斧使いは急いで甲板に上がる。イヤな予感は続いている。
「お前らは出てくるなよ?」と無精ヒゲの青年とエレゼンの少女に声をかける。
私掠船アスタリシア号にいきなりの襲撃。
深夜の襲撃は確かに効果を得ていた。
「さて、船長さんにお話を聞かないとね。」甲板にいるグレイの髪を後ろでまとめた少女は独りごち、その後。
「こんなお嬢さんだとはね。」斧使いが後を続ける。
「引いてくれないかしら?あたしは船長さんにお話があるだけなの。」
「そいつは出来ない相談だな。まずは俺と楽しんでからだな。」
「うーん、タイプかどうかと言えば、悪くないんだけどね。ちょっと急ぎの用事なの。今度にしてくれる?」
「そうか、俺は好みだな。いい女だ。」
「なっ!そうやっていつも口説くんでしょ?」
「ウソは苦手でなあ。」
「あら、そう。じゃあ、お付き合いしましょ。」
「ありがたいね。」
薄暗い月明かりの下、心なしか少女の頬が上気しているのが見て取れる。
(コレは案外、強引に行けば落とせるかも知れんなあ。)と斧使い。
が。
この後、後悔する。
少女は武器を抜き出し、構えてくる。
斧使いも同じく構える。
間合いを計る。
少女は戦いの準備動作に入るが、一向に向かってこない。
(?)いぶかしむ。
すると、武器をしまい、そのまま素手で近づいてきた。
「な!」うろたえる斧使い。
「あの・・・。」頬を赤らめている少女。
今まさに抱きしめるくらいの距離にまで素手で構えることも無く。
「や、その、なんだ・・。どうした?」
「あの・・・。」ぶつぶつと、小声で何か言っている。
少女の顔が向けられる。身長差があるため、近くだと上目遣いに。
頬が上気した少女の瞳は少し潤んでるように見えた。
(綺麗な顔立ちしてやがるなあ。)間近で見ればさらにそう思う。
そして、少女の腕が背中にまわされようとして
「本当に・・・・」と少女。
「ごめんなさいね。」
少女の手には小振りの杖があった。
ゴッ!
突風がいきなり斧使いを襲う。
「なっ!」
慌てて後ろに下がる斧使い。
「謝ったから、チャラね。」悪びれない少女。
既に手にはナックルがはめ込まれている。そして、この間合いはヤバイ。すでに踏み込まれている。
「くっ!」斧の一撃。軽くかわした少女はさらに打撃をするべく間合いを離れない。
しばらく舞踏のような攻防が続くが、少女に押され気味の斧使いは正直舌を巻いていた。
まず、間合いを外さないように懐に潜り込んでくる。こっちの武器は取り回しが悪い。その点を熟知しているようだ。まだこんな年頃の娘が。
「おい!大将!!!、大丈夫かっ!?」無精ヒゲの青年。
あれほど来るなと言っておいたのに。何て野郎だ。しかも少女まで。
一瞬の隙。
少女はそれを見逃さなかった。
9発の連撃を斧使いに叩き込む。
「が。」倒れる斧使い。「くそう!ホレたぜ!!!」叫ぶ。
「な!」と打ち倒した少女。
「ホレた!迎えに行くからなっ!」と言って気を失う。
先ほどの男が出てきたドアを見る。もう居ないが、たしかにさっきエレゼンの少女が居た。
確認できたわけではないが、ウルスリだったように見えた。希望かもしれないが。
「さて・・。」
演技のはずだった頬の紅潮は、自身では直せないようになっていた。