303書き物。少年と少女の始点。10

ぱぢゅ。

ありていに言えば。柔らかい物に何かを投げ込んで、飛沫を撒き散らしながら柔らかい物が飛び散る音。

形で言うなら、ミルクに雫をたらし落として出来るミルククラウン。
その形は液体でありながら、一瞬の間だけ王冠にも似た環状の飛沫ができるから。

プディングの王冠。

おそらくは、見た者は初めてだっただろう。

そして、プディングの王冠を製作した少女は、長い黒髪を右手でさっとすいて、黙って
酒場を後にする。

「マスター?」
「なんだ?ウルスリ?」
「今のは・・。少しばっかりこの坊や、かわいそうじゃない?」
「それよりな。」
目の前のバケツ並みの大きさのプディング。
そして、先ほどのユカイな音と共にプディングに頭を突っ込まされた少年。
「はい。」
製作者であるところのエレゼンの女性、ウルスリはいたく冷静だ。
「なあ。ウルスリ?」
「どうかしましたか?マスター。」
冷静な表情のエレゼンの相棒。
「なんだって、こんなバカでかいプディングを?」
「それはもちろん、ご褒美ですが?」
「・・・・・・・・・・・・・。」「・・・・・・・・・・・・。」
やり取りは続く。



「ぷは・・。」水浴び場で、金色の髪を洗いこんでいる少年。
(なんだって、こんな目に。)
酒場のマスターと、あの少女のひと言、ふた言の。たったそれだけの言い争いに巻き込まれたのだ。
最初に皿に取り分けたプディング。
そして、マスターの言葉?なんだろう?に反応した少女は、手近にあった自分の後頭部を掴むようにして、特大プディングに押し込んだのだ。
そりゃ、音もするくらい飛び散るような勢いで・・。

おかげでプディングで溺死しそうになったわけだが。
それでなくとも、死線を越え、ひとごこちついたハズなのに。
前髪をつまんで、臭いをかぐ。
「まだ、甘いな・・。」
なかなか臭いが取れない・・。
そこに。
「お兄ちゃん!」
リンクパール。所有者の意思を声にして届ける魔法具。
「マリー、どうかしたか?」
「どうもこうもないわよ!死に掛けたんですって?今、どこ?」
双子の妹マルグリット。
同じく金髪碧眼の少女は今はグリダニアに居るはずだ。自分と違い、テレポなどで来ることはできない。
とはいえ、自身もつい先ほどリムサ・ロミンサにはじめて来たのだが。
「マユちゃんがすっごい心配してたんだから。」
「今、あの子には関係ないだろ?」
「もう・・。」
「じゃ、切るぞ。」
「あ、まっ・・」


通信術式を途中で切り、とにかく水浴びを終え。

「さあ、しばらくはクルザスは置いておいて、こっちから、かな?」
部屋に入ると地図を取り出す。
「あちゃあ・・。島国か・・。戻るにはやっぱりデジョンかテレポしかないか。」
濡れた金髪をかきあげ、どうしたものか?と頭をかく少年。







グリダニアのカフェ。
カーライン。

「お兄ちゃん!」少女の声が響く。明け方間もない、というほどでもない。
グリダニアの朝は遅いのだ。
パールでの通信は基本的に「念話」だ。自分の意思を相手に言葉にして伝える。
もちろん、ポロリ、と言葉に出てしまうことも。
誰が言い出したか、「誤爆」という。

そして、「誤爆」をしてしまたった、ふわふわの金髪の少女は、あたふたと左右を見て。
開きなおった。

その相手の少年を一番心配している少女がこっちを見ていたからだ。
「マリー。どうかしたか?」
兄の声に、少しいらつく。
「どうもこうもないわよ!死に掛けたんですって?今、どこ?」
涙がたまる。
「マユちゃんが、すっごい心配してたんだから!」
返ってくる兄の声は冷静に。
「今、あの子には関係ないだろ?」
く・・・。いまの台詞はこっちを見ている少女には伝えられない。
「もう・・。」感情を抑える。兄はこういう人なのだ。

誇り高いがゆえの自信と実力。
だが、それが至らなかった時、殻に閉じこもってがむしゃらに自分自身を追い回す。

(いいほうに行ってくれたらいいんだけど。)
ちらり、とこっちを見ている少女に気をつけながら。
「じゃ、もう切るぞ。」と術式が切られそうになる。
「あ、待って!兄さん!お兄ちゃん!」

「ごめん。マユちゃん。切れちゃった。」残念そうで、申し訳なさそうな金髪の少女。
ふわふわした金髪を押さえる赤いカチューシャに手をあてながら。

「ううん。いいのよ。マリー。ありがと。」
ブルーグレイの髪の少女は、やんわりとした表情で、友人の少女を見返す。
「生きてるのは確実なんだからね。やりがいあるわー!」
と。
「さすがね。」とこちらも笑顔で返す。
目元に涙があるのは、お互いさまなので黙っておく。

「じゃ、パイも食べ終えたし。」
「うん?」
「カナルー!ケーキ持ってきて。」
「はーい。おいくつ?」
「二人で食べきれないくらい。」
「あら、それなら私もいただきますよ?」とエレゼンの給仕の娘。
「ちょ、マユちゃん!」
「あたしのオゴリだってのよ!」
「それじゃあ。」

「で?この床でいかにもオコボレにあやかりたそうな、ミコッテちゃんは?」マリーが不思議そうに見ている。
「オーア。」とカナル。
「いいよ。みんなで食べよう!あ、ミューヌさんはダイエットだっけ?」
「食べるよ・・。」
「イーリスは・・?」「よばなくていいにゃ。」「あ、そう?」「聞きつけた。」
赤毛で、ソバカスの残る少女。イーリス。「わたしも混ぜて。」
「アンタ、寝てたんじゃ?」とカナル。
「ワシが呼んでみたんじゃよ~。」と知らないうちに。

「もういいわ。あたしが支払います。つっか、オゴリだあああ!」
「おー!」



スイーツバイキングの後。


「テレポ。リムサ・ロミンサ・・・。」
マユの移動術式。

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