277書き物。黒髪の少女。フィーネ(了)

戦いの喧騒の中。

バンっ!と自室のドアを蹴り開ける。
アスタリシア号の副長ともなれば、それなりに豪華な部屋かと思いきや。
以外とこざっぱりとしていて、寝台と執務用のデスク、照明がやや多めくらいか?

「困ったヤツだな・・。」
自身の部屋に行ったのは、なんということもない。単に少女の部屋の鍵を開けるのが手間だっただけだ。
両手のふさがった今、廊下に投げ出すにしても、合鍵を出すにしても、どっちみちこの部屋には来ないといけない。

寝台にそっと寝かせる。
「おい?聞こえるか?」問いかけてみる。
「・・・・・・。」返事は無いが、なにかにうなされているのがわかる。
「呪い・・、か。」
「・・・。」
「すまんが、戦列からはこれ以上離れられん。行くぞ。」
そして、残りの小瓶をナイトテーブルに置いて・・・。
一本の栓を開け、少女の口に持っていく。
「今度は飲んでくれよ、お姫様。」と軽く皮肉を。
が、痙攣が起きる。
慌てて口で蓋をする。
(手でやると、ハタからみれば乱暴する前、口でやれば、いわずもがな。だな・・・。)
ごくり。
飲み込む音が聞こえ、痙攣も治まる。
「とりあえずは、よし、としよう・・。」
戦列に戻る。



「うううううう・・・・・ああああああああ・・・・。」
少女の悲鳴ともつかない、なんとも言えない声。


なんとか立ち上がり、自室にまで戻り、寝台に身をゆだねる。
ただ、恥ずかしさのあまり、シーツにくるまってこういう声しか出ない。
だが、一つの決心みたいなものは出来たのかもしれない。
寝台に寝かされエーテルを飲まされた時、実は意識はあった。体が言うコトを聞かなかっただけで。なので悶々としているのである。

そして、戦闘はおそらくアスタリシア号の勝ちだろう。こうして、自分がシーツに包まっていられるのは、つまり、そういうことだ。


左目の視力、というか「眼」がどうなったのかは分からない。
ただ、暗い、だけではなく、澱んで濁った、例えるなら、汚泥。ドロドロとして、色彩という概念が無い。
未だに怖くて、左目を開けることが出来ない。
持って来たエーテルを口に含む。
飲み込むことが出来た。
「ふぅ・・。」
そして、手鏡。
実は。あの、金色の眼を見て以来、鏡を見ることが怖くて、ほとんど触れる機会が無かった手鏡。
船長からのプレゼント、という悪趣味さもあってか、手に取るコトは久しぶりだ。
「ひっ!!!!」
ゴト。
手鏡を取り落とす。

鏡の中の自分の眼。黒い瞳と、赤黒い瞳。それも、赤黒い中に金色が混じりこんでいる。
「いやああああああッッ!!!!!!」
絶叫。

カンカン!
彼女の部屋のノッカー。ドアをブチ抜いた鏃を叩くのが慣わしになっている。
「隊長!」「大丈夫ですかい!?」「カギ開いてますけど、いいですか?」
「入ってくるなァ!」
矢をつがえようとして弓を手に。視界が汚泥に蹂躙されている。「あ。僕は。」

「もう、用無し、なんだナ・・。ははは。アハハ。」
笑うしかなかった。
笑い声とは裏腹に、涙が止まらない。



仕事を終え、港に向かうアスタリシア号。
その船長室にて。

「あの娘、壊れたか?」
「いいえ、そういうわけでは。」
「使い物になるのか、ならんのか?という話だ。」
「なるでしょう。彼女は船長とも駆け引きで十分に渡り合いました。
「眼」がこの先使えなくとも、密偵として十分では?」
「そういう使い方もあるか。」
「はい。グリダニアと境にしているアラミゴなど、帝国に合併されているという話しです。
かの地で、情報を収集、というのも悪くないと思います。」
「帝国な。最近この海域でも見かける、という話がある。だが弱いな。
そんなことよりも、娘を売り払って金にしたほうがマシだろう?それなりに見栄えのする娘だ。いい値段になる。」
唾を飲み込む、副長。
「お言葉ですが、船長。」
「なんだ?」
「その、すこし気性が激しいので、そういう事には向かないのでは?」
「なんだ?俺の言うコトが気に入らんか?」
「いえ。」
「ふん、惚れたか。しょうがない奴め。」
「・・・。」




カンカン。  ノック。
「入るぞ。」
少女の部屋。そして部屋の主は寝台の上、シーツにくるまって動かない。
カギは開いていた。それはもう少女が砦を放棄した、ということかもしれない。
「次の任務が決まった。グリダニアでの情報収集だ。」
「そンで?」
「いつまでクサっている?お前はそれだけか?」
「もういいヨ。売るなり、なンなり、好きにしろよ。」
「わかった。好きにさせてもらう。」
シーツを剥がし、顔を向かせる。
白磁にも似た、繊細な顔立ち。右目は夜の色。左目は・・・

金色。

唇を奪う。

「ん・・・!」
「好きにさせてもらった。」とニヤける副長。
「副長・・。カルヴァラン・・・。僕、好き。」
「そうか。俺もな。」
「シミったれた話しだけど、前に好きになったヤツには言えずにさ。そのままくたばりやがった。
でも、あンたは、そうそうくたばらないだろう?」ニヤニヤ。
「もちろんだ。」もう一度口づけ。

夜は更けていく・・・・。




寄港した港は、フェリードック。

「では、フネラーレ隊長の、復帰と新しい任務に乾杯!」
船内で祝杯が。とはいえ、弓隊だけではなく。
食堂内でかなりのクルー達が集まる中。
「やぁやぁ、お見送り、ありがとー。ちょっとばっかり留守にするけど。」
と手を振る。
「おおおお!!!」と歓声。
「ンじゃ、乾杯!」



「あ。そーだ。言い忘れてタ。僕の処女は、副長が奪っていったヨ。」


ニヤリ。オッドアイの少女は喧騒のなか、こっそり出ていった。副長の部屋に。

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