583外伝。黒衣森の少女 二人VII

「ねえ、リーナさんて、普段どこに行ってるの?」
寝台の上にちょこんと座り、尻尾をぴたんぴたんと左右に振ってはシーツを叩き。
ミコッテの少女は不思議そうに向かいの寝台に腰掛けるエレゼンの女性に声をかける。

出会ってから、はや3ヶ月が経ち、お互いに気兼ねなく会話や生活ができるようになった頃。
エフェメラは向かいに座る美しいエレゼンの女性が毎日出かけているのが何処なのか少し興味を示し始めていた。
「ん?興味ある?」イタズラっぽく。
「うん。」物怖じせずに。
「そうね、明日連れて行ってあげるわ。エフィもそろそろ、かしらね。」
「げ?も・もしかして・・・?」
「どういう想像してるかは知らないけど、剣振ったりとかじゃあないからね?
いくらわたしが傭兵だからって、日がな毎日剣ばっかり、なんてのは無いんだから。」
「え?と?」
「それと、オトコも関係ございません。」くすっ
「読まれてる?」
「短絡的ねえ。商売、というかね利益と実益を兼ねた事。と言っておこうか。」
「ふうん。」
納得したような口ぶりで返事だけはしておく。
しかし、持ち前の好奇心が持ち上がってきて、興味はさらに引かれていく。

ランプの明かりが部屋を揺らす中、少女はなにやらもやもやと・・・。
「はいはい。じゃあ明日連れて行ってあげるから。今日はもう寝よう。」
「うん♪」

ふっ
ランプが消され、夜の闇が部屋の中を満たす。
「おやすみなさーい。リーナさん。」
「おやすみ、エフィ。」



翌朝。

・・・・フィ・・

・・は・・エフィ・・

エフィ・・エ・・・

ん・・・んにゃ・・・・・ハッ!
ガバっと上半身を起こす。

「おはよう、エフィ。」
「お、にゃふなう。」
まだ少しぼうっとしている。
「朝食ができてるわ。顔洗ってきなさいな。」
「ふにゃい。」

リビングのテーブルに向かって座り、白パンとタマゴ、香茶の朝食を。
「で、その?」
「うん、そうね。ちょっとくらい汚れてもいい服がいいんだけど・・。わたしのお古だと少し大きいかしら・・。」
「あ、それなら、此処に来たときの服でいいかな。リーナさんが色々買ってくれたから、あの服もう着なくなったし。」
「あ、そうね。じゃあそれで。」
そういうカタリーナの服装はかなりラフだ。長い髪もバンダナをして、後ろ毛は括ってある。
「よし、ご飯終わったら早速行こうか。」
「うん!」

食事を終え、片づけが済むと少女は着替えに、カタリーナは荷物の点検をして、二人でエーテライト広場まで。
「ほえぇぇぇ・・・。」
蒼く輝く巨大な石柱が宙に浮いているだけでも不思議で幻想的なのに、その石の周りをさらに同じような、
でも小さい石が3つほどクルクルと取り巻くように浮いている。
初めて見る光景に目を奪われてしまって、しばらく立ち尽くしていた。
「エフィ?綺麗でしょ?これがエーテライトよ。でね。手を差し出してみて。」
「こう?」右手を石にかざす。

慌てて手を引っ込める。
「い、今、なんか聞こえた・・・。」
「うん。エーテライトは人の精神と感応できるの。でもそれは人格があったりするのではなくて、やっぱり石だから感応できるだけ。
そしてそれを応用した技術が移動術式ってやつなの。」
「へえ・・・。」
「ということで、さっき言われたとおりに念じてみて。それでこの石はあなたを覚えてくれるわ。」
「うん。やってみる。」

「できた・・・・。ぷはー・・。」
「大げさね、もう。」
「だって、石だよ?リーナさん。」
「鉱石に手足が生えて目を付けたらコブランって魔物ができあがるわね。」と笑う。
「あの、ゲッゲッゲッゲって鳴くヤツ?」
「そう。意外とかわいいのよね。」
「うげ・・。」
さてと。
「じゃあ、準備もできたし跳ぶわよ。つかまっててね。」
「へ?」
「テレポ・リムサ・ロミンサ。」
カタリーナを中心に蒼い光が立ち上り、やがては覆い尽くすと今度はどの光がエフェメラにまで及ぶ。
「にゃあっ!」と叫んだ時にはすでにウルダハからは姿を消していた。

「い、今のなに・・・?」少女は茫然自失の体であたりをキョロキョロと見回す。
目の前には先ほどと同じ、宙に浮く蒼い石柱。しかし、周りが全く違う。白亜の岩を削り出して作ったブロックを積んだ壁。全体的に明るめな・・・。
「今のが移動術式よ。石と契約をすれば誰でもできるの。エフィもさっき契約したから、何処に居てもウルダハまで跳べるようになったのよ。」
「へ?え?」
「ほら、ドライボーンにもあったでしょ?」
「そうだったっけ?」
「で、各地で契約しておけば、何処でも好きな場所に転移できるから便利よ。と。いうわけで、此処はリムサ・ロミンサ。ここの石とも契約しておきなさい。」
「はあい。」

「じゃあ、行くわね。ついてきて。」
トコトコと歩いていく女性の後ろに。離れまいと目が真剣なところは子猫が親猫の後を追いかけてるようでなんだか微笑ましい。
広間から出れば橋があり。そこからラノシアの海が見渡せる。
「きゃ!なに?ねえ!リーナさん!この水?なんなの?」
「ふふふ、これが海だよ。エフィ。聞いたことない?」
「ある!なんだか大きい水たまりで塩味がするって。でもこんなに大きい水たまりだなんて、おもわなかったよ!」
はしゃいでいる少女を温かく見守り。
「そろそろ行くわよ。」促しながら。
「ああん、もうちょっと!」名残惜しそうに唇を尖らせる。
「また来ればいいでしょ。さ、早く早く。」
着いていけば、銃剣屋「サンダースコール」を通り過ぎ、「よ、リーナちゃん、今日もカワイイね!」「もう、大将ったら。」その奥に。
甲冑の頭部と金床の意匠の看板が。「ここよ。」
看板には「ナルディク&ヴィメリー社」とある。
「なにここ?ねえ。リーナさん。」
「鍛冶師と甲冑師のギルドよ。わたしが所属してるのは鍛冶師ね。」
「ふんふん。」
「で、エフィ。あなたも鍛冶師ギルドに入りなさい。」
「でっ!?」
「わたしが普段ここに通って生活費を稼いでいる、ということで納得できたかな?」
「うん。」
「じゃ、一緒にやろうか。」「はあい!」「お、元気いいわね。」「リーナさんと一緒にいれるから!」「嬉しいわ。」


1年が経ち・・・・
「ねえ、リーナさん。」
「なに?どうかした?エフィ。」
「その・・リーナさんの盾をね、磨いてもいいかな?」
「あら。ええ、いいわよ。お願いしちゃおう。あ、でも。盾の裏は絶対見ちゃダメだからね?」
「え?どうして?」
「盾の裏面にはね、おまじないが書いてあるの。そのおまじないを見ながら盾を構えると、
絶対にケガをしないんだけど、他の人がそれを見ると効果が無くなっちゃうの。」
「へー、だからリーナさん、いっつも元気に帰ってくるんだね。うん、見ないよ。」
「じゃあ、よろしくね。」

2年が過ぎ・・・・
「リーナさん、今日はギルド行かないの?」
「うん、傭兵の方のお仕事が来てね。3日くらいで帰るから。ちゃんと練習するのよ?」
「リーナさんが行かないなら行かないもん。」
「エフィ!」
「つーん。」
「もう、仕方ないわね・・。じゃあ、行ってくるわね。ちゃんとご飯食べるのよ。」
「いってらっしゃーい!」

3年目・・・・・
「ねえ、リーナさん、今日の夕食どうするのー?」
「そうね、久しぶりに外食としゃれこもうか。」
美貌のエレゼンは、少し大人になった少女を見て微笑みながら。

クイックサンドに。
「リーナさーん!あの席空いてるよー。」
取られまいと駆け出す少女。「こらこら!エフィ!」
叱るが聞きはしない。「もう・・。」やんちゃな妹にこめかみを押さえる。
二人、席に着き銘々注文を始める。まずはワインで乾杯。そして
「エフィ、お前今後どうするんだ?わたしの家にいつまでも居るわけにもいかないだろう?」
「え。リーナさんと一緒がいい。」
「それはわたしもだが、せっかく馴染みの鍛冶ギルドを紹介してやったのに、家でこもってるだろう?」
「リーナさんと一緒なら行く。」
「もう、子供じゃないんだから。」少女の人見知りはあの頃と変らない。なら何故あの男について来たのか・・。
「ふん。胸がリーナくらいにならないと、子供認定でいいもん。」
確かに自分はそれなりのサイズだが、少女も成長期だけあって出会った頃よりも・・・。
「そこかあ・・・。またハウンドのアホに吹き込まれたわね?」
ぶつぶつ・・・・・(ちがうもん・・・・)と聞こえた気がする。
食事を終え、帰宅する。

「ね?リーナさん。どうしてハウンドさんの事嫌ってるのにいっつも一緒だったり話題がでるの?」
「そりゃ師匠だからね、一応。それに・・まあ、腐れ縁、ってやつ。」
「ふうん。オトナの事情ってヤツ?」
「マセた事言ってないで、寝台の準備!働かざるもの食うべからず。」
「はあい。」

カンが鋭くなったなあ・・男女の仲になったとはいえ、喧嘩別れとヨリが戻ったり。
なんだかどうでもいいような気もしてきて。今のスタンスが一番楽、かしら。

「できたよー!リーナさーん!」「ああ、今いく。」

寝台によこになりつつ「ね?どうして今日は外食したの?」
「ああ。明日からまた遠征だからね。ゼイタクしなきゃ、あっちのメシはひどいもんさ。」
「ふうん。元気で帰ってきてね。」
「ああ、おやすみ。」(エフィが磨いてくれた盾が護ってくれるよ。)

また日記も書き足さないとね。いつ頃埋まるかな。たのしみだな・・・・


----------コメント----------

思い出した!確かに悲話だったw
Sanshi Katsula (Hyperion) 2013年05月12日 12:39

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>三枝ししょー。うぬ。
違う視点で進めてきますた二人編ですが。次回で終了とあいなります。
注意書き確定ですゆえ・・・・。 
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月12日 13:00

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次回、とっても楽しみにしています。
Yupa Boleaz (Ragnarok) 2013年05月12日 13:49

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ナルホド。
しっぽぴたんぴたんで
コブランがッゲッゲッゲッゲ
リーナさんはナイスボデー
いよいよ次回か・・・。
Fizz Delight (Hyperion) 2013年05月12日 13:51

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>フィズさん
なにその今北産業みたいなw

>マユリさん
最終話が来たら転載しておきますね。
Marth Lowell (Durandal) 2013年05月12日 14:02

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>ユパ様、りょーかいですw
とはいえ、悲話ですんで・・・・・。
それでも期待に添えるようがんばりまつ。(`・ω・´)
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月13日 00:37

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>フィズさん、いよいよです。
なんかフィズさんのキャラって掴みドコロがよくわかんない時があるのw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月13日 00:40

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>マルスCEO、ありがとーです!
なるだけ早く書き上げますゆえ~。
よろしくお願いします!
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月13日 00:44

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