さわやかな風。
切り立ったような岩山。
風にそよぐ青い草。
いい景色だ。
寝っころがり。
少年はそう思う。
牧歌的。
表現としては、たぶん、きっとそうなんだろう。
「こんなにバカみたいに敵が強いとは・・ね。」
クセ毛の金髪の少年は、いかんともしがたい表情で綺麗な蒼天を見上げる。
大の字になって、草原に寝転がって。
クルザス。
さて、もうすぐ夕暮れだ。
カバンから夕食用のパンと干し肉を取り出す。
「ふぅ。今日はこの辺かな。」
水はあちこちに湧いているので気にならない。
ささやかな食事を摂る前に。
小指にはめたリングを見る。
装飾の類ではなく、リンクパールのついたものだ。
一人の少女とお揃いの。そして、二人しか持っていない物。
「今頃何してんだろうな。」と笑いながら。
「マユもそう思ってるだろうな。」
そのパールは一度だけしか使っていない。
幾度か呼びかけられたが、応じていない。
自分から渡しておいて、酷い仕打ちだとは思うが、自分の集中力が切れるのが怖かった。
応じてしまえば・・。
たぶん、彼女に憩いを求めて甘えてしまうだろう。
それではダメだ。
そう、言い聞かせて応じない。
物事にふけりながら、粗けない食事を終え。
もう一度、辺りを通り一辺見回してから、寝床としてある岩場に。
「！」
あれは・・。
ヒツジ達が群れる中に、一頭だけ。
「あいつ・・。」
ノートリアス・モンスターと呼ばれる、悪名高いもの。
が、実際には、白いモコモコの中に、黒いモコモコが居る。という、なんとものどかな風景。
夕日は近い。体力、魔力とも万全だ。
「どうした・・・もの・・かなあ？」
「よし。」斬りかかる。もちろん防護の術式は全て整えて。
メェェェェ！
斬！
ﾒｪ！
不意に眠気が襲ってくる。
「ヤバイ！」
なんとか耐える。
コイツ！
体力がどうこう以前に、眠気を誘う鳴き声は一人だと死に直結する。
「さすがにＮＭだなっ！」あえて大声で自らを鼓舞する。
斬りかかり、さらに大技に繋げていく。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・。」
すんでのトコロ。本当にギリギリ。もう足が言うコトをきかない。
ウルラは、体中に走る激痛に、もう声もない。
だが、満足な報酬も得れた。
「なんだこれは。」と、黒いヒツジが首から提げていた袋の中身を見て。
上着。それも、かなり上質だ。おそらく魔法や術式を使う上で役に立つだろうコトは見た目で分かる。
自分で着るのもいいかもしれないが。
少しばかり、自分には派手かもしれない。
「この色合いなら・・・。」ブルーグレイの少女の顔が思い浮かぶ。
そうだな。
パールに目をやる。
うん。明日、朝一番で知らせてやろう。
今まで、パールでの返答を無視してきた、少しでもの謝罪も込めて。
袋を手に、寝場所に向かう。
翌朝、日が昇るかどうか。
「おはよう。マユ。君にいいお土産ができたよ。」
「どこっ！？ あ・・。おはよう。ゴメンね。ウルラ。その・・。」
「うん。おはよう。」
「もう・・・。何度も何度も呼びかけたのに・・。」涙声。
「ごめんな。おれの都合ばっかりで。今、クルザスに居る。野宿なんで、キャンプの場所までは・・。」
「そう・・・。」
「ああ。帰ったらちゃんと渡すよ。それまで大人しく待っててくれよ？」
「あたしが大人しく待ってるワケないでしょ！そっちこそ待ってなさいよ！」
一方的に伝心が切られる。
「うわ。さすがだな。」苦笑。
弾丸娘。とは言えない・・・。
とんでもない娘をパートナーに選んでしまったかもしれない。
とんでもなく素敵な娘を選んだのだろう。
「おれも、なかなか、かな？」草原で彼女が来るのを待つ。