985外伝2 黑剣。いろんな場所。

なんていうか。
ちょっと、か。
こういうクジ運?っていうのだろうか。
今まで引いたクジ運って、サイアクが礼服を着て、「よこうこそ。どん底に。」
ってばっかりだったと。
でも。
あの、オレンジ色に映える赤い髪の相棒を見ているときは・・「どん底、なんてな。その先は上がるしかないよね。」そう思えた。
でも、今度はどうなんだろう。
その素敵すぎる相棒は、素敵な相棒を見つけたわけで、それが眩しすぎて。
自分の方が目を背けてしまった。
「はは。どん底の使者は、うちやんけ・・」
ただ、ただ。その相棒の背中をちゃんと今の自分が支えてやれる・・いや。それは奢りだ。支える場所が欲しかった。そうじゃないのか?
葛藤が付きまとう中、独り。

ただ、無責任な自分ながらも、相棒に幸あれ。これは、正真正銘に願った事。
エレディタは、短い黒髪をかきあげながら雪原の地を踏み。

次なる邂逅を。


ぱちぱち・・・と暖炉の火が薪を爆ぜる音が響く。

なんとか、宿は取ることができ、チョコボに載せた女性を寝台に連れ込もうとしたが、面倒この上なく。
まずは・・・
認めたくはないが、この女性らしからぬ短くした髪に、乱暴(なのだろう?)言動に、ぐったりした女性を部屋に引き込む、など。

確かに、いいところの宿なら「乱暴を目的にした不貞の輩がやって来た」になるのだろうが・・
まずは、自分が女で、なおかつ「暁の血盟」とも関わりのある、と言って、しばらく待ってもらった後に、ようやっと宿が取れたのだ。

連れ込んだ?いや、介抱のために。
この女性は、あからさまにオカシな事を言っていた。
「ここは?」
の問いに、「クルザスだよ。」

普通はこれだけで通じるはずだ。
ついでに言えば、彼女の装備はどう見ても重甲冑で、そんなものを着ていれば到底こんな雪原だと凍死は確実。
そして、クルザスの領主国たる、イシュガルドの騎士達は確かに対竜族のために甲冑を着込んでいるが、こんな重装備なわけがない。
そもそも、彼らは長い槍を反動に使い、普通ではありえない高度の跳躍をしてのけ、その槍を叩きつける、突き刺す戦術を得意とするのだ。
その槍のしなり具合で、跳躍の強さを競い合うくらいなのに・・
この女性は、重装備にも程がある。

「はあ。」
とりあえずの宿に腰を落ち着ける前に。
こんな格好で寝かせたままだと、全身アザだらけになる上に、ヘタをすると凍傷になっている事も。
幸い、かつての相棒も甲冑・・とはいえ、軽装を信条としていたので、甲冑を外すのは、それなりに知識があったけれど・・ここまでのスーツアーマーは、
外すのに手間取る・・
いや。それ以前に・・この甲冑・・
まるで、見たこともない。
深奥の迷宮探索や、秘伝、謎、な武器防具は、今や街中でもたまには見かける。
こういってはなんだが、戦装束と銘うっている防具も、自分で持っているし。

しかしながら、この鎧は?

外し方は分からない。が、留め具や、革のベルトを外していくことで、一枚づつ謎の鎧を引っペがし。
さらに、驚きを。
普通は、こんな板金鎧なら、下着の上に布鎧、そして鎧と保護に鎖鎧で関節を保護だが・・
ほとんど全身に及ぶ鎖鎧、さらに布鎧。

傍らに黒い鞘に収められている大剣を見る。

全ての衣服を取り払うのに、かなりの時間を要し、体中の汗を布で拭ってやり、真新しい肌着をつけてやって、寝台に寝かす。
シーツをかけてやり、エレディタは・・
「うちも、お人好しにも程があるわ・・。」
寝台で静かな黒髪の女性を見る。
羽織っていた毛皮の上着をさらにかけてやり、宿の主人に食事を頼みに。

「よろしゅ。」「ああ。」

部屋に戻ると、彼女はすやすやと寝息を。
(うちも、少し寝んとなあ。)

暖炉の薪の爆ぜる音が、ゆっくりと。二人の寝息の邪魔をしないように
見守るような
子守唄のように

ただ

パチ

ぱち



爆ぜる音を、窓の外の風と

仲良く。



「くろのたん?」
小さな女の子のような・・いや、この種族は見て目で判断しては・・いけない。
「ああ。ええと。」
黒髪だったのを・・これまた、飛んだ色合いにした、とは、親友の弁だが・・・
「こっち、じゃなかった?」
「さっすが!ろいたんは言うことが間違いない!」

ヒューム、いや「この世界」では、「ヒューラン」そして、少女のような彼女は「タルタル」ではなく「ララフェル」なのだ。

この常識に少しばかりの時間が必要だったが・・今は、街中ではなくちょっとした荒野の一角。
「まいったね。この先は地図そのものがない。ついでに言えば・・僕たちは「異邦人」だ。
言葉の面でも少しばかりで済んでいるけど・・齟齬がある。これは、今後の課題だけど・・」
「ろいたん!そこはうちの出番!」ララフェル?な彼女が両手を突き上げてアピールを。
「あゆ・・な? それで、今まで、街で、どれだけ問題起こしたんだよっ!」
もはや原型を止めていない銀髪の青年は、このクソ暑いにも白銀のプレートメイルに身を包んでいる。
「まあまあ、クロノ。あゆちゃんは、ぼく達より余程社交的なんだし。」親友をたしなめる。茶色い髪の好青年。
「ガーが居れば、即、両断な事ばっかだな・・」
「彼は・・まあ、だね。」
通称「ガー」
二人とは幼馴染だが、口癖が「~ガー!」なので、あだ名が「ガー」になり、当人も気に入って名乗っている。
「まゆ姉は・・」ロィが・・
「言うな。」

「まゆねえ!」「なに?ガー兄!?」と、よくパールで言い合っていた。
今は懐かしい思い出だが・・
思い出にしておくのは・・
まだ
まだ。
早すぎる。

そして、他のメンバーもはぐれてしまい。

かつてのlsのリーダーは気まぐれで、が。
「次元の狭間」を探し求め、見つけ、自分たちを「この世界に」飛ばしてくれて。

「後始末は?」と、誰かが言ったセリフだが・・

とり合えずは

食事に水の確保。当然寝床も。
路銀の確保は、今のところは問題ないとしても、その路銀の元になる「材料」を売ってこそ、だ。そのために次のキャンプを探さなければ・・・

いろいろと・・面倒な事はあるんだよ・・・
3人3様の考えの元、荒野を歩いていく・・・



「うん。・・・・」
思考は・・・・
「あたしは・・与えられた・・立場。で・・満足・・・なのか、な?」

それは・・

世の中を

理を俯瞰する力。

まんべんなく。
目の前にあるかのように。
未来像も見える。
そんなものが、自分の手に余る事すら、わかりきっていて。
それでもなお。


パタン。

手元に有るノートにも似た端末を閉じ、電車の振動に身を預け。

(あたしは・・・どこの住人なのだろう?)尽きることがない疑問。

ただ・・

できうるならば。

「自分が、自分で在る場所が・・いいな。」



ここは・・・

そうだ。

先刻まで雪原・・いや?あれ?なんだかおかしい。
確か・・・砂漠・・・その先にある洞穴に潜むを狙いに・・
あれ?

今・・
シーツ?
その上に、毛皮のコート?らしきものまで。

シーツの下を確認する。
肌着・・・のみ。

「!」
意識のないままに、誰かに乱暴されたのだとしたら
それは自分が至らなかった。だろう。
しかし。
そんな屈辱は、己の矜持に賭けて。
そう。命をかけてでもその屈辱を雪ぐ。

そして、シーツを撥ね退け、愛剣の柄を探す。もしもないのならば、素手でもいい。
最悪、相手が自分の愛剣を持っていたのなら、いっそ首を落とせ!

その覚悟を纏い、腕を動かす。

「あ?目覚めたんか?ほんなら、とりあえずメシ。メシ食えや。」
目の前には。

椅子に体を預けていた女性が、傍らのテーブルに置かれていた皿と、パンを。
「あ?あ?の?」
完全に混乱・・
確か・・そうだ。知らないあいだに・・雪原に放り出され・・
名前は・・なんだったか。
確かに、この黒髪の女性に拾われた・・・・ところまでは思い出せて。
自分は・・名乗った・・と・・・思う。
多分。
だが・・・
この状況は・・

助けてもらい・・なおかつ、自分が勘違いで命の恩人に刃、ないしは、拳を振るうところだった・・というところ?
羞恥と、込み上げた感情をどこにしまい込めばいいのかわからないまま。
「ありがとう・・」と、皿の乗ったトレーを受け取り。

「その・・」
なんとか・・言葉に。
「なんや?」
黒髪を短くした彼女は、自分の長い髪とは違うが・・・なんだか親近感を覚える。姉妹のような。
なんだか。そんな感じ。
「ううん。ありがとう。その・・・あたしはアイリーン。どう言えばいいのかな?気がついたら、ここにいて・・」
「ああ。それやったら心配はいらへん。最近、そういう話しも聞くからな。」
エレディタはにっこりとしながら「ああ、うちはエレディタ、や。家名はあらへん。エリ、で通ってるさかい。エリでええ。」
「あ・・あの・・その。あたしも、その。家名では・・」萎縮してしまう。黒髪の女性。
元々、家名を名乗る習慣がなかったのだ。その代わり、リンクパールの「銘」を名乗るのが習わし。
「リン、でお願いします。」
「ほうか、ほな、よろしくな、りんちゃん。」
右手を差し出してきた彼女に。
「よろしく。エリ、さん。」

その呼び方に・・・少し・・チクリと・・・胸が痛む・・(まゆりちゃん・・・)

「色々あるやろうけど、とりあえずはゆっくりし。ここの宿は、うちが面倒みるさけ。」
「え!?」
「顔が効くさかいな。遠慮はいらへん。ただ・・外に出るときだけ、うちに一声、かけて欲しいってだけや。」
「・・・」
「そんな、無愛想な顔せんでもええ。ココは寒いし。あんたの装備見とったら、どう見てもここやったらスグに行き倒れてまうやろ?
せやさかい、体力が戻るまで静かにしとり。どんだけ急いどっても、先に行くには待つのも大事や。」
「・・・それは・・・そうです・・・けど!」
「ええから、言うとおりにしとき。まともに歩けるようになったら、一緒にいい毛皮を探しに行こうや。」
ニコっと。

「は・・・い。」微笑みを・・・・頑張って返す。





「りんちゃん・・・元気にしてるかな・・」ノート端末をしまって、職場に向かうあたし。


「りんちゃんの行方・・か。どこに飛ばされたのか分からないのはなんとかしてほしいな。」
「くろのたん。ぜろたんはできるだけ頑張ってる!」
「うん、あゆちゃん。むしろ、この3人が一緒にいることが、さすがのぜろたんだよ。」


「ふう。やね?」
「なんだよ、ぜろ?」
「どこにあるやら、か。」
「なんだよ、今更。」
「目の前にあって、それが目に入らない。それこそが「何処」なんだな。」
「おれは、そんな話にはついていけてないってよ。あの博士が、空間捻じ曲げて遊ぶのはいつもだけど、な。」
「ここ、ウィンダスじゃあ、風物詩、だ、な。」
「ああ。面倒だがね。」

二人のタルタルは緑豊かな街並みのカフェで穏やかに。



「武を究めんとす、か。」
刀を腰の鞘に収め、エルヴァーンの男性は・・・次元の狭間に身を・・

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