438書き物。それからの続き。

「家」
普通、家といえば住宅として機能する建物である。
ただし、この場合は「符号」としての「家」となる。

グリダニアの郊外、それもどちらかと言えば治安がヨロシク無い地区。
別名「地図に無い場所」
一般人はおろか、冒険者ですら足を踏み入れることは無いであろうエリアに「家」はある。そして。

コン・ココン・・コン。
一定の韻を踏み、強弱をつけることによってノックの音で内容を知らせる符丁。
エレゼンの女性は、廊下の突き当たりにあるドアにノックする。
そして静かにドアを開けると、来賓を部屋にエスコートし、
「まゆり様をお連れしました。」と会釈と共にそのまま中に。

エスコートされた女性は、レッドブラウンの髪を後ろで束ね、濃いブラウンの瞳は何処と無く愛嬌がある。
服装はといえば、この辺りでは見られない少し変ったベージュのジャケットと、タイトなスカート、肩掛けの大き目のカバンくらいか。
ミコッテの少女が気にして見ていたが、バーバリーだよ、と言われ、「?」マークが満載だ。

この後、ちょっとした「いんたびゅー」なる、受け答えがあり、あっさりと珍客は帰ってしまった。

「ねえ、キーさん?」
「どした?ショコラ。」
「さっきの人、何処のひと?」
「さあ?フネラーレ、知ってるよな?」
「あァ。何度か顔は合わせてル。ショコラも一回くらい会ってなかったカ?」
「・・・見たことあるかも・・・。」
「謎のお客様でしたね。ワタクシから見ましても。」
「オマエが言うカ。」とげんなりしながらクッションから這い出そうとあがいているが、埋もれたまま、いかんともしがたいらしい。
純白のドレスに身を包み、おおきなピンクのクッションに埋もれるように座っている少女は紛れも無く「綺麗」だが、出てくる台詞は・・。
「オイ、ショコラ。いい加減にココから出セ!でないとケツの穴に何本矢が刺さるか試してヤる。」などと物騒な・・。
「あわわわわわ・・・!」と、ミコッテが椅子から慌てて立ち上がり。
「お嬢様になんて事を!」とエレゼンの女性が、毅然と立ち向かう。
「まあ、そろそろってか、次の依頼もあるからな。お遊びはこの辺にしてくれますか?」
「あァ?」銀髪の青年の提案に「そういヤ、最近。キーファー?「丁寧」さが、無くなっテないかナ?」
「そうでしたっけ?」
「ですます口調だったのになア?」
「ええと、その。フランクにいった方がいいかなあ、なんて。」銀髪の青年は後ろ頭をかきながら。
「ふうン。まァいいヨ。で、その依頼っテのは?」問いかけるイタズラめいた表情と、服装にクラッときつつ。
「捜索、です。」と、かろうじて理性が勝ち、ちゃんと言い終える。
が、その後の理性がどれほど保てるかは分からないので、早急に着替えて欲しいとミコッテの方を見る。
(てつだって)とアイコンタクト。(ムリ)と返信。(つかえねー)そっぽを向かれる。
だって・・いつもは雑に下着だとか、裸身をさらすのに。今回は・・。ちょっとやられた・・・・。うなだれる青年。

二人がかりでクッションから解放された少女は「着替えてくル。」と寝室に入ってカギをかけてしまい。

「んー、わっちのドレス、一人で脱げるかな?」と心配げだが。
「大丈夫でしょう、お嬢様。もしなにかあれば、お声がかかるでしょう。」エレゼンの給仕。
待つことしばし。
「やーっぱムリ、かなあ?」「さて・・どうでしょうか。お嬢様。」

「ああ、フネラーレが居ないが・・今回の依頼、説明だけしておこう。とある名家のご子息が行方不明でな。
今さっきの事で、似顔絵とかが用意できていない。鬼哭隊にももちろん通達が行っているが・・。
隊長殿が私用で出払っていて、そのすぐ後に依頼が来てな。」
「隊長、どこで遊んでるのかな?」
「そこまで詮索するのは、俺達の仕事じゃない。ただ、急な呼び出しだったみたいだが・・。」
「魔女かなあ。」・・・「ん?」
変な韻を踏んだ綺麗な音だけど音痴なメロディ。
「ん?」どこからだ?まさか、魔女?

隣のドア。おそらくそこから。そしてそのドアはフネラーレの寝室。

おそるおそる・・。ドアのカギの穴越しに目をあてるショコラ。

「・・・・・・・。」
お腹を抱え、のけぞるが決して声には出さない。命が惜しいから。
続いて無言のまま、ベリキートが覗き込む。
ドサッと音が立ちそうな倒れ方だが、無音で倒れる。
 
銀髪の青年は恐ろしいとは思いつつ・・。つい鍵穴に目を・・・。

その向こうでは、大きな姿見を前に純白のドレス姿の少女が色々とポーズを取っていた。
それも普段からは信じられないような、少女感まるだしというか、シナまで作ってみたり、
そのポーズをしながら音程無視の鼻歌が、ふん♪ふんふ~ん♪と。
そのドレス自体が気にいらない、だったハズだが、姿見を前にした少女はご機嫌そのものだった。
足元を見やれば、お腹を抱えて大爆笑したいのを必死でこらえる二人がいる。
いっそのこと、自分も中にはいれればいいのだが・・。

「フネラーレ、着替えは済んだか?」と無難に。
しばらくして。
「まだだヨ!覗くんじゃネぇゾ?」と。
ココにきて、さらに足元の二人がのけぞるように笑いをこらえている。
(や、やめて、キーさああん、もうガマンの限界~)
(お、嬢、様、ワタクシめ、も・・・限界、かと・・。)

「ああ、わかった。」そのまま部屋を出て行き。

ぶふっ!くくくくく!とドア越しに。

(卑怯者!ぷ。くっ。ダメ、・・わっち、だめ。ぷ。)
(お嬢、ぷ。く。様。ぷ。くく。)

コツコツとドアに近づく足音に反応して、倒れたその場から飛び退って、いつものポジションに収まるのはさすがだろうか。
しかしながら、片方の頬がゆるみがちなのは二人ともに致し方が無い、のか。
そしてドアからフネラーレがいつもの黒いチュニックを着て出てくるが。「あレ?キーファーは?」
「ああ、キーさんなら鍵穴から覗きして、颯爽と逃げて行ったよー。」

「コロス・・。」

ここにきて、ようやっと腹筋を開放して大笑いした二人。

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