1002外伝2 とりあえずの幕間。あるいは、行間。その2。

「え!?本当?」
ウルダハ在住のミコッテの鍛冶師、エフェメラは目を丸くし、ついでに尻尾も丸く収めて。
この幸運は果たして、12神のうち、どなたなんだろう?なんて思ってしまい、いやいや、メネフィナ様しかないじゃない?ワオ!
でも・・・
手にしたチケットには、こうあった。
「ご招待に応じてくださいました暁には、リムサ・ロミンサまでお越しくださいませ。尚、パーティ等もございますので、
ドレスアップに必要な服飾、及び装飾は自前で用意をお願いいたしております。」

むむ。

ドレスコードか・・・一応、ないことはない・・一張羅が。
ただ、装飾品となると・・・少し心もとない。
ウルダハには、宝飾店シレイアスもあるが・・・まあ、コネがないわけでもない。
「安くしてもらおうっかな~」
ワタシ的には、オシャレには疎い・・と思うが、そのへんはまた別のコネというものがある。
「あの・・ショコラさん?」パールで相談を・・・


「これは・・・。」
金髪、碧眼。すらっとした体型のヒューランの女性。
送られてきたチケットを凝視する。
普段は、採掘や、伐採など、近くの山や、ザナラーンには多くない草木を観察しては、標本を採ってきて、何かと学問に結びつけるのを生業に、アルダネスの学院で講師をしている。
ステラ・カデンテ
生れはウルダハだが、親がリムサ・ロミンサ出身だったので、そちらの命名を。
いわく「流れ星」だそうだが・・ある意味で間違ってはいないし、浪漫あふれるネーミングと、自分では納得がいく。

そして、チケットにはこうある。
「・・・ドレスアップに必要な服飾、及び装飾は自前で用意をお願いいたしております。」
なんだとお!
学者兼講師、という職業柄、そんなドレスコードなんて持っているハズがないではないか。
まさか、作業着で華やかなパーティに出れる、とは、到底思えない。
「でも・・・」
どうしたものか?まだ、期限は3日ある。その間にドレスや、宝飾品を見繕う時間もあるだろう。
問題は金額だが・・・。
葛藤に悩まされながら、講義の準備を続ける・・・浮ついてしまっているが、自覚が・・


ブルーム・ベルは、何とはなしにチケットを眺め・・
「う~ん?なんでオレ?」
忍術の師であるキサラギが、一枚の紙切れを。
「やる。」
その一言で、その日の修練は終わってしまった。
「はて?」
なんだか、毛づくろいみたいなおしゃれなふくを来てこい。
だと。
んー・・・。
忍術は、どう見てもオシャレには程遠い装備。(中には、見栄えのするのもあるが)師は、どうにも好きではないらしい。
「忍びとは、心の上に刃を置いて、冷静に判断すべき。」が信条だし。
その浮ついた装備が気に入らない、とは言っていたが・・自分には強要はしてこない。
というか、この文面を見て、こちらに回してくる以上、「オシャレとやらをやってみろ。」な挑戦とも思える。
「やりますよ・・オレ。」黒衣森の修行場でグっと拳を握り締め。
「これも、内偵の練習なんですよね!」拳を突き上げる。


「あの。いいでしょうか?」
桃色の髪のミコッテの女性、ユキネは、上司を上目遣いに。
リムサ・ロミンサの港。
大型豪華客船「リムレーンの祝福号」の甲板。
今日の午後から、乗客を迎え入れるのだが、もうそれほど時間の猶予はない。
そろそろ、陽が中天に差し掛かりそうだ。
「どうかしたかね?」上司、つまりは観光局(新設された、そして自分も採用されて初めての仕事になる)
上司のニックネームは、ファットチョコボ。もちろん、同僚だけでの隠語だ。

ルガディンといえば、普通は筋肉質な(例えば提督みたいに、必要な部分だけが筋肉の鎧みたいな)が定番なのだが・・・この上司は、
どうやればそんだけ脂肪を蓄えて、かつ、消費できずにいるのか・・
「どうかしたのかね?ユキネ君。」バルバ氏が問う。
「いえ・・その。私なんかで務まるんです?コレ。」
プラン表、あるいは日程表。
「大丈夫だよ。問題はない。それに、先方とはキッチリ話がついているからね。君は十分適任だ。そうだ、君しかいない。君ならできる。わたしはそう信じているよ。」
恰幅のいいルガディンの上司はそう言って去っていった。
もうあまり、時間がない。
まずは、プランを書きなぐった日程表。もう一度確認をする。
初日は、どうということもない、ランチを済ませた乗客を迎え入れ、客室に案内していく。
その後のディナーも、まったくもって問題ない。
おおよそ、30名の乗客に、スタッフは40人もいるのだ。人手が足りないなんてことはなく、細やかなサービスができるだろう。
ただ。
「第2日 ディナー時に「海賊の襲撃があります。順次対応せよ。」尚、乗客に万全の対策を。そして、死ぬ気で戦え。」
・・・・・・・・・・・・
(ちょっと、待て。いやいやいや・・・これは・・マテ。)
客室乗務員のチーフに抜擢されて、それなりの評価に自信も持てたが・・初日からコレ?
ユキネは、個人ルームに引き上げ、こっそり連れてきていたマメット(自律人形)と遊んで、ほんのわずかな時間を謳歌していた・・・




「出航は、夕暮れか。」
カルヴァランは、どうにも浮かない顔で。
だが、どうしてもやらなければならない仕事があって。
そして、恋人の無茶を聞いてくれたメンバーを見渡しながら。
「あー。俺は、この船「ハンドレッド・オブ・グール(百鬼夜行)」の棟梁だ。なんていうか、成り行きで君たちを巻き込む形になってしまったが・・・」言葉を切る。

「えーっと。俺たちも名の通った冒険者を自負しているわけだが。」口火を切ったララフェル。
「そうだけど・・今回の、この依頼って、結局なんなんです?」銀髪の青年ミコッテ。
「ですよ~?」少しぼ~っとした空気だが、油断なく周りも見ている。黒髪のミコッテに対し、
「いいじゃないですか。お仕事が来たんです、もっと前向きに行きましょう。」こげ茶色の髪のミコッテは、態度の良くない生徒に言い聞かせるように。

「いや、すまないね。」百戦錬磨の船長は、正直「取り扱い注意」の看板をどこかで見たかもしれない。

「簡単なレクチャーだけさせてもらう。」と口火を切って。
「まず、今夜にかけては、目的の船を追いかけるだけだ。君達は手狭だがこの船内で一晩を過ごしてもらう。夕食はもちろんこちらで用意するが、各自の船室でとってもらう。
あと飲み物に関しては、酒以外ならなんでも、といってもある物しかないが・・オーダーしてくれて結構だ。酒は、今晩だけなら、酒保から用意はさせるが、明日はナシだ。いいかな?」
「おうよ」「ですね」「はーい。」「ええ。」
「あと、メンバー的には・・そうだな。目立ちたい子、いるかい?」
「え?」「なんでですか?」「はいはーい!」「ちょ!エグ!本気?」「楽しそう!」
これには残る3人は「ああ・・」と納得してしまい・・

「まあ、いい。」少しの苦笑と、柔らかい眼差しは、海賊船の棟梁には見えない。
「では、君には少しばかり台本通りの台詞と、演技をお願いする。」
(本来なら、俺の仕事なんだが・・こんな事をすれば、自分がイヤになる・・すまんね、冒険者君。)

そして、フェリと同じ船室に戻ったエグニール。
「おお!萌えるっ!」
「はぁ、何なの?」
「見てよ!この筋書き!」
「・・・えーっと・・。」

「はい?ちょっと!コレ、本当に言うの?エグ!?」
「いいじゃなーい?」
なんだか、どこかのスイッチが入ったらしい。
その、台本とやらには・・・

「へいへいへい!こちとら、名前の通った海賊「ルチーフェロ(堕天使)」だ。命が惜しかったら、金品全部、よこしやがれ!気の利いた言い逃れをできる奴は、
その場で言ってみろ!この銃で、風通しを良くしたくなければなっ!」
(そして、空砲を空に撃つ)

・・・・・フェリセッタは、なんというか・・・呆れかえるような・・どうしたものかと・・。
しかし、エグニールは、この台詞を覚えるために、しばらくブツブツと言いながら台本とにらめっこしていて・・
「・・ブツブツ・・ここ、船長としての名乗りがいるんじゃないの?・・・ブツブツ・・」
(やばい・・もしかして、ハマッタのか・・)
あとの二人はどう考えているのか分からないが、そろそろ出航らしく、船内も慌ただしい。
もう、どうとでもなれ、なんて思いながらフェリセッタは傍らのミコッテを見る。


「ラスティ?」
ララフェルの青年?の問いかけに。
「ああ?」とミコッテの青年が応える。
「僕達的にはさ。」
「うん?」
「立ち位置、微妙な割に、そこそこな報酬じゃないか?」
「ああ、言われてみればね。エグさん一人が役者なわけで、こっちはただの「回収役」だろう?」
「そこだ。」
「うん・・」
「思うに、ただ、脅して金品頂戴、ってんじゃ、エンターテイメントにならないんじゃないか?」
「! それはそうだ。」
「たぶん、もう一幕。あって然るべきだろう。」ゴーグルの向こう側の素顔はわからない。
「ということは。襲撃に備える誰か・・おそらく冒険者も乗客に居る、という事だね。」
「ああ、困ったことにね。騒ぎが大きい方が、観覧者は楽しめるだろうけど・・。」
「その匙加減、か。向こうさんも、素人さんだと、ちょっと加減なしに来るかもだから・・」
「ラスティ。そこまで深読みしなくても、オーナーは「できる」って判断したんだし。後は、こっちの手際でもって、ボーナスをとるしかないね。」
「ルジェ。時々君の期待値が羨ましくなるよ。」
「それは、褒め言葉だな。」


各自・・・
昼下がりから、午後に向けてのプランをこなしながら・・・


リムサ・ロミンサの夕暮れを前に、船が出航していく・・・



「デ?」
グリダニアの一角。
黒髪の人形めいた女性は、茶色のミコッテに少しばかり、頬を膨らませて。
「いや、フネラーレ。わっちも忙しいんだよ?」
「どうしテ?」
「それ、聞きますか・・。」ショコラは、とりあえず用意したスイーツ?を渡しながら。
(知り合いに頼まれて、ドレスを見繕ったり、「事件」の後始末だったり、そこにスイーツ用意とか、無いシ!)と叫びたくなるような一日だったのだが・・
とりあえず用意、なスイーツは、思いがけない所から。
東方の忍び、な彼女からいただいたのだ。むっちり、もっちり。竹と言われる筒に入れてあって、半透明なモノ。そして、袋には豆を挽いて作った粉末に甘味を足したもの。
「わらびの粉から作ったモチだ。」と。
とにかく、コレでフネラーレは機嫌が良くなるだろう、と持ってきて・・

「おいシいッ!」
確かに、美味。控えめな甘さと、食感が未体験。
これは、フネラーレじゃなくても、間違いなくウケるだろう。ショコラは、ベッキィの分を残し、二人で食べながら感想、というか「うまい!」しか出てこないワケだけど。
キサラギさんに、今度作り方を教えてもらおう、と算段を立てる・・・。


「「まあ、コレが上手く行けば、またこういう仕事が回ってくるんだろうな・・」」

カルヴァランと、バルバは、場所は違えど、偶然にも同じ月を見ながら同時につぶやいていた・・

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