332書き物。少女の期待。

グリダニアの宿の一室。

寝台に横たわる少女は、深夜になってやっと眠れそうになった。

遅くまで友人とワインを飲み明かし。
散々、いじられ、時にはノロケ返し。

今は解散と相成って、シーツにくるまっているわけなのだが。

左手の小指(薬指は、結婚までとっておこう。と言われ、「はい。」としかいえなかった。もちろん、皆には秘密である。)
に嵌めてあるリング。シルバーの地金にリンクパールがつけてある。LSには、二人だけの名前。

ウルラ・コリーナ
マユ・ヴィルトカッツェ

小指のリングを右手で包むようにして、「おやすみ。」
と念を送る。

返事は無い。

そのまま、眠りに落ちる・・・・・・。








明け方、それほど寝たわけでもないが、目が覚めて・・。うとうとしながら・・。
もう一度眠りに落ちる。
(何してるんだろうな・・・。)

朝日が射そうかというタイミング。
もうすぐ意識が眠りに落ちそうな。
頭の中に声が。
愛しくて、今すぐに逢いたい人の声が。
パールを通じて聞こえてきた。

「おはよう。マユ。君にいいお土産ができたよ。」


「!!!!!!!!」声にならない。
ウルラっ!!!


「どこっ!?」念だけではなく、声に出てしまう。
あ。
「おはよう。ゴメンね。ウルラ。その・・・。」

「うん。おはよう。」
こっちの気もしらないで、いとも暢気な返事。なんだかハラが立ってくる。

「もう・・・。」涙があふれる。
「何度も何度も呼びかけたのに・・・。」涙が止まらない。

「ごめんな。おれの都合ばっかりで。今、クルザスに居る。野宿なんでキャンプの場所
まではな・・。」
パールから届く声は、本当にすまなさそうで、本当は逢いたいという気持ちも・・。

「そう・・・。」寝台から体を起こし、涙を拭う。

「ああ。帰ったらちゃんと渡すよ。それまで大人しく待っててくれよ?」
もう!
何をバカなコトを!
もう涙は出ない。

「あたしが大人しく待ってるワケないでしょ!そっちこそ待ってなさいよ!」
声に出して言い放つ。

一方的に念話を切ると、寝台から飛び降りる。


クルザス・・。数回行った事はあるけど・・。


とにかく、準備だ。今は朝・・。少し陽が昇りかけたところか。

装備や、服を引っ張り出す。ついでに下着やなんやらもカバンからはみ出して、もしくは飛び出してくるが、気にしない。

ああ、水浴びくらいはしていかないと!

ということは、さっき投げ出した下着もタオルも要るし!

ええと、鎧は・・これだ。レザーのジャケット。新調したお気に入りの装備。まだ誰にも見せていない。

急がないと、アイツはすぐにどこかに行ってしまう。


水浴びを済ませ、装備もOK、朝食は・・パンか何かカフェで買っていこう。よし。

ドアがノックされる。
「マユちゃん、起きてる?」

マリーの声。ノブにすでに手をかけていたため、すぐに開ける。
「ごめん。行くところができた。行ってきます!」
とドアの前で目をパチクリさせている少女にカギを押し付け、「あ、ごめん!カギよろしく!」

脱兎のごとく階段を駆け下り、朝食用と、ウルラ用にサンドイッチを二つ、カナルに注文すると、
偶然「作り置きのでよければ。」と、二つ出してきてくれた。
どうにも、朝帰りの冒険者用のが余ってしまったらしい。
だが、ナイスだ!
「ありがとう!」

その場で移動術式を発動させる。行き先はキャンプ・グローリー。
おそらく、そのあたりだろう。

「待ってろよー!というか、待たさない!」


キョトンとした表情で蒼い光に包まれる少女を見送るカナル。
「あらまあ。どうしたのかな?」



「よし、着いた!」
周りを見渡し、おおまかな見当をつけて走りだす。

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