417書き物。悪運 4

おー、くわばらくわばら。

目の前に歩いている、給仕姿の小柄なエレゼン。
自分の髪とは正反対の透けるような銀髪。
そして、肌の色も正反対の漆黒。

少し後ろに距離を置いて、黒髪の少女はモトは何してたんだろうな?この女。
と考えていた。
何しろ、格闘術がとんでもない。
先に二つ名の由来「悪運(バッドラック)」のさわりを聞いたのだが。
とてもじゃないが、あの技術は持てないだろう。
僕ですら、避けれたのは最初だけで、それもギリギリ。
続く拳は、謝罪の言葉が自分でも信じられないくらい早く言えたからだ。
目の前に拳が止まったままで、何とかケガだけはしなかったが、肝を冷やしたのは事実で。
アレなら、「天魔の魔女」と互角にやり合えるかもしれない。
まあ、魔女サマは格闘以外の技も多彩だから、戦術がきちんと練れていないと到底勝つことは難しいけど。

そんな取り留めのない考えをしながら、てくてくと歩くこと、半時間。

屋台が立ち並ぶ広場に出てきた。

どうせショコラの事だ。この中でどれが一番なのか、ちょろちょろと動き回っては、味見をしているのだろう。

ここで、僕の出番となる。
「マーキング」
この金色の眼で見た相手は「マーキング」され、いつでも追うことが出来る。
もちろん、居場所の特定などは当たり前だ。
が。
少し厄介なのが「見たもの」がほとんどなこんな人ごみだと、どうしても選択して選ばないといけない。「要る」のと「要らない」のと。
最初、この能力はすごいと思ったけど、この選択をするのがひたすら面倒で、数日は頭痛に悩まされた。

今では、効率よく頭から追い出したり、見ないようにして、整理できるようになったけど。

「居タ。」
屋台の群れの奥の方。

「お嬢様!」
駆け出しそうな危険極まりない給仕の女性の肩に手をかけ、待ったをかける同じく銀髪の青年が、綺麗に人ごみの中に吹っ飛ばされるのを見て。
もちろん屋台だの、客だのの料理の行く末は見るまでもない。

頼むから、僕には襲い掛からないでくれよ、と念ずる。

「どちらですか?」とにっこり。

「あァ、あっちの屋台の、ほラ。赤い屋根。あそこ。」

「ありがとうございます。」一礼。

「こワすぎだろ、アレ。」
吹っ飛ばされた先で、乱闘になりつつあるボンクラ青年の救出に行くべきか、ショコラとあの給仕の女がどんな邂逅をするのか・・・・。

「アッチだね。」迷わず、赤い屋根の屋台に向かう。
後ろからは、聞きなれた声で「たあすけてーーーー!」とボンクラが声をあげる。
「一回で懲りろヨ。」
そのまますぐに駆け出して。

生き延びろよ・・。と祈っておいた。

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