236書き物。ようこそグリダニア7

薄明るい月光に、梢が影を落とす。
ほんのりと明るい灯篭が足元を照らしてくれるが、やはり暗い。

「あー、すっかり暗くなっちゃったわね。」ブルーグレイの髪の少女は、あーあ、と月を見上げる。月は半月よりやや欠けたところか。

「マリーとシャンちゃんが一番長かったねえ。」「マユ、シャンを瞬殺してたし。」
「ああ、なんていうかその。ね。慣れちゃって。」「うううううにゃぁ・・。」
「でも、マリーの剣さばきはすごかったよ。」「の割にはあっさり勝ってたケドにゃ。」
「うん。マユの動きが読めなかったな。」「そういう親子なのにゃ。ここは。」「なんでそーなる。」
女の子グループは先ほどの対戦をわいわいと振り返って賑わしている。
「あー・・・。」
茶色の髪の少年は半ばため息、なかば放心の一声。
「どうした?ネルケ君。」エレゼンのソーサラーが声をかける。
「いえ、いいんです・・。」二人の少女にコテンパンにされて、マユからは不戦勝宣言までされて・・・。「あー・・・・・。」
「まあ、気にするな。ええとネルケだったか。おれの妹は、アレだけが取り柄だ。」
「気にしますよ・・ウルラ。僕だって似たようなものですから・・。」
「なら精進するのだな。」「言われなくても・・・。」

「さて、そろそろ愛しの我が家だ。」アルフレートの声に、みなの足が早まる。

暗がりの中、明かりが見えてくる。付近には他に民家もあるらしく、それなりに明るいが、一番手前がアルフレートの家らしい。そして。
「おかえりなさい。」夫人が声をかけてくる。
「ただいま。おお、なんだか賑やかな食事になりそうだな。」
家の前にテーブルが出され、食事の用意は出来ているようだ。
「ミーも手伝ったんだよ。」愛娘ミーランがパンの入ったカゴをテーブルに置きながら言ってくる。「そうか、それは楽しみだ。」
「さて、みんな適当に席についてくれ。家内の料理はちょっとしたもんだぞ。楽しんでくれ。」そういうと自身も席につく。

「あ、あたし手伝います!」「いいって、いいって。」「いえ、実家で給仕の仕事してましたから!」
「あら。じゃあ少しだけ。これはお味の方もご意見いただきたいわね。」
「いえ、そんな、とんでもない。」「あ、うちの娘がすこしでも役に立つなら。」
「母さん、黙ってろ。」「あらあら、そうなの?てっきり姉妹かと。」「ふふん。」
「自慢になんないし。」 (さすが魔女なのにゃ。)
(本当に親子なのか?たしかに姉妹にみえるが・・。)  料理も運ばれてきて「では、いただこうか。」

アルフレートが食前の祈りを捧げ、食事会が始まる。
「あの時シャンちゃんったら・・・」「そ、それは・・・」「マリーのあの時の顔ったら・・・」
「うるしゃい・・・」「でね、ウルラったら・・・」「そうそう兄さん、迷子って・・・・」
「ネルケ君はまだまだ・・・」「先輩達が強すぎ・・・・」「アル、少し顔をかしてくれないか。」
「ああ。」「マユちゃん、やっぱりお母さん仕込みなの・・?」「や、そんなわけでも・・」
「血統だね・・・」「兄さんも少し位は体を・・」「お前は、アタマな。」「あははは!」
「ミーラン、笑いすぎ。」「・・・」「・・・・・・・・」「・・」「・・・・・・」



「奥方には悪いことをしたかな?」
「いや、メーヴェは、妻はこの程度では何もいわんよ。」
「そうか。ではこのまま・・・」
「らしくない冗談だとおもうんだが?」
「まあね。で。」
「で?」
「師が召された。」
「!?」
エレゼンのソーサラーの顔に動揺が広がる。
「ヴェテックト師が!?」
「ああ。」
「そうか・・・。前に逢ったときに胸(肺)を患っていると聞いた。それでここに?」
「多分。というか、あたしが思い出したのはホント少し前。夕べか。気になって追いかけてみたら・・・。」
「師はなんと?」
「まあ、好きにしろ、みたいな。」
「それこそらしくないな・・。」
「私のようになるな、ってさ。勝手すぎでしょ。あのバカネコ!」
「おいおい。」
応えるのは、すすり泣く嗚咽。

「・・・ぁ・・・・・・ぅ・・・くっ・・。」嗚咽の声が続く。
「そんな顔で帰られると、それこそ俺が殺されそうだ。」
「・・魔女、か。・・・そうね。近しい人をもう何人も・・。おかあさん、ヴィントさん、師、妖怪・・。」
「最後は少し気になるけど、ヴィントさんもか・・。」
「貧乏クジ、なのかしらね。あたしに関わったから。」
「そんなこというと、みんなが怒るんじゃないのかな?」「そうね。ごめん。」
「さて、帰ろうか。後片付けくらいはしないとな。一家の主とはココをうかつにすると、価値が下がってしまうんだ。」
「あはは!」目元を拭いながら笑う魔女。
「いい娘さんもいるんだ。ゆっくりすればいい。」
「まだまだ。目を離したらなにしでかすかわかったモンじゃない。」
「噂どうりだな、君は。」
「あら、そんなに勇名を轟かしたっけ?」
「はは!」「あはは!」

二人は家路を笑いながら帰っていく。

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