1013外伝2 バルケッタ。ゆらり、ふらり。

「やあ。久方ぶりかな?」
潮風の爽やかな港。
日差しはそろそろ中天だろうか?
やや曇り気味だが、嵐の予感と言う程でもない。
「ああ。そうだね。カルヴァラン棟梁。」

褐色の肌に、ブルーのジャケットのエレゼンの青年は微笑。

「マルス社長もご健勝そうでなにより。毛艶もいいようだ。」
黒髪の女社長は「お世辞も上手になったりした?」と尻尾を揺らしながら微笑む。

「『荷物』は、まだ船の中だ。手はずはいいのかな?」
「当然だよ。問題は、『フタ』を開けたらいきなり斬りかかって来ないかが心配だね。」
「はは。なるほど。だが・・そこまで考えナシじゃ無いだろう。では船はそのままにしておく。これでいいかな?」
「ああ。厄介事、というのはどこまで行ってもつきまとうものだね。」
「詮無い事さ。じゃあな。」
「ああ。(アンタんとこも、婚儀くらいしたいだろうにな。)」

(せんちゃん、今『荷物』が届いた。荷受けと、「場所」の段取りよろしく。)
(社長、なぜご自身で?)
(私が行けば、お互い気まずい部分もアリそうでね。それに・・・)
(ああ、彼女ですか。そういえば今日が期限でしたね。)
(そういうことだ。ああ、観光もしたいとか言い出したら、適当に案内できるヤツを用意してやってくれ。)
(・・・分かりました。)・・内心・・「誰が適任かしら?イドゥン?んー、エレン君ではさすがにムリか。レイは無茶ぶりの最中だし、エリスもなんだか仕事が大変みたいだしな。人選か。
こういう時にあの彼女が使えればいいのだが・・ユキネ、と言ったか。が、まだ未定だ・・。しばらくは私が案内するのが無難だろう・・」
ぼそぼそ、と独りごちながら港に向かう、筆頭秘書。



「決意。」一言。
そう。
桃色の毛色のミコッテの女性は、一通の封書と、ひとつの書き置きと、ひとつのパール。

そして、決戦の日がやってくる。

「バルバさん!これ、を。」
太鼓腹のルガディンの上司に封書を。そこには。
「辞表」と一筆。
「こ。これは?」
「一身上の都合です。お世話になりました。では。」一礼して、ドアに向かう彼女に、元上司はああだこうだと、何事かを言っているが、耳には入らない。

ふう。
一息。
この次が一番、胃に来る。
パールを握りしめ・・。
(失礼致します。クォ・シュバルツ氏)
しばらくして・・
(ああ。君か。返事は・・・いや、いい。この時間、このタイミングだと、俺はフラれたようだ。)
(!?)
(気にしなくてもいい。君の緊張感は伝わってくる。なにせ、この俺を袖にしたんだからな。)あはは、と乾いた笑い声まで思念で届きそうだ。
(そ・・)
(だから、気にしなくてもいい。君に危害を加えるような事は無いだろう。もしかすれば、俺の名を騙ってちょっかいがあるかもしれんが、その場合は、そのパールで伝えてくれ。
全力で排除しよう。)
(え・・)
(そういう契約だ。邪魔かもしれんが、そのパールは緊急用に持っておくといい。少なくとも、リムサ・ロミンサの中では、最強のセキュリティになるだろう。)
(・・・ありがとうございます。)
(いや、いいよ。それより「社長殿」に挨拶に行くのだろう?)
(はい。)
(じゃあ、彼女はカウルというコイフ(頭蓋)付きの外套をこよなく愛している。)
(はぁ・・。?)
(使いの者に荷物を届けさせる。それを着て挨拶に行けば心象も良かろう。)
(え?)
(ああ、使いの者はエレゼンの女給だ。セラータという。おそらく、そろそろ目の前につく頃だ。では、社長殿によろしくな。)

え?

周りを・・見回すと・・

ほっそりとしたエレゼンの女性、それも給仕服なのでとても目立つ。
「お待ちしておりました。ユキネ様。主人よりの祝儀の品をお預かりしております。」
荷物を片手に、優雅に腰を折る女性。
「へ?」
「申し遅れました。わたしはセラータ・アルジェント、と申します。」
「ええ、と?」
「是非、お召になられてから、社長とご対面されればと思いまして。誠に勝手ながら、着付けのお手伝いなどもさせて頂きますけれど?」
・・・・
「い、いや、お心遣いありがとーございますう!」
「左様でございますか。それでは、お荷物を。」上質な薄皮にくるまれた荷物を受け取り・・
(うわ、どうしよう・・・?)
会社の仮住まいはすでに出て、一泊した宿には賃金と書き置き(もしかしたら・・)を。
今から宿を借りて、着替えて・・・か?
着替えずに今の服で、アリティア産業に不採用とかなったらイヤすぎる。
「ありがとうございます。」引きつった笑顔で相手を見れば、涼しい営業スマイルで「それでは。失礼致します。」と丁寧に腰を折って、背を向けてしずしずと歩いて行く給仕女性。

「わー・・こういう職業なら・・・ああなりたいなあ。」
とりあえずは、宿の確保も要るわけだし・・着替えてから、かしら・・・?

ユキネは、一番手っ取り早い酒場の宿屋を頼ることにした・・。


豪華だが、華美過ぎない一室にて・・

「フラてしまった。」漆黒の青年は、さぞ面白そうに。
「そういう言い方をされますな、クォ様。」初老の執事が応える。
「いい人材の確保は、難しいものだな。」
「左様で御座いますな。」
「時に、アドルフォ。」
「はい。」
「お前、盤戯(チェス)は好きか?」
「嗜み、程度には。」
「そうか。兵士(ポーン)は、時に凶暴化するな。」
「ええ。敵陣最奥まで穿けば、女王(クイーン)と同様の動きが出来ます。」
「今回のポーンは、クイーンになるかな?」
「さて・・お言葉ですが、彼女はこちらの手駒では無くなったのでは?」
「そうかもな?そして・・?」
「申し訳ございません。私では及びも付きませんが・・。」
「東方にも、この盤戯があるらしい。」
「初耳でございます。」
「まあ、ルールは似たようなものさ。双方が交互に「手」を打つ。」
「はい。」
「駒も、まあ、概ね役割は同じだ。」
「はい。」
「だが、決定的に違う点がひとつ。ある。」
「はい?」
「この。」盤上の騎士(ナイト)を、僧正(ビショップ)で蹴り倒し、遊戯(ゲーム)から退散させると、ゴミ箱にでも放り込むように投げ捨てる。
「こちらの遊戯では、こういう扱いだ。」
「そうです。なにか?」
「が、東方はな。」立ち上がり、放り捨てた騎士の駒を手元に持ってきて、自身の陣営に引き入れる。
「こういうルールだそうだ。」
「なんと!」
「面白いだろう?」
「はい。」
「まだ、「繋げてある」から、こちらが拾う機会もあるだろう。目を光らせておけ。」
「はい。」
執務室の彼らは、ひっそりと会話を終える。



グリダニアの社長室兼、執務室。
アリティア産業の子会社社長、レイ・ローウェルは、書類に埋もれそうになりながらも、なんとかこなしている。とはいえ・・・
「うぅ・・殺人的だよぉ・・」
人事(主に派遣)のうえに、仕事の斡旋、大戦孤児達のための「学校」と、おそらく子会社としては一番ややこしい。
まずは、依頼としての「人事」だが、これに付随するのがこの「傭兵に荷物の搬送をさせる」こと。が、これが中々。
なんといっても蛮神問題で揺れた「ドマの開拓団」への物資の補給。
人選にも注意が必要だ。
応募のあった冒険者の履歴を十分に検証し、配置分配もしつつパーティの編成指示を出す。
最低でも5回以上は搬入予定で、ピストンさせるためには4組以上のパーティを編成しなければならない。
それだけでも管理の手間はかなりのもので、さらに物資の納品確認や、最終チェックが終わり次第、出発させるのにチョコボ、キャリッジの手配等など。
さらに、「学校」にも顔を出して児童達と交流したり、教師達から連絡も。
脳裏に「過労死」という単語がチラホラと浮かんでは消える日々が数日くらい・・・
そんなある日。
「や!レイ、死んでない?」
先輩のミコッテ、エリス。
「エリスせんぱい~~~~」涙目で迎える。
なんでも、今回の資材搬入で同行してきたようだ。
「まあまあ、大変だろうけど頑張ってるじゃない?」後輩の背を叩きながらねぎらいを。
「うう。ありがとうございます~」先輩にしがみつく。
「まあ、明日は休みだからさ。今夜はどっかオイシイ所でも行こう。オゴるよ。」
「えーーー!!!・・・ありがとうですう・・・」

夕暮の中、二人の女性はオイシイ店を探すための冒険に出かけていく・・・



「結果は・・とくと御覧じろ、か。」
グレイの髪の女性は束ねた髪を指で弄びながら。
「・・・最善ってのがあれば。それはとても素敵な事になるんだろうね。」
ぴょん、と子供じみた仕草でベンチから立ち上がると。
夕暮迫る空を眺めながら・・・
「皆に幸あれ、か。」後ろ手に手を組みながら鼻歌を歌いながら、港街を歩いて行く・・・


「なあ、ミッター。どう?」
黒髪の町娘風の彼女は。
明るいブラウンの髪、優しげな風貌の青年に毒づく。
「ああ、船室。ね。」
「まったくだ。なってない。」
「いや・・(一等船室に案内され、「何この安宿!グリダニアの木賃宿ですら、もっとマシだ!」と喚いて船長に文句を垂れて、あろうことか彼の寝室を占拠した。)その・・。」
「ミッターこそ、あんな部屋で良かったの?」と言い出し。
「ああ。(なにせ、二等船室とは、大部屋の雑魚寝だ。一等といえば相部屋とは言え、寝台が一人づつ。二人が寝れる。海賊船としてはかなりの優良待遇といえるだろう。)」
ついでに言えば、自室を追い出された船長と相部屋になって、愚痴を聞いてもらったくらいだ。
ここで分かったのだが、船長の「相手」もかなりのお転婆で、なんというか共感(シンパシィ)を得られるに至った。おそらく、似たもの同士として友人になれるだろう・・・

「では、ごきげんよう。君達の未来に幸あらんことを。」船長はそう言って、船から降ろしてくれた。
桟橋から港街に。
「ふうん、意外と賑やか?」
「黒、商業区域、っていうのかな?こういうものじゃないかな?」
「そうか・・グリダニアが辛気臭いだけか。」
「もうちょっと・・トゲが無い方がいいかな・・・」
「ブツクサ言ってるんじゃない。」
(・・・・大丈夫かなあ・・・?)

「やあ。お待ちしていた。私はセネリオ・ローウェル。黒雪殿とは面識があるが、そちらの御仁はお初にお目にかかるかな?」腰を折るスーツの女性。
「ああ。なんだかひさしぶり?」黒雪は、自宅にあるコタツ目当てにやってくるミコッテ達・・・は確かに面識がある。
が、女性ばかりなので、ミッタークはその会合には絶対に呼ばれない。
「ああ、どうも。ミッターク、です。家名は・・」
「いや、それには及びません。貴殿が、特殊な任務なのは知っています。情報は漏れないほうがいい。」
「痛み入ります・・」おもわず、東方風の言い回しが・・これも、黒雪の影響か。
「では、参りましょう。不肖、私が案内を努めます。」
「お願いします。」「よろしくな。」(こら!)(んだよ?)

(まあ、そうなるな。とりあえずは宿に連れて行くか。)セネリオは軽く息を落ち着けると歩き出す。

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