1004外伝2 とりあえずの幕間。あるいは、行間。その4。

「さて。結果はご覧のとおり。まさに御覧じろ、というところかな?」
陽の沈む景色を自室から眺めながら、漆黒のミコッテの青年はワイングラスを空けて、自ら赤い液体を注ぎ・・
一口。

「海賊諸君に乾杯。」だ。



「おイ?ショコラ。」
「ん?なに?」
「コレ、どこデ売ってルんダ?」
「売ってないよ。」チョコレート色の女性は、尻尾を振りながら、傍らの女性に。
ただ、彼女らしくない食いつきの良さは、切り札になりそうだ。
「なンだ?僕に隠し事なノ?」少し不機嫌に聞いてくるが、言い訳というか、本当のことを。
彼女が「言い訳」だと思ってくれないことを祈りつつ・・なんせ、本気で怒らせたら手が付けれない。それこそ、魔女あたりじゃないと押さえ込めない。
ただ・・
「本当だって!わっちも偶然もらったんだし。」ショコラは、懸命に。
だが、100%本当のコトを言っているわけでもない。
「99%の真実に、1%の本当かどうかわからない」を混ぜるのが「質のいい嘘」のつき方だ。
フリーランスの情報屋をやっている以上、この手の技術はお手のものだ。
もちろん、混ぜ込む情報の「汚染度」も相手によって使い分ける。
そして、この「葬儀屋」相手にチャチな工作なんてするわけがない。
ただ、こういった「切り札」は持っておいて損はしない。
「えへへ。」笑顔をを向けながら、「今度きいておくからさ。」
「そう。」
ぶっきらぼうながら、微笑みを浮かべている黒髪の女性は見ていて可愛い。



大きく畝ることもない、海原。
この辺りは外海に出て、少し落ち着くあたり。
海峡を少し北に抜け、陸地は見えなくなっているがザナラーンの玄関口の海峡だと、ここまではゆったりにはならない。
大陸との狭間は、風もそれほどでもなく概ね順調といえる。
そろそろ、陽も中天に上がり、ビュッフェスタイルのランチタイムを満喫をしようと甲板に客が集まり始める。

「それでは、本日はいいお天気でございます!皆様、どうぞ!お食事と歓談を心ゆくまでお楽しみください!ティータイムもこの甲板で用意をさせて頂いております!」

添乗員のチーフに抜擢されたユキネは、尻尾も使いながらニコニコと愛想を振りまきながら、パールを使って上司に文句・・いや、一言を。
(今夜、襲撃って、ホンキなんですか?)
(ああ。それがメインだからな。無いと違約金ぐらいは言われるだろうな?)
(もし・・もしもですよ?私、怪我とかしたら、会社から保険とか降りるんですか?)
(君なら、順次、臨機応変に対応できると思っている。うん。君ならできる。)
(・・・はい。)

「コイツ、自分は船室で余裕ブっこいてやがんだろうなー・・」
パールを仕舞いこみながら、ユキネはルガディンにしては、腹に油脂がつきすぎて、ロクに動けない上司を思い浮かべて・・「就職先、間違えたかも・・」

ダラダラと続く甲板の昼食会を見ながら、手のついてない、あるいは残り気味の料理を「どうぞ、おいしいですよ~」と、(残り物は、海に捨てるか、自分たちの賄い)になるので、
もったいないし、食べたい物はできるだけ勧めないようにしながら。
数日に渡る、それ以上でもだが、船に持ち込める食材は限られているのだ。
漁や、海賊、など、職業的な船なら、海で釣りをしてそっちは問題ないのだが、さすがに数十人を相手に「釣れたらラッキー」な食材、とはいかない。
なので、3日くらいのクルーズで、賄わなければならないし、言ってしまえば、マイロッドを持ち込んでいるユキネは、隙があれば、釣りをして大物を狙いたい、とも。
まあ、とりあえずは、マメット・ゴーレムと、ミニコブランのバトルをティータイムの時に「癒やし」として眺めたいものだ。
船内のホールはディナーと、「襲撃イベント」の準備で忙しい。
そういう意味では、甲板で夕暮までダラダラとやっていてくれれば、こちらの仕事も楽というものだ。

そろそろ、甲板でのランチタイムが終わり、ティータイムだろう。
後輩に役目を譲り、下がってきた手付かずの料理を幾つか皿にとりわけ、自室に。
すこしだけの時間を食事と休憩に使えるわけだが・・
パスタを口に放り込みながら、ゴーレムとコブランのケンカ?みたいな、手を振り回しては、かわされ、なバトルを見ながら。
「いやされる~」
ユキネは、渡されていたリストを見ながら・・・、どちらかと言えば、こっちのバトルを見ていたい・・・とか。

「エフェメラ・ミトア。鍛冶師。」
「ブルーム・ベル。忍者。」
「ステラ・カデンテ。学者。」

細かい、とまではいかないが、ちょっとしたプロフィールもついていて・・

「う~ん?」
ここに私も入れたのが「戦力」ってワケか。

ただ、リストには続きがある。
「襲撃には、相手も4人」「派手な術式や、その他で攻撃をしてくるが、船体は仕方がないが、客には被害を出さない誓約がなされている」
「できるだけ、船体にダメージを出さない事。」「尚、船体、客人の負傷による訴訟があった場合は、責任者に負債義務があります。」
は?
ちょっとまてえっ!
最後の一文は、今初めて見たっ!間違いなくっ!
しかし、丁寧にも自分のサインが書いてある。
・・・。
そういえば・・。
半年くらい前に入社した時に、やたらと書類が多いけれど、即採用だったので、手当たりしだいにサインをした記憶が蘇ってきた。
「そ・・・そのための・・・・」なんという、トラップ。
しかし、いまさら司法に訴えたところで「お前がマヌケ。」で終わるだろう。
「やるしかない・・・」ユキネは、覚悟を決めて・・・
そういえば、ダメ上司は今頃「味見」と称して、キッチンでつまみ食いの最中だろう。
すっかり冷めたパスタとサラダをなんとか胃に押し込んで、ゴーレムとコブランの「バトル」で気分をなんとか・・・



「今夜、ね。」
百鬼夜行の棟梁は、そろそろ夕暮を迎える海を眺めながら、望遠鏡を目に当てる。
羅針盤と海図を眺めながら、この潮なら、凪いだ海でもついて行くだけなら問題ない。
北、やや、東を指している。まあ、順調すぎる航海だ。気分はサッパリだが。
ただ、仕掛ける時には櫂を漕いで急接近をしなければならないだろう。帆も使うだろうが、この凪(無風)では、アテにはできない。
それに小回りが利くのは、ガレーならでは、の特権だ。
仕掛けるのが夕暮なので、正確な操船をするにはかなり神経を使う。
私掠船としての仕事なら、衝角(ラム)を使えばいいのだが、今回は「けが人を出さないように」がオーダーだ。
こんな時、恋人がいれば「オッドアイ(呪眼)」でもってサポートしてくれるんだが、無いものねだりは良くない。

昼下がり、船長室にいるのもなんだか落ち着かないので、甲板にいるのだが・・
「あ!せんちょー!」
黒髪?のミコッテの女性はソレっぽい「海賊船の船長」の帽子をかぶって、カトラス(もちろん、模造刀)と、空砲の「銃」を見せつけながら、「船名、とか名乗るよりもですねっ!」
紙切れを見せつけてくる。
適当に作ったシナリオだが・・
「大海賊!エグニール様だ!、とか、どうですか!?」
「君、大前提を間違えているだろう?」ふう。ため息で幸せの妖精を撃墜。
「え?」
「この船の名前はもちろん、君の本名をバラすなんて、ありえない。もちろん、俺の名前もな。」
「あー・・・そういえば、そうでしたっけ。」
「今更ながらね。名乗りは、架空の人物で問題ない、というか、他人に迷惑かけたくなければ、自己紹介は本名を使わない事だ。」
「はあい・・」
「ただ、この仕事が続くようならば、「キャプテン・ナントカ」を決めておくのもいいかもな。」
「おーう?」
「用は済んだか?」
「はいっ!あ、フェリが上で待ってる!」
忙しく走って行く、ミコッテ。


「あ、俺の立ち位置はどうなのかな?」
ララフェルの青年は双剣を腰に吊るし、見栄えのいいポーズを考えながら、シュッっと腰の得物を抜いたりしながら、相棒のミコッテの青年に問いかける。
「あー。目立ちたいなら、身長をもう2メートルほど伸ばすといいよ。」
銀髪の青年は本を読みながら、そんなことを。
「できるかっ!」と食らいつく幼なじみ。
「だから、出来ないことを真剣に議論する意味ってどうなんだい?」
「くそっ!正論吐きやがって!」
「正しいから正論だろう。じゃあ、理解した、でいいよね?」
「その正論が間違ってるっ!」
「正論を論破するならやってみればいいけど、概ね正論は誰が見ても正しいから、正論というんだけど。」
「その状況を打破するっ!」
(まあ、船長役を立候補しなかったのが何故なのか?を突っ込むところで詰むんだけど・・)
出てきた答えは「いいけど、もう時間が無いよ。夕暮れすぎに仕掛けるんだろう?」
そろそろ、陽が赤くなって、落ちそうだ。
「ラスティ、俺の良き理解者で、幼馴染じゃないか?」
「ああ、そうだね。ルジェ。だからこその暇つぶしには持ってこいだね。」


「さて、そろそろこちらも準備をせんとな。」
船長室の初老の男性。
パールを小箱に投げ込むと、伝声管に命令を。
「総員、準備だ。」

アスタリシア号が動き出す。
「風の読み方は、さて?」元副長の顔を思い出しながら、大型帆船を動かしに出す。
風は凪いでいるが、上下前後に捉えるべき風は無数に吹いている。
一歩違えば、風の向きも強さも異なるが、それを捉えて帆を孕ませる。
ラムのグラスを干しながら、伝声管にもう一度、指示をする。
「二刻後だ。尻尾を捕まえれんようだと、大砲の弾にしてやるぞ。祝砲を身でもって楽しみたい奴が居ないことを祈っている。」

「了解!!!!!」

久しぶりの海戦だ。楽しめることを期待しようか。
フィルフルは、空いたグラスにラムを注ぐ。



「わお~」
添乗員さん、大変だね。ワタシだと絶対ムリ。
桃色の髪の添乗員さんは、今は乗客を客室に誘導しながら、声を張り上げている。
なんていうか、カップルあたりはスイッチが入ったのか、船べりから動こうとしない。
いい加減、血管が切れそうになりながら誘導している姿は気の毒としか言い様がない。
「こっちはどうなんだろう?」もう一着のドレスの事を思いながら・・
とりあえず、流れに任せて甲板から客室に・・


ブルーム・ベルは、この後の展開など知るはずも無いが、浴衣をもう一着。
そして、万が一の時のために苦無を太ももに2本。
「う~ん?」考えすぎかも・・・。


ステラは、茶色のミコッテから格安で購入させられた「今夜用」のドレスに袖を通しながら。
「パッド?」胸に少しばかり厚みがあって・・・
触ってみると、ざら、っとした感じ。「うん?」知識としては・・・対刃物用の、対刃繊維かもしれない。摩擦を増やす事で切れ味を落とす、という物だ。「なんで?」
が、縫い込まれている上に「今夜用」ということは、あるいは必要なのかも。
タイトな上に、すこしバストアップ効果があるのなら、まあ、文句の付け所もない。
一応、そういうことなら、魔導書もいるのか・・ただ、どうやって持って行こうかが悩ましい。



「そろそろか。」
カルヴァランは、左舷の砲手に指示を。「空砲を3連で撃て。」
まずは祝砲で、観客を賑わせよう。

そこに。

どんっどんっ!!!
と2連打。
「なっ!?」
指示を出したすぐに、砲撃音と着弾を示すザバンっ!と、海に弾の音。
もちろん、空砲の予定だったので、弾など込めていないはずだし、「撃て」と指示したところで、ものの数秒で発射できるものでもない。
「何が起きている?」甲板に上がる。

「あ。船長!」海賊らしい帽子にアイパッチまでしたミコッテの女性が「いよいよ!ですね!」と声をかけてくるが、「ああ、だが、想定外かもな。君にもう少し活躍してもらうかもしれん。」
「おー!」
とりあえず、砲撃音のあった方に望遠鏡を向ける。
「まじかよ・・・」
その先にあったのは・・・アスタリシア号の船影・・・・・
「おい、右舷!砲撃戦の準備だけしとけ!」
「アイ、サー!」
「一番、やっかいな船が出てきたな・・。」カルヴァランは頭を抱える・・

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