628外伝。コロセウム カードその2 参謀の思惑。

アリティア産業の秘書にして、第一倉庫管理責任者のセネリオは、今回の対戦について案を出していた。
この囲われた舞台で4対4の戦い。
まず、誰から落とすか?そこが要点となる。
なぜなら、3人に減るとライトパーティと呼ばれる恩恵が無くなるから。
コレを念頭に落としやすそうな戦術を考え、受けの案を提案。
まず、実力がイマイチはっきりしないが、攻撃特化の黒雪嬢には攻めにでてもらい、相手の目をそこに向けさせて。
スウェシーナ隊長と自分で、突出してきた相手を落としにかかる。
水晶の魔力には遊撃として、相手の術士を抑えてもらおう。

概ねの戦術を皆に告げて。


だが。
いざ始まってしまえば、あまり細かい動きは期待できない。
各自の判断に頼るところもあるだろう、と。
ましてや、あの「天魔の魔女」が居るのだから。


そして、近くでは爆音が鳴り響く。
術士達の高位術式合戦。
「あんな場所には参加したくない・・・・。」だが、マナが相手の術士を落としたらしく、こちらに合流してくる。
「お疲れ様です。さすがですね。私の出番が無い。」
「ふふ、まなんにかかればね~。」ララフェルの術士はにっこりと。
「レティが来ない、ってのは少し不気味かな?」隊長がそう言った瞬間。


ズシャ。
赤いレザージャケットに身を包んだ魔女が近くの壁から落ちてきた。
しかも、逆立ち状態からの脚技つきで。

これには完全に不意を突かれた。黒雪嬢の相手をするのではないのか?混乱するセネリオ。
「な!」

そこに。
「吹き飛べ!」
ララフェルの術士の構成が展開していくのが解かる。その大きさはさすが、である。
膨大な紫電が視界を灼く。

だが、さらに目を疑う出来事。

おそらくは展開される構成を見極めた、いや、先読みしていたのだろう。構成が出来上がってからでは到底間に合わない。

避けたのだ。
あの魔力の奔流を。
信じられない光景を目の当たりにして混乱は度合いを高める。

「マナマナ、らしくないわね!ソコはバーストでしょ?」魔女の一言に。
構成を編み始めるララフェル。
しかし、魔力が枯渇してるんじゃ?と心配をしながら・・
「そろそろ魔力が怪しいんじゃない?アルと対戦して、かなり消耗したでしょ?」魔女の挑発。
やはり、同じ事を考えている!ということは、ララフェルの術士を落としにきたか!魔女!

「まなんはそんなコトは無い、と言い切る!」
「ほう!」
バグナウがララフェルを襲うが。

割り込む。落とさせてはならない。不滅の刃「デュランダル」をの白銀の刃と盾を持って防ぎにかかる。
隊長と二人で「後の先」の戦術通り、返り討ちにしかかる。
「そこは、抑えさてていただく。魔女殿。」白銀の刃が振りぬかれる。

「こいつはやっかいなのが出てきたね。」魔女が不敵な笑みを浮かべる。
なにをっ!この3対1の状況で攻めてくる、しかも一歩も退かないだとっ!

そこに槍が出てくる。
名槍、「竜の髯」
「わたしもいるんだけど。」茶色というか、栗色の髪の女隊長。魔女とは旧知の仲らしいが、もちろん腕前は確かだ。

だが、魔女は驚いたような表情でこう言い放った。
「あ、居たの?」
は?なに?この展開は・・。
しかも脱力したかのように構えた長爪が下ろされる・・・・・
どういうことだ?旧知だからか?剣を振りかぶったまま、あんまりな事に手が止まる。

「もうっ!」
隊長が悔しがって地団太を踏む。槍を突くような体勢ではない・・・・
そして。
「ソコがいいところね。」
目を疑う。
な、なに!?

一瞬の隙を突いて突出した魔女は、モンクの奥義を隊長に叩き込む。
十撃以上の打突に蹴撃まで加わった攻撃であっという間に。まさしく、あ、としかいえない。あんまりな出来事に、加勢する間もない。
吹き飛ばされた隊長は意識を失ったようで、立ち上がる気配は無い。

ララフェルの術士も呆然と。編み上げた構成はすでに意味をなしていない・・散っていくのがわかる。
「な!」
話には聞いていた。生ける伝説級の。「人災」
そのふたつ名は色々と聞いている。
「天魔の魔女(ウィッチケイオス)」「迷惑来訪者(ナイトノッカー)」「人災(ハザード)」その他・・。
こんな無茶苦茶な奴、どう対処すればいいのか?
先に「黒猫」と称される男と対戦したが・・・
正直、怖い。
あの男よりも。

混乱が加速する事態はさらに続く。

「これで!」
先ほど展開させたのと同じ構成を編みなおした水晶が、魔力をその構成に流し込む!

だが。
信じられないことに、雷撃系最高の術を羽が舞うような、ふわり、と避ける。
なんてことだ。
予め読んでいた?
それにしても、何故バーストが来ると?いや、先ほどの挑発?あれか!構成を目にしてからだと避ける事は不可能だ。となればそれしかない。

「じゃあね!一旦引かせてもらうわ。」ウインクが送られる。

だが、動いたのはララフェルの術士に向けて。

あっ!

「手土産、手土産。」にっこりと笑う。年齢通りには見えない容姿の魔女は少女のような笑みで。

「レティ!やることえぐい!」術士が叫ぶが。
「タイミングとしては今でしょ?魔力使い切って、騎士も呆然としてるんだし。」
水晶の魔力がなす術もなく叩き伏せられる。


そして魔女はこちらを警戒しながら、十分な距離をとりつつ撤退していった。

あれが

ウィッチケイオス・・・・次は!目を瞑り唇を噛む。

だが・・。
「次の相手は・・魔女じゃない?何故逃げた?水晶まで落としておいて・・。」
考えを纏める。

!葬儀屋かっ!
その時。風を斬る音と共に、矢が降り注ぐ。
やはり!




「さ~て、ベッキィ一人にあの娘は荷が重いわね。フネラーレの援護もしたいけど・・・。とりあえず、陽動だけでもしてあっちの娘を落とすか。」
フネラーレが来るまで少し様子を見ていたレティシアは、矢の防戦に必死になっている騎士の背後にまわり、頭をとん、と軽く叩く。
混乱している彼女の次の行動が読めないので、しばらくフネラーレの相手をしてもらわないと、黒雪嬢を落とす事が不可能になってくる。
「落ち着けよ。子猫。」

これで彼女は冷静さを取り戻し、フネラーレとの対戦に励むだろう。
攻撃力が半端ないあちらを先に落とさないとこっちはジリ貧だ。
魔女は急いで悪運ベッキィの元に。

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