230書き物。黒衣森。

「バデロン、水くれ。」
リムサ・ロミンサの酒場、溺れた海豚亭のカウンター。
「どうしたんだい?いきなり。」
「急用ができた。飲んでる場合じゃない。」
グレイの髪を後ろでしばった女性は、ほろ酔いの顔から真面目になる。
「もしかして、さっきのミコッテさんかい?」とヒゲのマスター、バデロン。
「はい、どうぞ。」エレゼンの女性、ウルスリ。「気をつけてくださいね?」
「そりゃ、とうぜん。」

宿に問い合わせると、ミコッテはすでに引き払ったらしい。

(お師さんが行くなら・・。)
移動術式、テレポ。
近くにある、かつて使っていた黒衣森の中の小屋。
今では古く朽ちてしまってかつての面影は無い・・。

「ちがうか・・。」(ということは・・、まさか!)

もう一度テレポ。(あの場所しかない。)
闇の中、木々を抜けていく。
(間に合って!)
そうして、あの記憶が蘇って来る。
「ぐ。はっ!」
胃の中から・・・・。
「はは、飲みすぎだっての。」と笑う。
口を拭う。
「お師さん。」

悪夢の森にたどり着く。
そこには・・。

「お師さん・・・・」

「レティ・シ・・・ア・・。何故・・・いるのだ?」
「あたしはまだ、ちゃんとお礼が言えていません!シ・ヴェテックト師!それにちゃんとお別れもしていないのに酷いじゃないですか!!」
枝にぶら下げられているミコッテは、最期の声を振り絞る。
「感情を・・大きく出すな・・。取り込まれる・・。」
「そんなこと、知ってますよ!」
「そうか・・・では・・・、ありがとう。我が弟子。私の誇りだ。」
ミコッテの眼から光が消える・・。


「お師さん・・。」

魔女と呼ばれる女性は両手を上に挙げ、「大樹の精霊よ。声を聞かせてくれ。空の音。響け!あたしはここにいる!!」

(あら。久しぶりね。あのときの女の子ね。元気そうでなにより。まあわたしは森の一部ってことで最近は納得してるんだけど。)
「え・・。サ・ヴィント・・さん?」(あ、覚えててくれたんだ。うれしいな。)
(え、レティがいるの?)(うん、今さっきから。アナスタシア、声かけてあげなよ。)(レティ・・。)
「母さん?」(ああ。よかった・・・。でも、ここには長く居たらだめよ・・・。)「知ってる。」
(そしてめでたく仲間入りした姉さん、何か言う?)(お前に言われるとなんともな。だが、そろそろにしておけ。レティシア。)
(まあ、せっかくだしな。いいんじゃないかな?)(ご老人!)「師匠!」
(あなたはこの森に捕らわれてはいないでしょう?)
(少し位はこの精霊とやらを押さえておくことはできるのよな。)
「妖怪・・・。」
(レティシア・・・、それは少しひどいとおもうのよな・・)
(いやマジで妖怪クラス・・。)(レティ・・・なにかスゴイ方々に教わったのね・・。)「いや・・、どうかなあ?」
「サ・ヴィントさん。改めて御礼を。おかげさまでここに居ます。」(あは、わたしの趣味みたいなものよ。気にしないで。)「そんな。」
「母さん。今は息子と娘もいます。二人ともしっかりした子に。だから心配しないでね。」(そう・・。よかった。)
「お師さん、短かったけれど、・・・いい時間でした。ありがとうございます。」
(そうか。ならばさらに励め。娘にもよろしくな。)
「はい。」
「師匠!いつもながらの妖怪っプリ、面白いです!」
(はは、骸は実は近所に落ちててだな。)
「笑えません!!!!後で弔いに行きます!!!」
(いや、そのままでいい。ここで談笑できるのでな。)
「師匠。」髪を束ねている紐を外す。「これ・・。」(ああ、それな。たまたま紐が無かったから、ソレつかったんだわな。)「うわ、一気に気力失せた。」
(ただ、お前が気に入ってくれてるのなら、使ってくれたら嬉しいのよな。)
「そんなこと・・。」もう一度髪を括りなおす。
(では、そろそろ時間なのよな。)(はい・・)
「はい。では。」一礼。

「母さん。ヴィントさん。お師さん。師匠。また。」

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