96書き物。番外編の終わり。もしくはただの宴会。

「よー!バデロン!」

大声と共に酒場に入ってきたのは。



ここは海洋国家。貿易とちょっと人様には言えないような収益で成り立っているが、誰もおくびにも出さない。

リムサ・ロミンサ
帆船やガレー船が停泊した港から、見上げるような場所にある、が。直接は見えないような、だが最大の酒場がある。「溺れた海豚亭」

調理師ギルド直営のレストラン「ビスマルク」も”最大”という名では張り合ってはいるが。


「よー!バデロン!」
入ってきたのは、少女と見間違えそうな女性。

だが。

この女性が見た目通りではないことは、いくつもの理由で知り抜いていたが。

「魔女サン、どうしちまったんです?」と、酒場のマスター、ヒゲとターバンがトレードマークの男性が呆気に取られている。
横にいたエレゼンの女性、ウルスリも呆然。

魔女、ことレティシアは、この時期の祭りに合わせた赤いワンピースのドレスと、
三角のてっぺんに白いふわふわした毛玉をつけた帽子、さらにブーツは履いているが、素足。
かわいいか?と言えば、普通に見れば十分だろう。
自慢のポニーテールは隠れてしまっているが、申し分ない。だが。
こう見えても、二児の母であり、過去最凶とも言われた使い手でもある。
そして、親友の妻だったりするわけで。

(どうして、こういうのが堂々とやってくるんだろ?)
「どうした?」と、ポーズを取る魔女。

「あの・・。どうして欲しいんですかい?」と、とりあえず思いのほどを切実に訴えてみた。
「・・・・・・。」ウルスリは声もない。以前に無理やり着せられたドレスだが、やけに似合いすぎている。卑怯だ。

「あ、ちょっとまって。」と。パチパチと手を打つ魔女。

次の瞬間、バデロンは確実に凍りついた。


目の前には。


なんだか茶色い衣装、だろうか?子供にあげるオモチャの着物みたいな、なんというのだろう?
見た目はシカ?頭もなんだかツノがついているが、オモチャ感はぬぐえない。
しかし。ソレを着ているのが、目の前の魔女の旦那、そして親友。

「えーっと、マイスター?」と、ウルスリ。

「ねぇ、コレ超かわいいでしょー!」とは魔女。

空気ヨメ。ウルスリ。この街で「マイスター」と言えばバレバレじゃないか!
「うるすり?」
「はい?どうしましたか?マスター。」
「あのな?」
「はい、レティシアさんのチョイスはナイスだと思います!超かわいいと思います!」
「でしょー!」と自慢げなレティシア。

「なあ、バデロン。俺、なんかやらかしちゃったよな?」着ぐるみを着た筋骨隆々、いかつい男性は。
「ああ・・・大将。そこらへんは触れないでおくよ・・。」
うっすらと涙目だったマイスターには気がつかない振りでバデロンは。
「その、あれだ。今日はどういったご用件で?」

「飲みに来たんだよ!他に酒場に何がある?」
「そりゃ、そうで。」
「もうスグ、相棒が来るから・・て、来たか。おーい、スゥ!こっち!」
鬼哭隊の副隊長、スウェシーナがやってくる。

「ぶ!」
ウルスリがたまらず噴出す。バデロンはもう無言を貫くしかない。

マイスターと同じく、茶色い着ぐるみに身を包んだ3人が。

「スゥ・・・、それに違和感はないの?」とはレティシア。
「えー!かわいいわよ!」とスウェシーナ。
「・・・。」言葉もないマユ。
「あははははは・・・・・。」とはエレゼンの男性。アルト。

「違和感を感じてる俺はどうすれ・・」ごきゅ。魔女の拳がマイスターのこめかみに突き刺さる。

誰も見なかったコトにして。
宴会は始まるのであった。










「それでさー。」と、レティシアは周りを見渡す。
旦那は、仕事があるからとさっさと帰ってしまった。「・びー・・どこ?」とか聞こえたが他に声もなく。茶色いカタマリと化した娘と他。
「ウルスリまでなんだってこのカタマリの中にいるのかしら?」とレティシア。
「あー、その辺は察してやってくれ。」
「つまり、アンタの男がソコマデだったのね?」
「ちょっと待った!」
「何を?」
「ミューヌの件は、上手くいってそうじゃないか?」
「そうね。」
少し焦りながら。
「そのことでウルスリが焦りすぎなんだ。」


「・・・。」
「あ、いや。その。」しどろもどろの酒場のマスター。

「で?」と、魔女。

神妙に。
「俺みたいなのでいいなら、それはいいんだが・・。過去の影に引きづられて、連れてきちまった。そんな気がするんだ。俺でもいいのかね?魔女サン?」

「あなたはアホですか?」と魔女。
「言うね。」
「そこまで分かってるなら、応えてあげたら?」
「そうだな。」

「なあ、魔女サン。」
「レティシア、よ。」
「じゃあ、レティシアさんよ。ソコの坊主と俺に乾杯をしてくれないか?」
「もちろんよ。」




あ、ミューは今回まったく出番なかったわw



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お母さんがどんどん主役の座を奪っていってる気がしますよww
Rifeal Ford (Hyperion) 2011年12月17日 11:34

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>りふたん、いらっしゃい♪
そうねw最近不遇の主人公wwwカレシ候補もいないしw
それに引き換え・・・・。
まあ、この物語でのジョーカーですし。おかんw
あるいは主役を完全に乗っ取った気も・・w
自然とキャラが立つ、ってのはこういうコトなのかしらw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2011年12月17日 12:28

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毎度バデロンのお酒シーンはラストが渋いですね!!
Alto Springday (Sargatanas) 2011年12月25日 14:09

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>アルトさん、いらっしゃい♪
コメが遅れたw
大人の男性って、こういう台詞で〆るてのがいいじゃないですかw
カリオストロの城の、とっつぁんみたいな感じでしょうかw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2011年12月26日 07:21

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