174書き物。海賊船の7

斧使いは急いで甲板に上がる。イヤな予感は続いている。

「お前らは出てくるなよ?」と無精ヒゲの青年とエレゼンの少女に声をかける。

私掠船アスタリシア号にいきなりの襲撃。
深夜の襲撃は確かに効果を得ていた。


「さて、船長さんにお話を聞かないとね。」甲板にいるグレイの髪を後ろでまとめた少女は独りごち、その後。
「こんなお嬢さんだとはね。」斧使いが後を続ける。

「引いてくれないかしら?あたしは船長さんにお話があるだけなの。」
「そいつは出来ない相談だな。まずは俺と楽しんでからだな。」
「うーん、タイプかどうかと言えば、悪くないんだけどね。ちょっと急ぎの用事なの。今度にしてくれる?」
「そうか、俺は好みだな。いい女だ。」
「なっ!そうやっていつも口説くんでしょ?」
「ウソは苦手でなあ。」
「あら、そう。じゃあ、お付き合いしましょ。」
「ありがたいね。」

薄暗い月明かりの下、心なしか少女の頬が上気しているのが見て取れる。
(コレは案外、強引に行けば落とせるかも知れんなあ。)と斧使い。

が。

この後、後悔する。

少女は武器を抜き出し、構えてくる。
斧使いも同じく構える。


間合いを計る。
少女は戦いの準備動作に入るが、一向に向かってこない。
(?)いぶかしむ。

すると、武器をしまい、そのまま素手で近づいてきた。
「な!」うろたえる斧使い。
「あの・・・。」頬を赤らめている少女。
今まさに抱きしめるくらいの距離にまで素手で構えることも無く。

「や、その、なんだ・・。どうした?」
「あの・・・。」ぶつぶつと、小声で何か言っている。
少女の顔が向けられる。身長差があるため、近くだと上目遣いに。
頬が上気した少女の瞳は少し潤んでるように見えた。
(綺麗な顔立ちしてやがるなあ。)間近で見ればさらにそう思う。
そして、少女の腕が背中にまわされようとして
「本当に・・・・」と少女。




「ごめんなさいね。」
少女の手には小振りの杖があった。

ゴッ!

突風がいきなり斧使いを襲う。

「なっ!」
慌てて後ろに下がる斧使い。
「謝ったから、チャラね。」悪びれない少女。
既に手にはナックルがはめ込まれている。そして、この間合いはヤバイ。すでに踏み込まれている。

「くっ!」斧の一撃。軽くかわした少女はさらに打撃をするべく間合いを離れない。

しばらく舞踏のような攻防が続くが、少女に押され気味の斧使いは正直舌を巻いていた。
まず、間合いを外さないように懐に潜り込んでくる。こっちの武器は取り回しが悪い。その点を熟知しているようだ。まだこんな年頃の娘が。

「おい!大将!!!、大丈夫かっ!?」無精ヒゲの青年。
あれほど来るなと言っておいたのに。何て野郎だ。しかも少女まで。

一瞬の隙。

少女はそれを見逃さなかった。

9発の連撃を斧使いに叩き込む。

「が。」倒れる斧使い。「くそう!ホレたぜ!!!」叫ぶ。
「な!」と打ち倒した少女。
「ホレた!迎えに行くからなっ!」と言って気を失う。

先ほどの男が出てきたドアを見る。もう居ないが、たしかにさっきエレゼンの少女が居た。
確認できたわけではないが、ウルスリだったように見えた。希望かもしれないが。

「さて・・。」
演技のはずだった頬の紅潮は、自身では直せないようになっていた。

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