973外伝2 悩みは尽きないのかもしれない。

ひと振りの刃。

女性は、そのひと振りを手に。

「鬼の庖丁」と呼ばれる、ひと振り。

刀、といえば、太刀と呼ばれる長い戦場の刃、それと対になる脇差。

控えめな刀身は近接戦闘に向き、かつ軽いため軽快に振るうことができる。

故に。

斬撃には適していない。単純に重さがあり、膂力があれば圧倒的に太刀の方が殺傷力は上。

それを。

技術で上書きしていけば、その不利を有利に持っていくことができる。

くす。 微笑が唇を艶やかに潤すように、鞘に収めていない刃には、朝露にも似た滴る・・液体。

「まだ、か。」知らず、ひとりごち・・・舌打ちを。

彼女を満たすための供物は未だ現れない。


グリダニアを代表するようなカフェ、カーラインにて。
「で?」
「あん?」
「そーろそろ、ネタばらししてくんない?」
栗色の髪の鬼哭隊隊長の女性は、長年の腐れ縁とでも言うべき親友に促す。
「本領?」なんて、はぐらかしながら、表情は真剣なグレイの髪の女性。
「レティ?わたしは。」
「ああ。わかってるって。遅まきながら気づいたの。見落としがあったって。」
「へ?」
「最後の・・いや、違うわね。そもそものピース(欠片)が、あまりにも不整合過ぎた。これはロジックや、パズルでいうところの、ね。」
「よくわからない例えねー?」
「いい?この事件は、そもそも何故?というところからスタートしてるのに、よくわからないまま進んできて、同じような案件が一緒についてきた。
本来なら別々にすべきだった所が、一緒になってしまった。だから、二つのパズルを一つだと勘違いしてしまった。」
「それで違うピースだと?」
「そういうこと。マスターピース(最後の欠片)は、もうはめ込んだ。今夜が勝負よ。部隊の動員、よろしくね。」にっこり笑う「魔女」
「いいけど・・。その欠片って、結局のところなんなのよ?」
「結果はとくと、御覧じろ。」
「毎度のことながら、ね。レティ。」
「まあ、ね。お楽しみは最後に取っておくものよ。」ケーキの上のベリーを最後の一口と言わんばかりに頬張る少女のような笑み。


「なあ。ミッター?」黒髪の女性は。
「ん?黒・・姉?」茶髪の青年。東方風の着物を着て、腰にはひと振りの剣。
「私はさ?果たし状の、この・・なんていうか、書式を間違えたのか?」
「わからないよ。僕だって黒の書いた筆跡自体が何がなんやらなんだから。」
「・・・そうか・・・だが・・あの魔女からの通達だと、今宵の場所も指定してるし・・」
「ああ、そうだね。とりあえず、僕も行くから。」
「なんで・・?」
「決闘だとしてもさ。見届け人は要るだろ?それに、あの魔女相手に無傷ってわけにもいかないだろうし。」
「それは・・・そうかもしれないけど。なんで剣を持ってきた?」
「それは、護身用だよ。」
「・・・好きにすれば。」そっけない顔で黒雪は「妖刀」の手入れを始める・・・


黒衣森の中。
「ふう。こんな役回りなんて、俺の性じゃないのだがね。淑女の頼みとあらば応えずにはいれないね。」
「ご主人様、さっさと終わらせれるよう、頑張りましょう。」
「そうだね。クラ。」黒衣の紳士は帽子のつばを軽く触れると・・・


黒衣森の少し広がった場所。苔に覆われた朽ちた樹が横たわり、同じく苔むした岩や、名前すら知られていない草々達。
その一点にだけ、不釣り合いな物が置かれている。

くす。「やっと・・・お出まし・・なのね・・。」
女性は刀の柄に手を添え、恍惚に似た感情を表情に投影するかのように微笑む。
「待った・・・この時を。あの屈辱は・・・拭いがたい枷・・・、錘・・・恥辱。」
黒い衣装は、小柄な体躯にぴったりとして。それでいて動きやすさを優先するかのようにできている。
もっとも、動きやすさと、致命的な損傷をカバーするとは、相容れないものではある・・
目の前の書状を見て。自分のしたためた書状。その書状には、短い刃が突き刺さって地面に縫い止められて。
「来い・・・早く。」

月明かりだけが彼女の存在を示していた。


「スゥ。」魔女の一声。
「うん。」応える親友。
わかっている。自分の役割を。二人は頷きあい「戦場」を眺める。
あの「男」に貸しを作るのは癪だったが・・・この際仕方ない。余計な被害は抑えたい。
レティシアは諦観と共に、「舞台」に俳優が揃うのを待ちながら視線を移す。
「そろそろ、ね。」
黒髪の剣士が姿を現し

「何故?」と、今更ながらの声を上げるのを見届けると「開始、かな。」レティシアは自身の装備を確かめる。

「黒雪。待ち望んだ・・」漆黒の如き髪を乱れさせながら。長い髪は、彼女の恩讐なのか・・
乱れたまま、風に流されては、生き物のように蠢く。
「宵凪・・」
「果たし状、やっと・・・やっと・・・・・・・ははぁ!やっと、だあああぁぁぁっ!」
「ま、待って!な、何のこと?私は・・」
「黙れ!このひと時もの間、オレはオマエの代わりの人形の相手ばかりで退屈してンだァ!」
「な?」これは・・

スラリとした刀身は、月明かりのせいか銀光を放ち、その中に禍々しい殺意が溢れ出ている。
「まさか・・それは・・」黒雪は呆然と・・「鬼の庖丁・・・」
「ああ!そうさ!オマエ、鬼包丁を手にしたんだろゥ?だったら、それに見合った武器が要るじゃないかぁ?」
黒雪は意識を腰に挟んだ刀に・・・
腰に挟んだ脇差は「妖刀村正」又の名を「鬼包丁」
別の刀匠が鍛え上げた脇差と区別すべく銘を変えた「鬼の庖丁」とは、似て別なる「妖刀」として

「何がしたい?」
「どちらが本当の妖刀の主か問うのだ!」
「よかろう。」
「そうこなくっちゃあねえ!黒雪ねえちゃん!」
「・・・妖刀に染られたか・・・。仕方ない。が・・加減はしかねる・・・!」

「あの・・」青年が声をかけてきて
「ああ。しばらくは様子見、かな。」魔女は油断なく戦闘が始まりかけた広場を見据えながら。
「僕にできることは?」
「あの娘が好きなんだろう?なら、妖刀なんていう、まやかしに負けないようにしっかり見ててやれ。」
「それは・・」
「武器に魂を込めることも・・あるいはできる。が、そのほとんどは古代の知識を練りこんだ術式があっての賜物がほとんど、だ。ただの伝説程度なら、そこまで大きなことはできないさ。」
「でも・・」
「それなら、あたしのお墨付き、愛用品を売ってあげようか?それなりに伝説になってそうだけど?」
「いえ・・」
「その程度、よ。問題は、それを信じきってる使い手ね。」
「はい・・・」
「信じてあげるのも愛情じゃないのかな?青年。」にっと笑いながら、離れていく魔女。

「かなわないなあ・・・。」

戦場は、一触即発にまで・・緊迫して・・・

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