1003外伝2 とりあえずの幕間。あるいは、行間。その3。

「さてと・・・色々と不安だが・・」
波風に言葉を乗せるが、「いや、やめておこう。」
船乗りには、ジンクスがある。
「いわく、女を乗せるな。」海の女神が嫉妬して、海を荒くするから、だそうだ。
「いわく、オス猫、それも三毛がいい。」三毛猫は、基本的にメスだ。オスの確率は極端に低いらしい。なので「縁がいい」らしい。
「いわく、賭け金は張った分だけの見返りがある。」

はぁ・・・

最初の二つは、完璧にダメだな。
というか、「ジンクス」という言葉自体が元は「ダメなときの符丁」なのだから、いい話なんてあるはずがない。
カルヴァランはため息を。
これにも、ジンクスがあるらしい。「いわく、ため息をつくと、幸せの妖精を一人殺す。」と。

「まったくもって。どうしたものだろうかね?」もう一回ため息と、幸せの妖精を抹殺。
伝説だが、「サッパリ妖精」なるものが対でいるらしいが、むしろ、ソッチにこそ期待を込めたい・・


私掠船「百鬼夜行」は、順調に夕暮れ迫る海原を進んでいる。

そして。
船内では・・・

「ねえ、フェリ?ココどうかな?」と台本(というか、一枚の羊皮紙)を見せつけながら。
「えー?」
「この、船っていうか、海賊の名乗りをあげるなら、やっぱ「船長役」の私じゃない?」
答えに詰まる・・けど「あの。そこで本名名乗ったらアウトじゃないの?」
「おお!そういえばそうだ!」
冒険者として名を挙げている以上、海賊稼業はマズイだろうが・・・こういう「お遊び」で、高級なご家庭と交流があるのは、それはそれでセールスではある。
ただ、問題なのは「実名出して、失敗した」が、超シンドイ事だが・・・
この相棒は、分かった上だったらいいのだけど、どうもノリが一番みたいなので、先の「可能性」は破棄という決断をするフェリセッタ。

「んで、ラスティ。」
ララフェルは、相棒を見て。
「どうやれば目立てる?」
銀髪のミコッテは、相棒を見て。
「いや、目立たない方が後々いいんじゃない?」とか。
そこに「儲け話なんだよ!目立ってナンボだろう?」
そして「じゃあ、なんで「船長役」を買って出なかったんだい?」と、確かに言われればそうだ。
「目立ち過ぎるのがイヤだからに決まってるじゃないか!」ルジェは豪胆だ。
「ああ、君の性格は分かっていたけど・・まあ、いいや。とりあえずは、相手にも冒険者がいる、と前提で話を進めよう・・・」



ふうむ。
ミコッテの女性、エフェメラ・ミトアは、船に乗ってから私室で鏡台相手に、ドレスを試着してみた。
着慣れていないが、サイズはバッチリだ。
ついでにアクセサリも着けてみて。
「うん。」
悪くない。
オレンジがかった明るいブラウンの髪に似合う、ライトイエローのワンピドレスに、映えるようなグリーンのアクセサリ。
うむ。イケる。
一人、小躍りしながら、今夜のパーティに挑む。

そして、「盾」と「弓」に、「お留守番、よろしくね。」と、一声。



「あ"ー、明日の夜、ですか・・・」
桃色の髪のミコッテ、ユキネは持ち込んだミニオン、「マメット・ゴーレム」をいじりながら。
客室乗務員のチーフ(それも、初で、しかも、イベント責任者も初。)
ゴーレム相手に戯れて、現実逃避を堪能したかったのだが・・

こんこん。

ノックの後、「あのチーフ。そろそろ来賓の方々のディナータイムです。いいでしょうか?」
ドア越しに、後輩の声。
「ああ、うん。ありがと。今、行くから。先に行ってて。」 「はい!」

とりあえず。今夜は「例の襲撃」はない。
普段以上の接客仕事だが、このくらいはこなせるだろう。ユキネはタイを鏡で確認してから部屋を出る。


「これは!」
ディナーは、ビュッフェスタイルの立食。
豪華客船ならでは?の、広いホールで30人ほどの乗客は、おもいおもい、銘々に好きな料理を皿に取り分けては、スタンドテーブルで楽しんでいる。

どうしても忍術の体得者として、すみっこ、端っこが定番なのだけど・・
ブルームは、控えめな浴衣(一応、これが彼女なりのドレスコードらしい)
「よし。目立っていない。」と思ってはいるが、すみっこで東方のドレスを着ている彼女は、超がつくくらい浮いている・・・


「はあ。」とは。
金髪碧眼の女性。
なにせ、こういう社交場は基本的にニガテ、といえば苦手なのだ。
気心の触れた相手なら問題なく楽しめるのだけれど・・・
自分の衣装に目を。
胸元の大きく空いた、さらに背中もオープンなので、下着が着けれない。
それだけでも不安なのに、アチコチでは、それが当然な女性陣がいると、「いや、私ムリです!」とか言えない空気。
唯一、救いなのがこの格好を教え子に見られないこと、だろうか。
ステラは、この衣装を用意してくれたミコッテの女性に感謝しつつも、「ちょっとハデじゃないかなあ?」とか。


「ショコラさんは・・」
参加してるのかな?
とか。
エフェメラは、キョロキョロ。
ただ、彼女はある意味目立ち過ぎるので、コソコソしているから、と矛盾一杯。
かなり
大胆なドレスだが(露出が)、注意書き?みたいなアドバイスで。
「コッチからね。次の日はコッチ。」
と、動きやすいスリットが入っていて、胸にパッドがついている。(そこまでしてくれなくてもいい・・)
初日用は薄手のタイトな感じだけど、エレガントなのはさすが。
で。「次の日用」だけれど。
「うーん?」
目立つような装飾は省いてある。
「うーん?」
エフェメラはとりあえず、納得しながら立食を楽しんでいる。



「ふー。美味しかったね。」
ショコラは竹筒をぽいっと、ゴミ箱に放り込みながら。
「だネ。」
フネラーレも同じく。こちらは見向きもせずにナイスショット。

「デ?」
「わっちに聞きますかっ!そこ!」
「僕は、あの話には入ってナイんだ。聞かセろヨ。」
剣呑な雰囲気。
(これは・・ごまかせないなあ・・・)
「えーとですね。ウルダハの砂蠍衆、の一人、マンダヴィル氏がザナラーンに遊興施設を建てたモンだから、顧客、外貨獲得で始めたらしいんです。」
「へー?あの提督ガ?」
「そこは、外交の一環、でしょうね。「そっちがやるなら、こっちも」的?」
「グリダニアはそンな話は出てこないけド?」
「センナ様は、そこまで俗物じゃないですからねえ。」
「なるホド。そりゃそーカ。」
「一応・・というか・・ウチの兄貴も関わってる、みたい。」
「あァ。そういう事ネ。」

クォ・シュバルツ。
リムサ・ロミンサを(裏で)牛耳る大富豪。
その、家出をした実妹のショコラ(フュ・グリューン)は、そういう経緯でもって、リムサでの活動は控えめで。(主にグリダニアで「屋台めぐり」が、めいん?)

ショコラとしては。
二重、三重の密偵がいる「家」の中では、基本的にフリーランスだけれど、「葬儀屋」こと、フネラーレを気に入って、ほぼ専属。
フネラーレ自身、二重密偵だけれど、個人的というか、自由主義で好き放題してる所が気に入ったのかもしれない。
そういう意味では、初代「家」の住人の「天魔の魔女」に似ているのかもしれないな、なんて。

もちろん、「伝説」は聞いただけだけど。

「そういえば。」
ひとりごちて。

「ちゃんとやってるかなあ?」
少し投げっぱなし感がある・・・

海賊船ね。
(フネラーレは確かにいろいろ言いたいんだろうねえ・・・)
ショコラは東方スイーツの後のお茶を淹れながら。



「美味しかった!」ドレス云々はともかく。
まずは自室(これもシングルとしては立派過ぎる)
エフェメラはドレスのまま、寝台に飛び込む。
そして、「ただいま。」と盾に声をかけて


ステラは・・・どうにも落ち着かないドレスを脱ぐと、普段着(パジャマ兼用)で、ふかふか過ぎる寝台に。
「いいかも・・・。」脱ぎ捨てたドレスを乱雑に散らかしたのを改めて。
たたんでおこう・・・
いそいそと、衣装箱に畳んで入れる。ただ、次はいつ着る機会があるんだろう?とかは、意識の外に放り投げる。
これは得意技なので・・・・
まあ、楽しさの余韻を胸に寝台でくつろいで・・・


「よし。」
浴衣を脱ぎながら彼女なりの満足感・・「目立たなかった」を満喫。
むしろ、注目度で言えば、相当だったのだが・・・気づかなかった分だけは得をしているのかもしれない。

ブルーム・ベルは肌着だけで寝台に潜り込むとそのまま睡眠の誘惑のままに・・・・



「アドルフォ?」
漆黒のミコッテの青年は金色の瞳で執事に問いかける。
「はい。クォ様。」

「今回の件、どう思う?」
「はい、私ごときが口を挟むのは失礼ながら、領分を越えております。」
恭しく一礼。
「いい。思ったまま、声に出せ。」若い君主。

ひと呼吸。
「では・・三国の緊張感を保ったまま、の今までの世界観は変化しております。ここで、画期的なプランを押し出した、マンダヴィル氏は、まさに革命児でしょう。
ですが、今回のプランはリムサ・ロミンサならではです。かの砂漠の住人には思いもつかないかと。」

「なるほどな。」漆黒のミコッテは笑みを口の端に。
「はい。グリダニアは、こういう商売には疎いですので・・絡んでくることはないでしょう。そういう意味では、専売特許になりえます。」
「ふむ。なら、冒険者用に窓口を増やすか。攻守を別々の枠でな。」
「はい。かしこまりました。」

退室する執事を無言で見送りながら。
「さて?どうしようかな?」
ごろごろ、と無造作にパールをデスクに転がしながら。
「面白い話を出してもらおうか。」
手に取ったのは・・・

「ああ、カピタン(船長)フィルフル。面白い話があるんだ。君も乗ってみないか?」
「・・・断る理由があればいいのだが。なさそうだ。」
「さすが英雄。期待しているよ。」

いいイベントだ。
クォは、ワイングラスを傾けながら。
「いい夜を。」

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