981外伝2 傭兵達の宴

ガヤガヤと今日も今日とて賑わしい酒場、クイックサンド。
主な客層は冒険者、商人、剣闘士や拳闘士。そして傭兵。
彼らの見た目は、ある程度で想像ができるが傭兵だけは見た目よりも、その気迫めいたものが一種の存在感で、
違和感というか、傭兵か、そうでないか?の違いができている。

端的に言えば「金銭」に対する執着というべきか。
とはいえ、先ほどの職種全てが金銭に無頓着などではなく、むしろ煩い。
が、冒険者はその名のとおり「冒険に夢と、義務感」に駆られて動く場合が多い。
また、その冒険自体を楽しんでリスクとの引き換えに金銭が入ればラッキーだとか、単純に金銭だけを求めていない。
商人は言わずもがな、一番金銭に貪欲だがそれは自分の命あっての物種で、決して危険には身を投じない。それこそ金銭で命を買うために稼いでいる場合すらある。
剣闘士達は、勝てば賞金などで潤うが大抵の場合は剣奴であったり、スポンサーがついていたりする。
ようするに勝ったところで全ての金銭を自由にできなかったり、商人の看板替わりの雇われだったり。
彼らは、具体的には「名声」こそが金銭や、命よりも大事なので。勝つことはもちろんだが、名誉のために己の武を振るう。

そして、傭兵達はまさしく「命と金銭を秤に賭けた」集団であり、個人。
食い詰めた戦場帰りの元兵士や、貧民街育ちで売るものが命しかない、野盗から足を洗ったものの行き場がない等。
中には気がついたら・・・な、なし崩しになってしまった者もいるそうだが、総じて気迫めいたものは空気としてまとわりついている。
そして、リスク回避に関しては商人もかくや、というぐらいに慎重だし、金銭の額次第によっては、野盗の用心棒になったり、裏切りもある、
ある意味モラルにも少々問題のある連中もずべてひっくるめて「傭兵」なので、雇い主としては十分に吟味してから雇わないと、
雇った飼い犬が実は、野犬で、噛み付かれた。なんて話も出る。

そんな酒場での一幕。
「ったく。最近は儲からんよなあ・・・」
丸いテーブルに着き、エールのジョッキを飲み干すとおかわりの注文をするハイランダーの中年の男性。
「おや。旦那、珍しくボヤキです?」
向かいの席に着くのは、暗灰色の肌のエレゼンの男性。
「ボヤキ言うなや。仕事が減ったのは間違いないんやしな。」
「傭兵稼業が儲からないってのは、平和じゃないんですかね?」
「そうとも言う。」
「とりあえずは、平和に乾杯しときます?」
おかわりのエールが二人分。

「儲からない平和に。」「退屈な日常にご贔屓を。」
ジョッキを二人で煽る。

「そういや、旦那。」エレゼンの男性は頬のタトゥを掻きながらこんなことを。
「あん?フィズ、いい話があるのか?」
「いい、かどうかはまあ、個人の趣味かもしれませんがね。」
「もったいぶんなや。」
「まあまあ、ヴォルフの旦那。アウトロー戦区って聞いたことあるでしょ?」
「ああ。あれだろ?カルテノー平原の戦場跡の所有権をどうのこうの、ってヤツだな?」
「ええ。グランドカンパニー所属に限る連中で、簡単にいやあ陣取り合戦ですよ。」
「話には聞いてたが。お前、やってんの?」
「ええ、まあね。」にやりとするエレゼン。
「で、わざわざ俺の所に来たって事は、あれか?お誘いか?」
「察しがいいっすね。どうです?」
「どうと言われてもな。第一、俺はカンパニーに所属してねえし。」
顔が一瞬真顔になるヴォルフだが、少し興ざめしたのか、また素の顔に。
だが、ここで顔色を良くしたのはフィズの方。
「やっぱり。俺は、実は黒渦団のメンバーでしてね。あちこち勧誘してるんですよ。ところが、新規でってのがリムサ国内じゃあ、底が見えてきてね。
こうやってフリーランスの傭兵、それも腕っこきを探してる、って寸法なんですよ。」
「なんだ、お前。そんな勧誘員の仕事してるのか?」
「まあ、そう言われればそうですがね。趣味と実益を兼ねてるもんでね。誰かに頼まれてやってるワケでもないんですよ。」
「趣味と実益、ねえ。(そういえば、こいつは戦闘、それも対人戦が大好物だったな)」
「で、旦那。どうです?腕は鈍らないし、払いもなかなか。それに、こう見えても俺も一団の団長を任されてましてね。悪い話じゃない、と思いますよ。」
「そういや、お前カルテノーでの帝国戦にも参加してたんだったな。」
「ええ。なかなかヒドイ戦場でしたね。部下のほとんどがくたばっちまってて。戦場を彷徨うだけ彷徨ってたら、終わってた、てところですか。」
「よくもまあ、そんな因縁の場所に・・」
「呼んでるんすよ。奴らが。隊長・・隊長・・ってね。」
「そんなオカルトでお前が行くとも思えんな。」
「まあ、性分ですか、ね。」
「まあ、いいだろう。様子見くらいには付き合ってやるよ。」
「マジっすか?よっしゃ!」
「ああ、ここでの飲み代はお前のオゴリやけどな!」
はっはっは!旦那らしいや!儲けてるんだろう?
二人で朝まで・・・・・



ひゅう・・・と熱風吹きすさぶ、荒野の一角。
日差しは傾きかけているのだが、一向にその蒸し暑さは控えてくれない。
そんな中、一陣の涼風が。
「もっといっぱい、踊れや!」
少女のような少し高めのハスキーな声と共に、周囲の温度が極低温度に冷やされ・・・いや、標的の皮膚からどんどんと水気が失われ、
その代わりに霜が張り付き凍らせていく。
術式が開放され、腕の一本が氷柱になっていくのを見ながら、青い目の女性は長めのブロンドをかきあげる。
「ひぃ!」
片手剣ごと氷柱に飲み込まれていくのを驚愕の目で見ながら、野盗はなんとかして逃げようともがくが、すでに両足も氷柱にされている。
残すは、頭と胴体、そして人質を掴んだ左腕のみ。
そこに。
「お姉ちゃん!こっちすんだでー!」明るい女の子のような声。
「ああ。こっちももう済む・・・」一旦、声の方を振り向いた彼女はもう一度、野盗に表情を向ける。
端正かもしれないが、妙に冷めた表情には年頃の女性のような愛嬌さはまるでない。
まるで、氷の彫刻かのようだ。
「ちょっと教えてくれへんか?」ハスキーな声は、今にも氷の塊でも吐き出しそうだ。
「あああ・・・」
「なあ?聞こえてるんやろ?」両手持ちのスタッフを突きつける。人質にされているエレゼンの少女も同じく声もなく震えている。
「・・・・な・・・なんだよ・・・なんなんだよ・・・?」
「オマエラの黒幕だよ。く・ろ・ま・く。聞こえたか?」
「し。しらねえ!親分しかしらねえ!ホントだ!だから・・・なあ、助けてくれよ!!!」
「おーい!ユーリ?コイツラの親分って、どうなったんや?」
「あ、お姉ちゃん!もしかして生かしておいたほうが良かった?」
「またやったんか・・・お前なあ・・まあええわ。しょうがないわ。 ええか?もうおらんそうや。」
「へ?」顔つきがこわばる野盗。
その時、ずるずると一つの荷物を引きずって、長身の女性が現れて「これ。使える?」と3人の前にぼとり、と落とした。
「・・・・!!!!!」あまりの光景に失神してしまったエレゼンの少女と、もはや声も出ない野盗。
「お前なあ・・・顔くらい残しとけや。ダレやかわからへんやん。」
「せやかもしれへんけど・・・」しゅんとうなだれる女性の右手には大きな斧が。
親玉とおぼしき人物は、顔の判別ができないくらいに叩き割られていて・・・
その装備だけで、下っ端野盗はその人物が誰か判断したらしい。
「あ・・あの・・・」震える声で・・・「その・・・オレ・・・その・・・そうなっちゃうんです?」
「あ?」姉?の方は杖をくるりと、一回転させ。
「まずは、そうやな。命だけは助けてやってもええ。その代わり、や。」
「は・・・はい・・。」
「さっきの質問に答えられたら、や。」
「・・・・あ・・あの・・その・・・」
「アカンか。ほなしゃあないわ。その女の子も見とらんさけ、ユーリ。吹っ飛ばせ。」
「はーい!」斧を両手で振りかぶる。
「待ってくれ!!!!」大声で叫ぶと、斧の動きが止まり・・・最上段のままだが。

一拍、間を置いて。
「なんや?思い出したんか?」ブロンドの女性は冷ややかに質問を繰り返す。
片手で妹の動きを止めた彼女は、かがみ込んで男の顔に息を吹きかける。
「・・・ああ、多分・・そうだ・・多分なんだ。俺みたいな下っ端じゃあ、素性も教えてくれない・・けど、あれは多分、銅刃団だと思う。
見張りの時に、親分の天幕に入っていくのが見えた・・でも、もちろん夜で、松明の灯りしかなくて・・・ただ、あの鎧は見覚えがある、
何しろ、こっちを取り締まってる連中だから。」
「ほう?」
「もちろん、この話は親分にもしてねえ。見ないふりが当たり前なんだ。もし、おくびにも出したら、次の日にはオレが吊るし首にされちまうから・・」
「ふうん、上出来やな。まあ、そんなんやったら、どこのダレかもわからんやろ。おい、ユーリ。」
「はい?」幼げな容貌の少女はしかし、姉よりも頭一つ分は背が高く、茶色っぽいブロンドを短めにしているが、鍛え上げた身体はいかにも強靭で。
さっきまで振り上げていた斧を地面に突き立てると、ズダ袋のようになった「元」親分の体を片手一本で少女の視界から外れるような場所に放り投げる。

「うわ・・」野盗の男は先ほどの情報を出すことで、今の眼前で行われた行為の的から外れることができた、と自身を納得させた。
「な?これでいいだろ?・・・助けてくれよ・・・。頼むよ。」
「へ?」
「お姉ちゃん、コイツなんて言ってるの?」
「さあなあ?うちにはようわからへんわ。ユーリ、お前、そのへんの獣の言うてる事わかるんか?」
「お姉ちゃん、そら、うちにもムリやって。」きゃはは、と嬌声を上げる二人。
「てめえら・・・・」怒り心頭に達したのか、野盗は再び人質を取ろうと・・
まてよ・・・・・・・
ユーリ・・・とか言ったか。このデカイ方の女。そして術士の姉。
まさか・・
「ユーニ・・・とユーリ姉妹・・・?」
笑い声を止め、ふたりは同時に野盗を見る。
「ほう・・・うちらも有名になったな、ユーリ。」「せやね、ユーニお姉ちゃん。」

陽光はそろそろ夕刻に迫ってきている。
「そんじゃあ、まあ。な。この辺でカンベンしといたるさかい、その子を離せや。」
「だよ?じゃないと、首があっちに飛んでっちゃうよ?」
・・・・・
否も応もない。左手をだらりとさげ、降伏の意思を示して「治療だけ・・できないか?」
氷漬けにされた両足と右手だが、その氷の大半は溶けている。
が、その水分自体は男のものなので、かなりの脱水症状と、凍傷で動かすこともままならない。
「ま、ええやろ。悪さはここまでや。」
その一言で回復術式をかけてやるユーニ。
そして、気絶したままの少女を抱き抱えるユーリ。

その二人を見て・・・
男は、(甘めえんだよ!)
持っていた左手の短剣をユーニに投げ放つ・・・が、すっとかわされる。

そして。
汚物でも見るような冷ややかな視線。
「う・・!」
「踊り足らへんようやな?」
一瞬で構成を展開させていく。
「さっさと。」ひとつ。
「踊れ。」ふたつ。
「クソ野郎。」みっつ。
霜が全身に張り付き、次いで体全体が氷に覆われ始め、最後に巨大な氷塊が圧搾するかのように凝縮していき、
男のカラダは細切れのように粉砕されながらも、血の一滴も落とすことなく赤い霧のように熱風に溶けていった。

「クソが。」
「お姉ちゃん、えぐい!」
「うるさい。帰るぞ。」

問題は、この両親を失った少女のことだが・・・アルダネスの学院にでも預けるか・・
ユーニは厚底のブーツで荒野の石を蹴りながら、今後の方針を・・。


クイックサンドにて、姉妹は今後の展開と預けた少女の未来を憂慮しつつ、遅めの夕食を。
「どうすんの?お姉ちゃん。」シチューをほおばりながら、妹のユーリ。今は普段着に着替えていて、背は高いが、まだ幼い顔の女の子に見える。
「せやなあ・・あの子はまあ、学院まかせでええやろ。うちらが連れ込んだとはいえ、なあ。」
「お金?」
「ああ、うちらも干上がる寸前やで。ええ仕事あらへんかな?」
「せやなあ・・・って。なあ、お姉ちゃん?」
「うん?」
「あそこにおるん、オトンちゃうか?」
「ん?」
「せや、絶対そうや。それと、あれ、誰やっけ。昔にコロセウムに来とったエレゼンのにーちゃん。」
「あ?ああ・・・って、なんやその組み合わせ!?」
二人はしばらく様子をみながら・・・・

(なんの話しとんにゃろ?)(・・・静かにせえ。)(うん・・)

(アウトロー戦区?)(・・・て聞こえたな。)(うん。)
(うちらも、公募に乗ってみる?)(せやな・・・ザコ相手にするんもアレやしな。)
(オトン、どうすんにゃろ?)(リムサに着くみたいやな・・・)
(ほんなら、うちらも?)(アホ、ウルダハに決まっとるやんけ!)
(お姉ちゃん、声大きいって!)(お前もじゃ!)


「旦那?」
「あ?」
「お嬢さん方も参加するみたい、ですよ?」
「ほお。そいつは楽しみだ。」
「じゃあ、黑渦団に引き込みましょうか。」
「はは、アホ言え。あいつらは俺がリムサに着くって聞こえたんだろ。なら、ウルダハか、グリダニアに行くよ。」
「そんなもんです?」
「みたいだな。」
「それはそれで、盛り上がりますな。」
「ああ。戦争の真似事とはいえ、いい実戦経験になるだろうよ。」
「じゃ、まあ。」
「ああ。うちのじゃじゃ馬共に乾杯だ。」



「カヌ・エ・センナ殿。」
「はい。提督。」
「例の戦区については、万事順調そうだな?」
「そうですね。」
「いや、おふた方。思った以上の成果というべき、だな。」
ドアが開く。
「ラウバーン局長。」「お疲れ様です。どうぞ。」席を勧める
「いや、女性おふた方をお待たせして申し訳ない。」
「いや、気にするな。女だけの会話も楽しいものだ。」「まあ。ナナモ様は?」
「ああ、先ほど寝室に赴かれた。この席に出たいと仰るのを嗜めるので時間がかかってしまった。すまぬ。」
「かつての戦場を、このような余興にしてしまうのはなんともだが・・」
「いえ、提督。彼の地に残された英霊達は、ただ寂れてしまった荒野をそのままにされておくよりも、若き戦士達の鍛錬の場とされた方が、良いでしょう。」
「そうだな・・・それに・・このウルダハでは、職にあぶれたり、くすぶっている連中もいる。
彼らが犯罪に手を染めるよりも、やがて来るだろう、帝国との再戦のために腕を磨く場としては、な。彼らも報われる。」
「そうだな。ラウバーン局長もたまにはいいことを言う。」
「センナ殿ほどでもない。」
「まあ・・そんな。しかし、帝国との状況はいいとは言えません。それに・・」
「ああ。イシュガルドの連中な。カルテノー戦では、期待していたのだが、一兵たりとも出さなかった。
それどころか、その前に同盟から脱退するなぞ。海賊上がりの私がいうのもなんだが、連中ですら流儀は通したぞ。下衆以外はな。」
「まあ、今更言っても仕方あるまい。これらも踏まえて、どのような戦略を立てるにしても現状、あの「戦場」は維持していくべきだろう。
次代を担う英雄も現れるかもしれんしな。」
「だな。」「ですね。」

「では、これから3カ国の合議と、暁の血盟との協議を進めていこう。」


・・・・・・・

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