1008外伝2 ある女性の回顧録・・みたいなもの。

あー。なんだろうね。

熱風に近い乾いた風、そして砂丘。

砂漠と砂丘は違う、という。
確かに。

長い黒髪をざっくりと後ろに束ねた女性は、目の前にある木製の門を見やる。
この暑さ、砂と岩山と。
門の向こう側には、そんな景色。

砂漠・・。

砂漠といえば、砂ばかりの丘陵かと思われがちだけど・・・
実際は、砂が多い「荒野」で、砂丘は「砂しかない」のだ。

ここ最近で思い知った事実だが、実感してみるとやはり違う。

故郷であるところの「バス・・」では、周りは荒野と呼んで差し支えない。
むしろ、砂漠に近いんじゃ?
と。

ここ、セルビナ近くの辺りは、砂しか無い。
まあ、確かに岩山や、多少の木やその他もある。
父祖から聞いていた「砂漠」とは違う風景。

そして。

家にいて、父祖から「お話」としての冒険譚にワクワクしていて。
自分で見る事は無いのかもしれない。
でも。
見れるなら、見てみたい。

両親の反対を押し切って、剣術を習いに。
果ては冒険者として。

この港町にて・・・

ただ・・。

ここは、人気のスポットらしく冒険者を集める叫び声があちらこちらから。

もともと、積極性に欠ける自分では、到底できないな。なんて。
せっかくここまで来たのに。

ただ、参加者を募集する大声に、(誰か、わたしに声、かけてくれないかな?)と・・
一日を無駄にする日々。

そろそろ路銀も怪しくなってくれば、1人で狩りにも出て行くが、やはり限界はある。
ゴブリンというモンスターは、単体ならともかく、複数で闊歩している上に、夜になればアンデッドまで。
こうなると、1人ではどうしようもない。
「トレイン」という、迷惑千万な愛称が流行りだしたのも、ちょうどこのくらいか。

普段は1人?で動いてるゴブリンだが、仲間の危機を見つける、ないしは標的を見つけると、集団で襲ってくる。

それを効率よく排除していくために「冒険者」がパーティを作っては狩りに行く。

で。

最初の問題点。

自分は、社交性が乏しいのかもしれない。

初対面同士、その場限り。
そんな集団に「加わる」事が、そもそも苦手。

でも、何も目標が無いわけでもない。

でも。

ただ、木で出来た門を眺めては、メンバーを求む声に「はい!」と、手を上げることも出来ず。
ただ。
見ていながら。
あれだけ積極的なら・・・いいよね・・。

だったら、こんな町まで来なければいいのに。

でも。

「カゴの中の鳥なんて・・イヤ。」そう、両親に訴えて、家出をして。
手持ちのお金で最低限の装備を整えたら、すっからかんで。
「やるしか・・ない。」

彼女のモチベーションは、そこから上がっていき、今の場所に。

でも。

1人でできることに、限界があると。そう、思い知らされた「現場」

はぁ・・今日も待ちぼうけ、かな。

奮発して買った両手剣。
安物、と言われればそれまでだけれど・・。
自分の「チカラの象徴」なのだ。

今晩の宿と、緊縮財政の中、晩御飯は安く済ませるか、はたまた朝食のための温存なのか。

どっちにしてもジリ貧確定。

動かなければ、お腹も減らないはずだ。
と思い、砂丘の港町の傍らで佇んでいると。

「ねえ?良ければパーティ組まない?」

見た目は、同じ黒髪を後ろに束ねた少女。
たぶん、自分よりは年下だ。
が、装備やその他は全く違っていて。

「へ?」
やっと、言葉を紡ぐことができて。

少し背の低い少女に「あの?」

「え?パーティ待ちなんでしょ?だったらコンビ組んでやった方が効率いいし!」
確かにそうだが・・
連呼される勧誘は、その呼んでいる方々が常に変わって、すぐに「売り切れ」になる事がしばしば。
例え、二人だったとしても、上手に乗らないと枠にはいれない。
まして、自分は剣士。そして・・彼女は細身の剣を腰に。
(うわ。攻撃役は飽和状態。むしろ、回復が足らなくて叫びまくっているのに・・)
それを察してか。
「あ、あたし、赤魔道士なんだ。」少女はそう言い放って。
「え?」
当時は、「中途半端」の貼り紙をつけているも同然な。
「なんで、あぶれてるんだよ。ああ、そうそう。名乗ってなかったね。あたしは、マユリ。よろしく!」
「ああ。あの。アイリーン、です。」
「んじゃ、りんちゃん。でいいよね。あたしの事は好きに呼んでね。」と、彼女は。

「オーイ!ココに美女二人そろってるぞー!!パーティ組みたけりゃ、今すぐ返事しろ!」
とか。

「ちょっ!」おもわずツッコミを入れるが、もう遅い。

「「「おお!!」」」
と、男性陣が殺到。

「はいはい、並んで~」とは、先ほどの少女。
結果。

港町での「名物コンビ」として、名を馳せるまでに。

「あのさ。」
「うん?」

アイリーンは。
似たような髪型の少女に声を。
「なんで、わたしに?」
言い出しにくい質問だったけれど。

「そりゃ、あれだよ。話しにくい。って。そういう空気があるから。だったら、こっちからその壁を壊してやろうってね!」
「・・・・」
「んで、アレだ。ちょっとしたツテが出来て・・リンクシェルに入ったんだけど。」
「・・・。」
「りんちゃんも、どう?」
正直、どうすればいいのか・・・ただ、この好意を無駄にするのも恩義に反する。
「じゃあ・・その・・お願いします。」
「やった!」
彼女は、小さなエメラルドグリーン色の宝珠を渡して。
「じゃーん。「Moon」だよ!」
ちょうど、月明かりが映えて・・・

「そっか。ありがと。まゆりさん。」
「さん付けは性分じゃないね!好きに呼んで。ああ、挨拶はまあ、ね?」
確かに・・
今まで、他人との接触が苦手だったので、初対面でしかも顔すらもわからない・・
(よろしく・・・アイリーン、です・・)

その後は、挨拶の嵐。


気のいい戦士、と、その戦友。
タルタル族の白魔道士。
同じく、タルタルの「リーダー」
そして、ミスラ族や、ガルカまで。

「うわ~。その・・。」
あまりの事に
「・・・お願いします。」
とだけ。

「うん。みんなで頑張ろう!」
目の前の黒髪の少女が訴えてきて。
「そうだね。ありがとう。」と。



あ。


目を開けると、あの光景が消えてしまっていて。


ああ。


やっぱり、夢、だったんだね。


懐かしき日々。



なんで、忘れていたんだろう?


ああ。


どうして


思い出したんだろう?


こんなに・・・

枕を濡らして、気がつけば。
あの町に戻れるわけでもないのに。

でも。

それでも。

渇望せずにはいられない。

「待っててくれるかな?」
黒髪の少女を思い浮かべる・・・いや、見た目だけはそうなのかも。
ただ、自分よりは年下な事だけは知っている。
出し抜いて、それだけは確認した。
問題は・・・


こんこん。

ノックの音に反応する。
「はい。」

「ああ、朝食を持ってきた。」
「あ!ありがとう!」

ベッドから抜け出し、ドアを開ける。
「大丈夫?」と、黒髪を短く刈った女性。

「うん。エリさん。」
「エリでいいってば。」

どうかしたのか?と。口では訴えてこなかったけれど。優しい目線でそうと悟る。
目尻に浮かんだ涙は・・

「じゃあ、ちゃっちゃと仕事のお話を進めよう。」
彼女は、こじんまりとしたテーブルに、そのままトレーを。
パンとサラダ。そして芋のスープ。

「んでね・・・・」
彼女の話が続く。


「うわ・・・ココって、そうなの?」おもわず。
「なんだってさ。」パンをスープに浸しながらエレディタは。

「激戦区ナンバーワン。だとよ。」
ひえええ。

「まあ、うちらができる仕事って言えば、護衛くらいだから。あんまし気にしないでいいとおもうで。」
「え?ああ、そうなの?」
「厳重な警戒とかあるし、その呼びかけもあるけど・・・。」ため息。
「どうかしたの・・エリさ・・エリ。」
「あいつら、しょうもない事で「他人の世話にはならん」、とか言いながら。いざ、ドンパチ始めたら「勇気ある諸君!」みたいなのを言い出してね。なんやねん。ほんま。わからんわ。」
サラダをパクつきながら・・

「で?」
「ああ。仕事の話やったな。あんなアホ連中のための仕事。」
「色々と、その・・(突っ込んでみたいけど・・)」

「ああ。せやせや・・。アリティア産業っていう大手の会社があってな。そこの荷運びの「護衛」が仕事。小遣い稼ぎにはもってこいやで。」
「あの?」
「うん、うちが受けといた。今晩最初の荷物が来る。そんだけ。」
「え?」
「ああ?楽勝やろ?」
「え!?」
「その・・・?」
「めんどいなあ、ええやん。働かざるもの、食うべからず。先人の知恵や。」
(いや、少し違うと思う。)けど、声には出さず・・
「そうね。働いてナンボ、か。世界はわたし達に優しくはない。ってね。」
「哲学?って言うんだっけ?そういうの。相棒がようブツブツ言うとったわ。」
「相棒?」
「あ・・・気にせんといて。」ぷいっと顔をドアに向け。
「そう。」
同じく相棒とはぐれてしまったアイリーンは・・

黒い鎧の整備をする動作で、彼女を部屋から出て行く口実を作ろうとして・・

「思い込みしすぎんなや?」
ハスキーな彼女の声に続く、ドアの閉まる音。


自分も・・気の利いた一言が言えればいいのにな。

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