268書き物。黒髪の少女。トレ(3)

豪奢な装飾品。

部屋の中には、そういったものがいくつもある。
戦利品、と言う名の「略奪品」

黄金の杯や、水晶でできた彫像、精緻な細工の絨毯、白金で出来た首飾り、魔力を宿した装備品の数々。

私掠船 アスタリシア号の船長室には目を見張るものが多い。
その中でも、一つの宝珠は船長の「お気に入り」になりそうだ。


「なんじゃああこりゃああっっ!!!!!!!!!」
ぺたり、と床に腰を落としてしまった黒髪の少女の絶叫が船室にこだまする。

手鏡を手に、絶叫とは裏腹に少女は動かない。

「さて。交渉といこうか。お嬢さん。」コツコツ、と足音と共に船長が少女に近づく。


「な、何が交渉だっ!このおっさん!!!」
「船長、と呼べ。」

知らずのうちに床にへたり込んでしまった少女は、強がるが。
目の前には、いつのまに抜刀したのかサーベルの切っ先が。

「さて。いいかな?お嬢さん?」
「どうしたいンだ?」
「まず、この船は私掠船だ。捕虜にはまず交渉をする権利がある。
海賊船とはいえ、「ルール」は絶対でな。」
「ほーぅ。そんでもってアレか。建前でもって、慈悲のつもりか。」
「そうとも言うな。しかしながら、ルールはルールでな。過去には感謝を繰り返した者もいる。
クルーの中にはそういう者が居残りをしていたりな。」
「夜の相手がオススメかい?船長。」
「まあ、そう急くな。だが、それが望みならこれで交渉は終了だ。」
少女の顔に悔しさと、憎しみの色が滲み出る。
「聞いただけじゃねェか。」
「そうか。では説明しよう。まず、お前の命を助けた。次に、その眼の治療を施した。
そして、クルーに対して危害を加えた。この事に対する代価はなにかな?」
船長は淡々と言う。
「待て。質問いいか?大体、この眼はなンだ?」
「名前は知らん。ただ魔力だけはあるらしいから、なんらかの効果があるだろう。今のところ、視力は戻ったらしいな。」
「もうひとつ。なんで僕らの船を狙った?」
「狙ったのは、お前の船、だけではない。あの辺りにいる海賊船団を討伐してこい、という「上」からのお達しだ。
これも仕事でな。ただ、これだけは言っておこう。最初にお前の船に砲撃をかましたのは、件の海賊船団だ。
その光で我らも位置を掴んだんだからな。流れ弾に当たったか、連中の砲撃で沈んだ、ということだ。」

「うそだ・・。ただ巻き込まれただと?みんなはたったそれだけで?」
少女は顔を手のひらで覆う。涙があふれる。
しかし、金の瞳をもつ左目からは涙はこぼれない。
「そういうことだ。一つ教えておくが、俺に質問するのも交渉材料の値段として計上される。」
「・・・・。小難しいコトぬかしてるんじゃない。」
「そちらの手持ちは揃ったかね?交渉しようじゃないか。船長代理。」

少女はしばし沈黙・・。
「僕のもっているもの。か。まず。この身体だ。そして押し付けられたこの魔法の眼。
あと「復讐の証」である誓いを汚された事。業物の弓。誤射だと抜かしておきながら、僕らの船を打ち抜いたこと。皆の命。」
「それだけか?」
「この魔法の眼の効果。だ。知りたいンだろゥ?」ニヤリ。
「まあな。どんな効果かもわからんのに、目玉をくりぬく酔狂はさすがにいなかったからな。」
「手持ちはこれだけだ。お釣りがきそうじゃないか?」
「なるほど。いいだろう。で、どうしたい?港まで送ろうか?」
「てめえの命にきまってンだろーがあっ!」
「足らん。港まで荷物と一緒に送ってやる。その先は好きにするがいい。」
「っ!っざっけんンなああァ!!なら、決闘を申し込む!」
「ふむ。いいだろう。」ベルを鳴らし「おい。」
「ハイ!船長!」「こいつの得物を持ってきてやれ。後、甲板で決闘をする。今すぐに、だ。」
「来い。」「いわれなくてもな。」

甲板は、夜明けが近いがまだ真っ暗闇。なので決闘用にかがり火が焚かれる。

ひゅーひゅー!決闘だぜ! 船長が勝つに決まってる!あの小娘、イカれたか?

野次が飛ぶ中。

ダンっ!ドアが開く。野次が止む。

「これより決闘をする。ルールは先に相手に傷を負わせたほうの勝ち。その際命を無くそうが、不問。」船長が皆に告げる。
この後、大歓声。

「ち。」
少女の武器は大弓。しかも矢は一本。部下の海賊いわく、「その一本すらいらんだろ?」などと。

選んだ矢は、重い鏃だが威力は折り紙つきだ。

「準備はいいか?」声がかかる。
「待ってくれ。」

寝着の裾を持つ。引きちぎる。そのまま裾を持ち上げると、裂いた裾を使って帯のように腰に巻きつける。
細く白い素足と、下着がさらけ出される。

ひゅーひゅー!野次が飛ぶが、気にしない。
「いいぜ。」


「開始!」

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