145ZERO書き物。6

「教えてください。あたしでは。」

少女は少年のような師匠に懇願する。このままでは・・・。
やってられない。
あの人に顔向けできない。

え?あの人って・・。
だれだっけ・・・。

「いいかな?」師匠が切り出す。
そうだ、想い耽ってる場合ではない。なんとしてもこの師匠を出し抜く術を考えなければ。

「はい。」
じっと見つめてくる師匠。
「まずな。」と切り出し。「お前はな。」と指差し。
「相手の舞台に立つのではなく、自分の舞台を頭に描くのよな?意味が分かるかな?」

少女は少し考えてから「演劇、ですか?」と
うんうん、と頷く師匠。
「演劇には座長がおるな。そして台本もな。それを他人に使われたら負けるわな。」
「へ?」
「それが「相手の舞台に立つ」ということなのよな。」
「はい・・。」頷くしかできない。
「相手の演劇に立った時点で負けは決まってしまってるのよな。」
「え?・・はい・・。」
「ならばな。自分の舞台に相手を連れて来ればいいのな。その台本、舞台を頭に描くのよな。」
「はぃ」
「そして、どうすれば相手を自分の舞台に立たせられるか、もしくは引きずりだすか、なのよな。
わかるかな?そこから先は、自分の舞台で面白おかしく踊ってもらうだけなのよな。」
「どうすれば・・・?」
「さっきの競争しかりな。」

!!!!!!!!!!!!!!!確かに!
あたしは自分で決めた「競争」が「駆けっこ」だと決め込んでいた。が。
下準備どころかデジョンまで使う、なんて発想は無い。

「自分から相手の舞台に降りて、ユカイに踊るほど間抜けな話はあるまいてな。」
「ありがとうございます!」再び頭を垂れる。

「お前はな、こう、スジはいいんだがな。」
「はい。」少女は少し緊張気味・・・
「先読みや、相手の手を読むのが浅いな。」
「はい・・・。」
「格闘はな、一つの計算で成り立っておるな。」
「そうなんですか?」「わかってないのな・・。」
「一撃を出せば、相手も一撃を出すな。当然だな。なら、その一撃を出した後に避ければ自分は二撃だせるわけだな。」
「はい?」
「同じ体力で、同じ戦いをすれば、避けたほうが勝つに決まってるよな?」
「そうですね。」
「ならば、そういう戦い方を知るべきなのよな。」
「はい!」
「だがな、舞台を組み立てる力が無いと、その体力や技術はムダになるな。まずはその組み立て方からやらんとな。」
「はい!お願いします!」と少女。だが。
「それとな。この考えかたは格闘だけではないのな。いろんな事に生かせるようにな。俺は格闘しかできないからな。」と銀髪のララフェル。

「そんな・・。」と、うつむく少女。

銀髪の老ララフェルは、ニヤリとしてこっちを見る。

「はいっ!」その視線に応えて、元気に返事をする。

「ところでな。」
「はい?」

「こういった教えは前の師からは聞いておらんのかな?」いぶかしげに。
「いえ・・。その。師匠が初めての師事したお方です。前に師などいません。」
「そうか。悪かったな。」

老ララフェルは、講釈をつけながら型を教えていく。

夜半を過ぎ。とある一室。
「のう?俺はあの娘にどうすればよいのかな?」
銀髪を後ろでしばったララフェル。
相手はグリダニアでは幹部、と呼ばれる人物。こういうやり取りはウルダハの方がもっと分かりやすい。
そういう意味ではこの国はぬるい、としか思えないが。

「ホラン・ホライズン殿。貴殿は気にせず、彼女の指導をしていただきたい。」
「それはいいのよな。」
「何か?」
「俺が教えた結果、あの娘が不幸になるのであればな。俺も黙っていないのよな?」
「いえ!いえ!そんな!どうしてですか?」と焦る幹部だか助手だか。

この程度で焦るようではな。コイツは三下よな。

ふと疑問が出てくる。
「あの娘には、前に師事したはずの誰かが居たのよな。
見ればわかるな。それが本人が覚えてないなどと、あるはずが無いよな?何かしたのか?」
老ララフェルの眼に力がこもる。

ひっ

「いえその。彼女には確かに前任の師がいましたが、不祥事を起こしたため解任されました。
そのためホラン殿においでいただいたわけで。」

「そうか。わかった。」
ふう・・と一息つくと。
「あんまり俺をなめるんじゃねえ。この若造が。それと、あの娘もな。なめるんじゃねえぞ?」



「あの老人は使えますかね・・?」
呼んで来たのお前だろう?責任の押し付けを教えた覚えはないがな?
「申し訳ありません。」
出来ることをしろ。
「はい。」

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