273書き物。黒髪の少女。セッテ(7)

コンコン。

コンコンコン。

ドン。

ドアをノックする音は、次第にエスカレートしていく。

私掠船アスタリシア号の一室。

夜明け前に眠りに着いた少女は、やっと目が覚める。
先日の決闘や、駆け引きなどで疲労困憊していた彼女は、寝ぼけたままドアに近寄り、そのまま開ける。
目の前には、この船の副長カルヴァラン?といったっけか?がいた。

「朝だ。皆に紹介する。忘れていないだろうな?」と。
「ふぇ?」

そういえば寝る前にそんなことを言っていた。

「うん、覚えてンよ。」
「そうか。では、その格好でいいんだな?」と。
「ん?」

自身を見やる。

白い裸身が自分のものだと思い至るのに、数秒かかった。

「き。」
「き?」怪訝な表情の副長。
「きゃああああああああああああああっっっっ!!!!!」
あまりの絶叫に、それも少女の高い声。
目覚ましとしては、これ以上のものは無いだろう。
「なんだ?」「どうした?」と隣室からクルー達が出てくる。こちらはすき放題な格好だが。
「うるさい。お前がどんな格好だろうが、俺は気にならん。服を着るならさっさとしろ。」
「はははいいいい。」バタン。
年頃の少女らしい悲鳴をあげたのはいつくらい前だろうか?
とにかく、心臓がえらいことになっている。つい先日、全裸を皆の前に晒したというのに。

もう一度、冴え始めた頭の中で整理する。
どうしてこんな格好なのか?決闘後に服を破り捨て、そのままこの部屋で寝てしまった。思い出す。
肩口の傷はすでに血が止まっている。眼の疼きもそれほど気にならない。
だが、想いは・・・。捨てきれない。

「みんな・・・・。」

「早くしろ。」と、ドア越しの声。

「分かってるよ!レディの着替えに口出しすンじゃねえよ!」
「その口答え、いいだろう。今すぐ引きずり出してやろう。」
「ちょ!待った!副長っていい男ッ!」

「ええっと・・・。」荷物の中身を探る。着替えの一着くらいはあるだろう。

あった。

下着一式。(なぜサイズが合うのかは気にしていられない。)
弓兵短衣(ボウヤーチュニック)胸あてのついた上着。
サンダル、ベルト、グローブ。

以上。

「あ?」

トラウザが無い。

足元がスースーする。

「あれ?おかしいな?」「そろそろいいか?」「や、ちょっと!」「いいから来い。」
ガチャ。
チュニックの裾を押さえたまま、少女ははにかむように、
「えへへ・・。」というしかなかった。

自己紹介の際、チュニックの裾を押さえながらというのは、一部のクルーにとてもウケたらしい。

が。
「僕の寝込みを襲いたい!ってヤツはいつでも来な!相応の覚悟ってヤツがいるけどネ。」
と、挑発。

この後、数日に渡り挑戦者は続いた・・。そして、最初の挑戦者がドアをこじ開けようとしたときに。
ドアからでっかい鏃が突き出して、そのターバンを射抜いた。
以来、それが彼女の部屋のノッカーとなる。



商船を追い回す最中、特にすることがなくて初めてこの船で一夜目を過ごした時の回想に耽っていた。

夜風に、黒髪がなぶられる。
今では、弓兵隊のリーダーと、夜の見張りと。
「えらく昇進しちまったもンだな。」
「眼」の効果と、決闘。これらでもって、他のクルー達も納得している立場。
「お?」
決して怠っていたわけじゃない、「偵察」
「おい!!」
下にいるはずの伝令の男に声をかける。
「どうした!ジュースのおかわりか!」
「バカか!コレはマズイ!!」
「あ?」男の声はイマイチ聞き取れない。
「罠だ!!!」
「なんだと!!」
「おっさんに、さっさとココから逃げ出せっ!って言っとけっ!!!!」

少女の眼には、商船がただの商船ではなく、武装された軍艦であること、そして3隻ほどのガレー船が反対方向から来るのが「視え」ていた。

アスタリシア号にも僚艦のガレー船がいるが、こちらは2隻。あわせて3だ。
この夜の闇の中、大きな帆船のアスタリシア号は小回りがきかない。
逃げるのなら今のうちだ。

「おいおい。頼むぜ・・。」伝令の男はぼやく。

「はー。仕事してるネ。僕。もう一回沈没されたら・・・・・。」その時はみんなに逢えるかな?

両手を上にかざす。

今日は三日月、か・・。

満月のような眼は、

まぶたを少し、閉じられ・・。


三日月のように。


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ワシもぜひお手合わせを・・・ドン!!!
ヒィ~~~~。冗談じゃよ~w
Syakunage Ise (Hyperion) 2012年08月08日 13:39

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>しゃくなげさん、いらっしゃいw
ララフェルだったら、案外抱き枕にされそうかもw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年08月09日 09:20

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