はあ・・。皆様のご意見、ごもっともですがね・・。実は・・。」
「実は?あンだよ、もったいぶるホドの話かヨ。」
「この、「家」のパトロンのご子息です。なので、今回は必死で鬼哭隊すら出し抜いてでも「実績」を挙げないと、少しヤバイ事になります。」
「マジか・・。」珍しく動じる少女。
「はい、幸いなことに鬼哭隊の隊長は出払っていて、我々が先手を打てる状況です。
それに誘拐など、事件性の高いトラブルですと、機動力に勝るこちらが上です。
時間が経てば、人手の多い鬼哭隊が先にトラブルを解決してしまうでしょう。ですが。
「家」のパトロンはもちろん神勇隊関係者です。鬼哭隊に先んじられるような事になれば、
面子などいろいろな部分で失点になりかねません。そうなれば・・。」
「ああ、解ったヨ、おいキーファー、できるだけの情報を出せ。
ショコラとベッキィ、先に街中にもぐり込んでおいて。それとベッキィ?給仕服はヤメとけよ?」

「はい、とりあえず資料だ。似顔絵は無いが、こんな感じ、くらいには。」
「はあい。わっちの網にかかってるか確認してから出るね。」
「ワタクシはこれで大丈夫ですが・・。」「好きにしナ。」

「さてと、迷子の迷子の子猫ちゃン、だったラまだマシだけどナ。どら息子だったら命の保障ができないヨ。」

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