195書き物。幕間。(ウルダハにて2)

昼下がりのウルダハ。

季節を問わず、おおむねカラっとした天気。
そして、ホコリっぽい空気。
さらに殺伐とした雰囲気。

そんな街中、一つの露店でミコッテが一人。連れ合いは居ないようだ。

「その串をもう一つ。」「はいよー。」

早めの昼食。もしくは遅めの朝食。
「サンドの方がよかったかな?」
先ほどの肉の焼ける臭いが少し思い出される。まあ、慣れた物だが。
青いローブのミコッテの少女は串をほうばる。

「なぁ?」
いきなりの声と。
「え?」
肩を後ろから抱かれる。
「朝っぱらから盛大な焚き火、楽しそうだな?」女性の声。それも聞き覚えのある。
右肩にもたれかかるようにした女性は小柄だが、ミコッテと背丈はそう変わらない。
グレイの髪を後ろに束ね、革鎧に身を包んだ女性は気さくに声をかける。
「一人で焚き火、ってのもなんだろ?アイツも呼んでやれよ。」

「な、なんのことかにゃ?」
「トリコロールちゃん。つれないねえ。」

露店の主人はあからさまにイヤそうな顔になる。メンドウはカンベンしてくれとばかりに。この街ではよくあることだ。

「で、ティアラちゃんとしては、どうかなぁ?」
「な、なんのことかにゃ?」
ニヤリ、とした表情の女性。反対に少し引きつった表情のミコッテの少女。
「焚き火。する?」とグレイの髪の女性。
「だ、誰とにゃ?」
「ミンフィリア。」
「!」
「もちろん、材料は目の前にいるし、いつでもどこでも出来るんだけど。そのへんは気にしないで。」
「・・・。なぜボクがここに居ると?」ミコッテの少女は、隠すことをやめたようだ。
「カン。どうせあの女のトコに行くだろうと。そしたら盛大な焚き火があったし。」
「そ、その程度で?」
「まあ、こっちで話しようじゃないか。」と連れ出す。

路地裏。

「で。たしかにあたしは、「娘に手を出すな。」と言ったわね?それも報酬として。」
「それはミンフィリアさんとでしょう?」とミコッテ。
「ああ。そう。わかったわ。じゃあ、ミンフィリアと話しをつけるか。」
「はい。そうしてください。」
「何カン違いしてんの?ってコトはお前が勝手に娘に絡んだ、って話しだろ?」
「えっ!ちょっと!それは!」
慌てるミコッテのソーサラー。
「いい度胸じゃないか。天魔の魔女にケンカ売るんだ。せいぜい名を上げてもらおう。」
「くっ。」杖を取り出す。
「遅すぎ。」既に鉤爪を手にした魔女はミコッテの下腹を薙いでいる。
「きゃあ!」「こういうやり取りはニガテだったかな?」「く、加護を!」「だから、遅いんだっての。」もう一撃。
「ぐっ!」
「そろそろ焚き火の時間かしら?どう?」
「待って。ボクはあの子の重傷も癒したし、基本的になにもしてない!見てただけなんだ!」
「知ってる。見てたから。」
「え?」
「だから、コレで許してあげる。」爪を振り上げる。そして。
「いやあああ!」


眼をえぐる直前で爪が止まる。
恐怖のあまり腰がくだける。
青いローブが血に汚れているが、そんなことよりも命が助かったことの方が重要だった。
ミコッテの少女は、自身が治癒を使えることも忘れて、先ほど自分の顔があった場所のほぼ手前の爪を見て。
そして、それを振るう少女のような女性を見て。

「魔女・・・・・。」

と、こぼすしかなかった。

「ミンフィリアによろしく。あたしは「見てる」から。ってね。」
そういい残して、去っていった。

しばらくその場にくずおれてしまっていたミコッテは、パールを取り出し。
「ミンフィリアさん。すみません。ボクはもう役に立たないと思います。」
「どうしたの?」
「魔女に、本格的に目をつけられました。」
「え?」
「いま、襲撃されました。とてもじゃないけど相手できません・・。命があっただけ、もうけものでした・・。」
「そう。この件は考えなおさないとね。」
「すみません。」「いいわ。ごくろうさま。」


「あー、つかれた。おい、バデロン。ラム。」
「魔女さん。いきなりだね?」
「仕事すると疲れんの。」
「旦那はもう少し疲れてそうだけどなあ?」
「アレは好きでやってるからいいのよ。」
「というと?なにで?」
「娘の保護。」
「親バカ?」
「焚き火、してみる?」

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