274書き物。黒髪の少女。オット(8)

扉がノックされる。

コン・・コンコン・・・コン。

「わかった。」

特別な符丁。
ドアのノックで大まかな内容はわかる。

「敵襲」

船長フィルフルは、件の商船強襲が罠だと知る。

「副長。」
船長室に入ってきたエレゼンの青年に。
「首尾は?」
「はい。すでに回頭を始めています。僚艦の2隻にも知らせてあります。」
「進路はリムサ・ロミンサにしろ。一度もどって仕切りなおす。
ついでにユカイな話を持ちかけてきた阿呆に、鉄の味を教えてやる必要があるな。」
「ダッコルド!」
青年が退席する前に。
「ああ、そうだ。この罠に気がついたのは、あのお転婆か?」
「はい。」
「港に着いたら、好きな服でも買ってやれ。」
「は。」
今度こそ退席する青年。
見送ると、「いい買い物だったかもな。」手の甲を見る。もう傷跡はないが、その傷をつけた少女は予想以上だった。


夜風に帆をはためかせ、急旋回し始める船、アスタリシア号。
そのマストの上の見張り台で少女は悲鳴を上げていた。

「ちょっと!こらァ!舵切りすぎだろォ!!!」
甲板ですら、揺れる波の中、さらに上に、それも落ちれば即死確定の高さ。
それを風の力と舵切りで命一杯揺れる操舵。
もはや、命綱一本では到底、少女の力ではどうしようもない。
もう、振り回されてるとしか言いようの無い乗り心地、というか、振り落とすための悪意すら感じる。
這いつくばり、落下防止(役に立つのか?)の柵にしがみつくが、波が来るたびに引き剥がされ、違う柵にしがみつく。
「し・・死ぬ・・。」
白い磁器の様な端正な顔を、さらに白くして両目を閉じる。


そして、窮地を脱した船は、航路をリムサ・ロミンサに向ける。



明け方のリムサ・ロミンサ。
ようやっと着いた港に、青年と少女、そしてクルーが数名。
「フネラーレ、ここからは自由行動だ。それと、今回の殊勲賞だ。船長からのお達しで、好きな服を買っていい、とのことだ。」
皮袋の中にはぎっしりとギルが詰まっている。
「あー。そう。」
魂の抜けたような顔。
むしろその方が年相応なのかもしれないが・・。

別れて、ふらふらと歩いていく。
この先にたしか、市場があったか。
少女のふらふらした歩みとは別に、活気のある声や、売り込みの声。
そこに。

「おや。君。面白い人相だね。」
ローブの男?いや、ミコッテか。
「なンだい?」
「そのまんまさ。面白いね。」
「ぶっ殺されてェのか?僕は今とても気分が悪い。」
「その眼。」
「殺ス。」
大弓を街中で取り出す。
「まあ、待てって。そいつはアレだろ。魔法の品。そして呪いの品だ。」
「はぁ?さらに死にたくなった、てのならとびっきりの矢をブチ込んでやるが?」
「似たようなの、見た事がある。2人ほどか。まあ、眼とかじゃなく装飾品だったけどね。」気にせず続けるミコッテ。
「ああ、そうだ。こんなところで立ち話もなんだし、どっかに行こう。ご飯まだなんだ。」
「あ?」たしかに少女は朝食はまだだった。ただ、あんな操船の後に食欲も出るわけも無く。
結局、露店でミコッテがパンだのジュースだの魚の丸焼きだの〆にデザートを頬張るまで、ジュースだけで済ませていた。
「で?何が言いたいのサ?」
黒髪をゆらし、前髪の下の金色の眼で見つめる。
「いや、死にたいのかな?とかおもって。」
「は?ソレはてめえぇだろうがあああ!」だん!。露店のテーブルを叩く。
「落ち着きなよ。まあ、聞いて。」
「いいよ、言えよ。言い終えたら命があるかどうか、分かるからヨ。」
「そのアイテムは呪われた品、だ。おそらくね。とんでもなくいい性能だろう?ただの・・ええと、この場合は義眼、か。それ以上に。」
「・・・・。ああ。」
「そいつは、魔力を糧に機能する。」
「はぁ?」
「分かりやすくいえば、命を食って動いている。」
「そンで?」
「この魔力ってやつは、放っておいて何もしなければ自分で勝手に回復してくれる。
だが、その「眼」はおそらく。視えている間、ずっとその魔力を食い続けてるから、回復しない。」
「で?」
「それと、特殊な効果とか無いか?」
「・・。ある。」
「それはさらに使うたびに魔力を食う。」
「で、なにが言いたいンだ?」
「その眼は、魔力が切れると腐りだすか、破裂する。」
「・・・・っ!」
「腐りだせば、宿主のあんたも道連れだ。破裂すれば・・わかるよね?」
「いいだろう。話はわかった。けどな。この1年以上なんともない。わかるな?」
「寝てる間、視力に頼らない間、この間には魔力が回復してるんじゃないかな。」
「で?」
「運よく、バランスが取れていた、ってコトじゃない?」
「その話しが本当だとして、だ。じゃあ、どうすればいい?」
「そうね・・、今みたいに前髪を伸ばして視界を狭めておくとか、眼帯しちゃうとか。とにかく「視力」を使うことを控えることね。」
「で、アンタ、誰なんだ?」
「ナイショ。呪術士ギルドの構成員の一人、とだけいっておくね。」
「ウルダハ、か。」
「じゃあねー。」

「あ。アイツ、金払ってねぇ!」次見かけたら、請求書をつけた矢をブチ込んでやる。と決めた。

左目を押さえる。


「まーた、やっかいな話しだナ。おい。」独りごちた。

とりあえず、副長には相談しておくか・・。


----------コメント----------

優秀な物にはそれなりの対価が必要というわけじゃな~w
!!!
ワシも片目が黄色・・・。これは生まれつきじゃったよ~w
Syakunage Ise (Hyperion) 2012年08月08日 13:38

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>しゃくなげさん、いらっしゃいw
そういえば、コメントはおひさでしたねwありがとうございますw
そうですねー、この「眼」の場合、海戦だとほぼ無敵に近いですしw
ちなみに、ララフェルのオッドアイはバリエが多くてうらやましいw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年08月09日 09:24

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